涙をそそぐ雨

 乗用車をきれいにしてくれる雨、と字面のままに取ってしまうが、「洗車雨(せんしゃう)」とは陰暦7月6日に降る雨を言うらしい。牽牛(けんぎゅう)は織女に会うため牛車(ぎっしゃ)を洗う。その水が雨になって降ると言い伝えられている▲翌7日、七夕の雨は「洒涙雨(さいるいう)」、涙を洒(そそ)ぐ雨と言う。再会した2人が別れを惜しんで、または再会できずに悲しんで、天から涙が降るのだと「雨のことば辞典」(講談社学術文庫)にある▲旧暦の七夕は、今の暦だと8月に当たる。雨の少ない頃だが、古人が見上げた星祭りの雨空は、喜びも悲しみも情趣たっぷりに映したことだろう▲新暦の七夕は梅雨のさなかに巡ってくる。近年とりわけ、この時期の雨は情趣が漂うどころか、情け容赦のかけらもない。おととしは九州北部豪雨が起きた。昨年は西日本豪雨があり、自宅に戻れず仮住まいをする人は今も1万人いる▲今年は九州南部を記録的大雨が襲った。土砂災害は鹿児島県で実に40件を超え、危うい状態がまだ続く。梅雨前線は今月中旬まで九州南部を横切る形で停滞するとみられ、気が抜けない▲起きたばかりの災害に加え、あれから1年、あれから2年と、被災地の厳しい「今」も伝わってくる。悲痛の雨、「洒涙雨」という言葉が胸に重い。仮住まいに終わりを、列島に安全を。七夕の願い事なら山とある。(徹)

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