レクサス RC F 試乗【後編】│V8ユニットは現代において大切にしなければいけない存在

レクサス RC F(北米版) グレード:パフォーマンスパッケージ/ボディカラー:ホワイトノーヴァガラスフレーク

最もスポーツ走行に適したドライビングモードで新型RC Fを試乗

2019年5月にマイナーチェンジが行われたレクサス 新型RC F。モータージャーナリストの山田弘樹氏が大幅に進化したベースグレードを富士スピードウェイで試乗した模様は前回お届けした通り。

後編の今回は、その上級グレードのインプレッションや、RCの公道試乗をお届けする!

レクサスのスポーツフラッグシップ「RC F」。その運動性能をさらに磨き上げたのが「パフォーマンスパッケージ」装着モデルである。

開発陣の狙いは、アンダーステアの抑制。「軽さ」と「空力バランス」の磨き上げによって、ノーズの入りを良くすることが最大の目的だという。

たった2周の走行とあって、選択するモードは最もスポーツ走行に適した「SPORT+」。トラクションコントロールスイッチも長押しして、これを切ることとした。

レクサス RC F グレード:パフォーマンスパッケージ/ボディカラー:ソニックチタニウム
レクサス RC F グレード:パフォーマンスパッケージ/ボディカラー:ソニックチタニウム

まずはアウトラップで感触を探る。基準車よりも手応えが確かで、かつしなやかにタイヤのグリップが立ち上がるのは、カーボン製ボンネットやセラミックカーボンブレーキディスクの採用による50kgもの軽量化が効いているのだという(ちなみに基準車であるRC Fも、従来より20kgの軽量化が果たされている)。

そしてダンパーは、この軽量化に合わせて減衰力を仕様変更している。

1コーナーは200mを切るあたりまで全開加速。速度は250km/hを超えていただろうか、ここからのフルブレーキングで、リアウイングを持つパフォーマンスパッケージは懸命にリアタイヤを押しつけながら安定性を保とうとする。

回り込んだ1コーナーでブレーキをリリースしながらステアリングを切って行くと、基準車よりも強いグリップ感を保ったまま、ハンドルを切り続けることができる。

確かにアンダーステアは減った! まだフロントタイヤだけで曲がろうとする感覚は強いが、それでもコンパクトに旋回し、短い時間で立ち上がり加速へと移行できるようになっている。

スライドやトラクションのかけ方を自分のものにして行ける

レクサス RC F グレード:パフォーマンスパッケージ/ボディカラー:ソニックチタニウム

RC Fの美点である、高速コーナーの運動性能はさらに高まった。

フロントの接地感が高く、サスペンションがしなやかに追従するため、富士スピードウェイでは一番チャレンジングなAコーナーを、意欲的に狙って行くことができる。ここでターンインが定まり、トラクションが素早く掛かると、100Rでも自信を持ってボトムまでアクセルを踏んで行くことができた。

細かく複合したコーナーが続くセクター3では、1コーナー同様にステアリングの舵が奥まで効く。そして立ち上がりで敢えてアクセルを多めに踏み込んでみると、最初はその速いスライドに戸惑いながらも、操作性が基準車よりも上がっていることを確認できた。そして慣れて行くほどに、スライドやトラクションのかけ方を自分のものにして行けるのが心地良かった。

ちなみに基準車のディファレンシャルは電子制御式のTVDであり、パフォーマンスパッケージのそれはトルセンLSDとなっている。

エアロダイナミクス的にはフロントスポイラーの両端で縦型のタービュランス(空気の渦流)を発生させホイールハウス内の空気を吸い出しながらフロントのダウンフォースを高めている。一見してリアウイングはアンダーステアの助長になりかねないのでは? と思うのだが、エンジニア氏によると前後の空力バランスを整え4輪の接地性を上げているのだという。

もう少しだけ前後のトレッドを広げてもいいのではないか?

