WRC:ラリー転向4年で最上位クラスデビューの勝田貴元「ようやくスタートラインの一歩手前」

 トヨタ・ヤリスWRCによる、勝田貴元のWRC世界ラリー選手権参戦プログラムが6月28日、ついに発表された。本来はフォード・フィエスタR5で出場する予定だった8月の(第10戦)ドイツと10月の(第13戦)スペインのWRC2戦に、4台目のヤリスWRCで出場することになったのだ。そこで貴元に急きょ連絡をとり、その経緯と決意について語ってもらった。

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 WRカーで出ることになったと初めて伝えられたのは、6月のWRC(第7戦)ポルトガルの後、フィンランドに戻り、トミ・マキネン・レーシングでミーティングをしたときです。

 まず、今季の参戦計画を変更すると言われ、「えっ、僕たち何か間違ったことをしてしまったかな?」と不安な気持ちになりました。最近は悪くない内容のラリーが続いていたのに、と。

 しかし、話を聞いていくうちに、「実は、WRCドイツとスペインでヤリスWRCに乗せようと考えている」とトミに言われてビックリ。正直、うれしさよりも驚きのほうが大きかったですね。「えっ? ドイツなんだ。そこでもう乗せちゃうんですか?」と、最初はなんだか他人事みたいな感じがしました(笑)。

 トミからは、「たしかにR5カーで経験を積むのも大事だけど、WRカーはまったく別のものだし、少しでも早くWRCで(WRカーに)乗り、その感覚を身につけておいたほうがいい」と理由を説明されました。

いずれWRカーに乗ってその難しさを味わうのだから、誰もが早すぎると思ういま、まわりからのプレッシャーが少ない状態で乗って経験を積んだほうがいいだろうと、僕のことを考えてくれての決定だったようです。

勝田貴元はフィンランド国内選手権でトヨタ・ヤリスWRCをドライブしている

 5月にフィンランド国内選手権のリーヒマキ・ラリーにヤリスWRCで出場したとき、(TGR WRTテストドライバー兼貴元のドライビングコーチである)ユホ(ハンニネン)さんがずっと走りを見てくれていたのですが、ドライビングに関しては何も問題ないとトミに報告してくれたようです。

 トミからは、リーヒマキの高速グラベルステージで、ヒュンダイi20クーペWRCで出場したヤリ・フッツネン選手と競って勝ったことと、ポルトガルでのWRC2でのパフォーマンスが良かったことが決め手になったと言われました。

 ドイツは、ケルンのTMGとニュルブルクリンクに行ったことがあるくらいで、ラリーは見たことも、出たこともありません。スペインに関してはいままでに2回出ていますが、いずれもデイ1で消えていますし、唯一のミックスラリーなので、僕にとってはかなりチャレンジングな1戦です。同時に両方の路面の経験を詰めるというメリットもあります。

 いずれにせよ、いまの経験値で最初から結果を求めるのは無理だと思うので、割り切って考えて出場しないと、WRカーで出る本当の意味を見失ってしまうと思います。ミーティングでも話し合ったのですが、あまりタイムや結果を追わず、しっかりと経験を積むことが重要だと思います。WRカーで走ることができるというのはものすごく大きな経験になると思うので、本当に感謝しています。

 ラリーを始めて4年が経ち、ようやくスタートラインの一歩手前まで来ました。これからが本当に厳しい世界だと覚悟していますし、WRカーに乗るこれからは常に大きな挑戦となります。僕ひとりの力ではできないことも多くなってくると思いますので、チャレンジに共感してくれる方がいらっしゃって、もしスポンサーさんとしても支えていただけたら本当にうれしいです。

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 WRカーでの初戦が、WRCきってのトリッキーなターマックラリーである難関ドイツというのは、貴元の経験値を考えると、かなりハードルが高い。しかし、与えられたチャンスをきちんと活かすことができれば、道はさらにひらけるだろう。8月のドイツで、貴元がヤリスWRCをどのように走らせるのか、非常に興味深い。

6月のラリー・イタリアで、貴元はトヨタのサービスを訪れ、多くの関係者と話をしていたが、このときすでにヤリスWRCで出る話が決まっていたことになる

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