黒船ならぬGreen Shipの船出 #BrandsforGood で企業の力を示せ G☆Local Eco!

(2019年6月 筆者撮影)

#BrandsforGood とは何か?

6月にデトロイトで開催されたサステナブル・ブランド国際会議(以下、SB)は、”the Good Life”をテーマに掲げて3年目の最終年を迎えた。今年は”Delivering the Good Life”、つまり「グッド・ライフの実現」がテーマであった。

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もちろんその実現について個々の企業の取り組みがさまざまに紹介されたのであるが、最もインパクトがあったのが、#BrandsforGood のイニシアティブ(主導権を握る進取の取り組み)が発表されたことだろう。

P&G、ネスレ・ウォーターズ、ペプシコといった消費財メーカーから、小売のターゲット、ビジネスソリューションのソフトウエアを提供するSAP、 クレジット決済サービスのVISA、広告代理店の電通イージス、そして1888年創刊の世界的ビジュアル・マガジン『ナショナル・ジオグラフィック』などが、ソーシャル・イノベーションを引き起こすべく、業界や部門の壁を乗り越えたまさにCollective Impact(集合的衝撃)が始まった(https://jfra.jp/fundraisingjournal/1519/)。グリーンな社会へ向けて船が出港しようとし始めたのだ。

P&Gのチーフ・ブランド・オフィサーのマーク・プリチャード氏は、「毎日、人が触れる製品をつくっている我々のブランドだからこそ、皆でインパクトを与えることができる。これまでのゼロサムゲームやウィンルーズ(勝ち負け)ではなく、一緒の船に乗ることで大きなインパクトを早くもたらすことができる」と断言した。

ネスレ・ウォーターズのチーフ・マーケティング・オフィサーのユミ・クリベンジャー氏は「2022年までにアメリカ初のリサイクル・プラスチック飲料メーカーになる。そのためには、左脳的なロジックでリサイクルのプロセスやインフラを考えるだけではなく、これからはコミュニケーションで消費者の右脳の感性を刺激し、リサイクルを意識的に選択させる必要がある」という。

ナショナル・ジオグラフィックの副社長のエマニュエル・マデドゥ氏は「この10年で読者の意識は大きく変わった。これまでは探検家や写真家の目を通して『世界を知るだけ』だったが、ここ数年で具体的な寄付の援助や人々を世界の現場に導くなど『読者が何をできるか?』に変わってきた」という。

サステナビリティへの意欲的な取り組みへのコンテクスト転換

SBは2006年に始まったが、創業者のコーアン氏は一貫して「ルールや規制の押し付けではなく、サステナブルな社会をワクワクしながらつくって行くべきだ」と主張してきた。日本での会議は、講演を聴講するだけの受動的な会議がほとんどだが、SBは参加者の主体性こそがベースにあり、講演や対談、ワークショップなど多彩なメニューが用意されている。サステナブルな社会の実現へ向けて「なぜ?」「どうやって?」「何を?」という問題意識が参加者にはあふれている。

筆者がSBに参加したのは2011年。その後、SBを日本で開催しようと色々な企業に協力を求めて訪ね歩いたが「わが社なりにCSRをやっているが他所で披露するようなものではない」「日本には三方よしがあり、陰徳を積むという言葉がある」「サステナビリティなんて言葉がわからない」「そもそも消費大国のアメリカがサステナビリティなんて実現できるのか」という冷淡な反応が多かった。

一方、アメリカでは、今回のような#BrandsforGoodという個々の取り組み(Isolated Impact)を超えた超領域の取り組みが始まった。しかも、参加表明した企業を見れば6−7兆円の売上高の大手企業が揃っている。その彼らが「ブランド(企業)」「市民」「代理店」「インフルエンサー」 を巻き込んで、その世界を実現していくのだという。マスメディアだけではなく、SNSなどによる共感こそが社会を変えていくのだという。SBの別の発表では「大企業なしでも大きなことができるのだ」と、#MeToo運動を引き合いに出す大企業もあったほど。

(2019年6月 筆者撮影)

また、イニシアティブという言葉にも注目したい。これを聞くとStructural Impediments Initiative(構造的障害のイニシアティブ)を思い出す。1989年より日米においては日米構造協議が開催され、日米貿易不均衡の是正がアメリカ主導で行われてきた。建設、農業、流通と日本のあらゆる業界においてアメリカ企業が参入しやすい条件変更が迫られたのだ。イニシアティブの言葉通り、事実上の主導権はアメリカにあったというべきだが、その日本語訳は「日米構造協議」となり、一見中立公平に思えるような、辞書にもない訳語が当てられた。

今回は民間主導であり日米政府間の取り組みではないが、イニシアティブという進取的で意欲的な取り組みであることは間違いない。例えば、これまでのSBでも度々、7割の消費者がエコ商品に購買意向(Intent)を持ちながらも、実際に購入(Action)するのは3割しかいないという調査結果が報告されてきた。日本でも多くのビジネスパーソンからも「サステナビリティと言っても実際はそんなに売れるものじゃないのです」という声をよく聞く。

しかし今回のSBでは、この事実に対する企業の取り組み姿勢は全く違った。前述のマーク・プリチャード氏は「だからこそこのギャップを埋めるべく、購買動機に繋がるようなコミュニケーションや買いやすさという課題解決をブランド(企業)が仕掛けなければならない」と取り組みのコンテクスト転換を図ってきている。

この取り組みに参画することで、サステナブル・ブランドのロードマップを利用することができるという。具体的内容は非公開ではあるが、参加企業同士でその概念の理解から真のサステナビリティ企業まで段階的に進捗を確認しながら、連携して展開していくというプログラムのようである(https://sbbrandsforgood.com/)。

「サステナビリティ」は、気候変動への挑戦や脱プラスティックなど地球的課題への人類の挑戦、果敢に取り組むべき課題として加速度的にギアを踏み込むこととなった。このGreen Shipはもはや引き下がることはあるまい。

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