レクサス RC F グレード:パフォーマンスパッケージ/ボディカラー:ソニックチタニウム

残念だったのは専用開発したミシュラン パイロットスポーツ4Sが、ドライ性能の向上に特化したせいかウェット路面では本来の性能を発揮し得なかったことだ。

具体的にはリアタイヤのコンパウンド(ゴム)が路面に食いつかず、横Gを高めた時点でパワーをかける前にスピンモードに入ってしまう。

ただこの結果から、RC Fはもう少しだけ前後のトレッドを広げてもいいのではないか? という印象も得られた。そうすることでタイヤ特性も元に戻せるし、よりFRらしい自然な旋回特性が得られるのではないか。

総じてパフォーマンスパッケージの走りは、RC Fの素性をそのまま素直に底上げしたものだと思えた。特別切れ味鋭いコーナリング特性を与えたりするのではなく、穏やかな運動特性のまま、その限界と限界時の操縦性を引き上げた仕様となっていた。

レクサス RC

マイチェンしたRCこそ理想的なレクサス製スポーツクーペではないか

ホットなサーキット試乗を終えると、FではないRCの試乗が待っていた。

そしてマイナーチェンジを受けたRCこそ、理想的なレクサス製のスポーツクーペではないか? と感じた。

レクサス RC350 “F SPORT” ボディカラー:ネープルスイエローコントラストレイヤリング│インテリアカラー:ブラック&アクセントマスタードイエロー
レクサス RC350 “F SPORT” ボディカラー:ネープルスイエローコントラストレイヤリング│インテリアカラー:ブラック&アクセントマスタードイエロー

3.5リッターのV型6気筒ユニット(318PS/380Nm)を搭載した「F SPORT」は、なにもかもがちょうどいい。5リッターV8のRC Fに乗った直後こそ加速感に物足りなさを感じてしまうが、スポーツモードで8速ATのギア比を駆使しながら元気に走らせれば、自然吸気の“V6サウンド”が荒々しくも心地良い。欧州勢のようなトルクの湧き上がりはないが、伸びやかなパワー感には踏み切れる楽しさがある。

そして何より、Fパッケージングながら乗り心地がなかなかにいい。まったりと路面をつかむサスペンションは穏やかながらも微少舵角から確実に反応し、上質なスポーツクーペのハンドリングだ。

そしてこの動きの素直さを味わうと、いかにこのシャシーでV8エンジンを搭載するのが難しいかがよく分かる。もしかしたらこのV6モデルにこそ、いやこのモデルにもパフォーマンスパッケージを用意したら良いのでは無いか? と思えてしまう。

レクサス RC300h “version L” ボディカラー:スパークリングメテオメタリック│インテリアカラー:オーカー
レクサス RC300h “version L” ボディカラー:スパークリングメテオメタリック│インテリアカラー:オーカー

そしてV6ユニットの瞬発的な加速レスポンスに物足りなさを感じるのであれば、「RC300h」のハイブリッド仕様がベストだと思えた。

直列4気筒ユニット(131PS/221Nm)はモーター(143PS/300Nm)とバッテリーの重量を僅かながらも相殺し、その車重はRC350の+70kg増(1740kg)に留まる。

タウンユースでこの重量差はモーターのトルクが巧みに補ってくれるから、加速感に不満はない。いやむしろゼロ発進からの出足や、アクセル踏み始めの追従性は、300hの方がリニアで、日常的なドライビングにタイムラグを感じさせない。

運転感覚は低重心な乗り味とノーズの軽さで、十分スポーティクーペの役目を果たす。そして当然ながら、ハイブリッドとしての静かな走りを約束する。アクセルを踏み込んでしまえば4気筒サウンドが炸裂するのはご愛敬だ。

よってRC300hは、オープンロードにおけるRCの魅力、「カッコ良さ」と「素直な運転特性」を満喫するには、ベストな選択ではないかと感じた。

LCよりも細身で小振りだけれど、エッジの効いたシルエットはスポーティ。どちらを選ぶかは予算だけでなく、パーソナリティによると思う。そういう意味で、レクサスは実に贅沢なスポーツクーペラインナップを揃えていると言えるだろう。

RC FのV8ユニットは大切にしなければいけない存在

レクサス RC350 “F SPORT” ボディカラー:ネープルスイエローコントラストレイヤリング│インテリアカラー:ブラック&アクセントマスタードイエロー

今回通常のRCに試乗できたことで、ひとつのことが理解できた。

つまりそれだけRC Fに積まれるV8ユニットは、トヨタにとっても大切な存在なのだ。また実際に、ターボ車ばかりとなった現代においてこのユニットが生き残ってくれていることを思うと、大切にしなければいけない存在だと思える。

だからこそRC Fに限っては、トレッドを広げるなど、もっと大胆で抜本的なエボリューションを施してもよいのではないかと感じた。

これだけ利便性が高くカッコ良いスポーツクーペが日本にあるのは嬉しいことだ。ここから着実に、その歴史を重ねて行って欲しいと思う。

[筆者:山田 弘樹/撮影:和田 清志]

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