第27回「白昼夢というパラレルワールドにいるときの孤愁感」

現実、くっきりしていますか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。

先日、7月31日に皓星社さんから発売となる2冊目の書籍『伝説にならないで』の表紙が公開、Amazonでもご予約が開始になりました。「詩集」ジャンルでの予約ランキングで2位をいただき、いつか、いつかでいいから自分の言葉に対しても「ハロー」って言ってあげられるようになれたらいいなと思います。推薦文は、スピッツの草野マサムネさん、ドリアン助川さんが書いてくださいました。どちらも、1冊目の書籍を通してご縁のあった方で、ほんとうに感謝しております。おふたりにお願いをさせていただいたきっかけについては後日また書かせていただく予定です。

ところで、白昼夢をよく見ます。…いや、白昼夢の状態によく入ります、と言ったほうがぴったりくるかもしれません。現実のわたしは仕事をしたり、誰かの話を熱心に聞きながらも、頭の半分では別のことを考え、そのもう半分では記憶の中の世界にいることが多いです。

いわゆる、「心ここにあらず」状態。

しかも、たちのわるいことに、その白昼夢状態でも一応話もそこそこ聞いているので、なんだかいいタイミングで相槌ができてしまうのです。「ああ、そうなんですね」「それでどうなったんですか」。興味のあるような顔で、熱心なふりをして、意識の半分がここにいないというのに。

じゃあ、“ここにあらず”のほうのわたしはどこにいるかというと……

この前は、子どものころ近所にあったホームセンターを眺めていました。その店舗は地方都市にあるような、チェーン展開をしていないホームセンター。店頭には日焼けをした洗剤や芳香剤が並び、特売品の缶ジュースやお菓子が箱買いできます。そのうえ、幼児向けの玩具つきお菓子や、ちょっとしたおもちゃも並んでいて、子どもながらになんとなく楽しい場所だなと思っていました。

ホームセンターは何度か名前を変えて、今はすっかりしまむら系列のショッピングモールになっています。今となっては、当時のお店の名前はぜんぜん思い出せません。どの店名の時代にも行ったことがあるはずなのに、ひとつも思い出せない。検索をしてみても出てこない。でもお店の外観や、中の様子ははっきり思い出せます。

「わー、なるほどー」と、また適当な相槌をしながら、なんだかさみしくなりました。懐古厨じゃないはずなのに、ときどき昔に戻りたくなります。

わたしは昔から、耳からの情報、つまり聴覚としての情報を処理することが苦手なので、ドラマを見てセリフを聞くよりも本で読んだほうが理解ができます。そもそもドラマは、表情や背景で起こっていることは空気を読んで、自ら進んで情景をすくいとらないといけません。見ているうちに、「これは誰だっけ?」「この人はなんで黙っていたの?」「そんなこと起こっていたっけ?」など、物語についていけなくなります。情緒のある余白はいらないよ、と思って空気を読み取れない自分がむなしくなります。

そう。白昼夢状態になるときは、なにかを聞いているときが多いみたいです。

そして、ぼんやりと過去に自分が見た世界を探索しては、寂しくなったり悲しい気持ちになって、またなにかの拍子にハッと現実に対して正気に戻ります。…あれ、よく考えてみると、白昼夢であの世界に一人で戻ったとして、大人になってやっとできた友だちもいないし、解放されたはずの血縁のしがらみに戻されるし、なによりタピオカもない。やだ、今がいい、過去になんて全然戻りたくない!

そして、「今、わたしと会話をしてくれているんですよね!? 現実最高! マジで現実ありがとうございます!!! 」と讃えたい気持ちになります。それまで話半分で聞いていたくせに、まったく都合のいい性格です。

梅雨という時期的にヤバい情緒や、自分は世界でいちばん無能だと思ってしまう認知の歪みや、言い争いや勝負ごとからは遠いパラレルワールドで暮らしていたいので、「あー、嫌だなあ」と思うことは、パールレディで黒糖タピオカを2倍にしてニギニギと噛みくだいて、正気の自分を保ちたいものです。

それにしても心ここにあらず状態の終了タイミングって、なにがきっかけなんだろう。

Aico Narumiya Profile

朗読詩人。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。2017年に書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』刊行(書肆侃侃房)。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。ニュースサイト『TABLO』『EX大衆web』でも連載中。2019年7月、詩集『伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている』刊行(皓星社)。

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