私は学生時代に「フィンランドの教育」に興味をもって、計4ヶ月掛けて10校の小学校を訪れてきました。しかし、Webメディアの「フィンランド教育」に関する記事を読んでみると、間違った情報がまん延しているようです。
これまでの【世界を旅しながらその土地の学校に飛び込んでみた】はこちら
フィンランドの小学校には本当に宿題もテストもないのか
私がそもそもフィンランドの教育に興味をもった理由は、このような内容のWebメディアの記事を見かけたからです。
「宿題もテストもないのに、フィンランドは学力が世界一である」
こんな夢のような教育制度をもつ国があるのか、と興味をもちました。同時に「本当に宿題もテストもないのだろうか?」という疑問も抱きました。
その実態を確かめるべくフィンランドに行った結果、驚くべきことに私が訪れた10の小学校すべてで宿題もテストも存在しました。この事例をもとに「なぜこのように誤った情報が出回るのか?」という原因と「どのように正しい情報を掴むべきか?」という情報リテラシーの身につけ方について考えます。
なぜ情報が間違って語られるのか?
フィンランドの例に限らず、各種メディアの中でもとりわけ「Webメディア」は誤った情報が多いと感じます。大きな原因としては2つ考えられます。
とにかく閲覧者数を増やそうとするメディアの存在
営利目的で運営されているメディアでは、個人が書くブログでも企業が編集するWebメディアでも、基本的には「閲覧者数が多いほど収益が上がる」という構図があります。視聴率の高い番組ほどスポンサー料が高くなるのと同じ構図です。
嘘のない正しい情報を届けようと運営されているメディアはたくさんあります。一方で、閲覧者数を少しでも増やすために、誇張表現をしたりキャッチーなタイトルをつけたりするメディアも少なくはありません。
たとえば「フィンランドではテストがない」といったタイトルの記事はWeb上にたくさんあります。しかしフィンランドが発表している情報によると、正しくは「フィンランドでは基礎教育期間内の全国統一テストはない」ということです。国が定める統一のテストはなくても、現場の先生が決めるテストは存在するのです。
しかし、以下のWebメディアのタイトル、どちらのほうに興味がわくでしょうか。
「基礎教育期間内の全国統一テストはないけど、学力が高いフィンランド」
「テストがないけど、学力が高いフィンランド」
この2つのタイトルが並んでいた場合、思わずクリックしてしまうのは後者ではないでしょうか?このように発信者の都合で、情報は変更されたり短絡化されたりすることがあります。
統計リテラシーの欠如
発信者に悪気がなくても、誤った情報が発信されるケースがあります。たとえば、以下のような情報が発信されてしまうことがあります。
事実:フィンランドの学校で生徒にインタビューした結果、宿題がないと答えられた。
結論:フィンランドでは宿題がない
これには大きな問題があります。それは「一部」と「全体」を区別できていないこと。数学の世界では「統計」の範囲に当たる概念です。
「ある高校の、ある生徒が、宿題を出されたことがない」というのが事実だとしても、
- 担任の異なる隣のクラスではどうか?
- 別の都市の高校ではどうか?
- あるいは、小学校の場合はどうか?
といったことが、このインタビューだけではわからないはずです。
大学教授やプロの調査員は、統計リテラシーが高いため、情報発信の際にこのようなミスはあまりありません。一方で、ブログやSNSのようメディアでは、素人でも情報発信ができます。統計リテラシーが足りないために、「一部」と「全体」の区別ができていない情報が発信されていることも少なくないのです。
正しい情報リテラシーの身につけ方
メディアの情報を鵜呑みにしない。発信者についても調べる
メディアを作っているのは「人」です。人間だからこそ、ミスもあれば勘違いもあれば、特別な思惑だってあるかもしれません。情報をすべて鵜呑みにしてはいけません。
そして「人」が作っているからこそ、著者やライターがどのような人かチェックすることも大切です。
「フィンランド教育」に関わるWeb上の記事を読んでいても、言動から察するに「おそらくフィンランドに行ったことすらないであろう人」がフィンランド教育について解説しているような記事だって数多く存在します。
私自身も、たかだか4ヶ月しかフィンランドに滞在していないので、知識も経験もまだまだです。だからこそ、私もフィンランド教育にまつわるメディアからは幅広く学んでいます。私が一番オススメするフィンランド教育についてのメディアはこちらの書籍です。
『フィンランドの教育力 なぜ、PISAで学力世界一になったのか』
著者:リッカ・パッカラ
リッカさんは、長年フィンランドで小学校教師をしていたフィンランド人です。日本人が数カ月滞在したぐらいではわからないような細かな点まで、フィンランド教育について深く書かれています。
統計リテラシーを身につける
大学レベルの統計学を身につけるとなると長い勉強になりますが、難しい数式を扱わなくても役に立つ統計リテラシーはたくさんあります。たとえば、以下の書籍から1つ例を紹介しましょう。
『統計学が最強の学問である』
著者:西内 啓
<次の食べ物を禁止すべきか考えてみましょう>
- 心筋梗塞で死亡した日本人の95%以上が生前ずっとこの食べ物を食べていた。
- 強盗や殺人などの凶悪犯の70%以上が犯行の24時間以内にこの食べ物を口にしている。
- 日本人に摂取を禁止すると、精神的なストレス状態が見られることもある。
- 江戸時代以降日本で起こった暴動のほとんどは、この食べ物が原因である。
ーー西内 啓『統計学が最強の学問である』より引用
この食べ物は禁止するべきでしょうか?実はこの食べ物の答えは「ごはん(お米)」なんです。正しく「論理」を考える力が不足すると、この事実から「ごはんは危ない食べ物だから、禁止するべきだ」などとばかげた結論を出してしまうと、西内さんは警鐘を鳴らしています。統計の初心者にも学習書としてオススメです。
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