『「老年哲学」のすすめ』大橋健二著 老後を生き直すために

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 孤独死、老後破産、介護地獄……老後を脅す言葉が世にあふれている。国は老いても働けと言う。老人受難の時代、本書は新しい老後の生き方を力強く打ち出す提言の書である。

 今の社会を支配する「より強く、より早く、より大きく」という近代の価値観は男性的、若者的であり、病み衰え死にゆく老人の世界とは逆行する。そこに現代の老人の生きづらさの根源がある、と著者は喝破する。

 では死を敵視して排除しようとする西洋的な死生観に対して、死を自然の流れと見なし従容として受け入れる東洋的な死生観はどうか。それもまた自分だけで生を完結するという意味で男性的だという。

 著者が指し示すのは、自らの生と死を他者との関わりの中で考える「女性的な死生観」だ。そこでは、「いかに家族や社会の迷惑や世話にならないように生きるか」ではなく、他者に依存せざるを得ない「弱い個」である自身を受け入れたうえ、「いかに家族や社会に世話されるに値する人間になるか」が問われる。

 となれば、老後は「人生いかに生きるべきか」をあらためて考え、自らの人間的成長に努める「学び直し」「生き直し」に費やされねばならない。カント、ニーチェ、三木成夫、熊沢蕃山……著者は先哲の知恵を自在に活用し、そうした「老年哲学」の構築を提唱する。

 老年哲学の中核を担う「弱い個」の論理は、格差が広がり、引きこもりが増え、自殺者が絶えないこの社会にこそ必要だ。それは老人だけのものではない。

(花伝社 1700円+税)=片岡義博