政治への視線 2019参院選 長崎・1 <年金>貯金なく生活困窮

自宅で年金の書類を確認する福田さん=諫早市

 4日に公示された参院選。各政党や候補者が舌戦を繰り広げているが、日常生活や将来にさまざまな不安を抱える県内の有権者は政治にどのような視線を注いでいるのか。年金、改憲、地方創生などをテーマに取材した。

 長崎県諫早市の無職、福田清光さん(72)は築50年の古い自宅で一人で暮らしている。独身。子どもはいない。62歳で肺気腫を患い、仕事もできず、携帯用酸素ボンベが手放せない生活になった。年金と生活保護を合わせた月額約6万3千円の収入が、福田さんの「命」をつないでいる。

 光熱費や携帯料金などを差し引けば、手元に残る金額はわずか。食費は1日1500円に切り詰めているが、1日1食の時もある。「豆腐をつまみにして、安いウイスキーを飲むのが唯一の楽しみ。好物のちゃんぽんは数カ月に1回しか食べに行けない」。福田さんは寂しそうに話す。

 医療・福祉の発達で平均寿命が伸び、日本人の「老後」はかつてなく長くなった。老後の生活を支える柱が国民年金や厚生年金などの公的年金制度だが、少子高齢化でその土台は大きく揺らいでいる。そんな中、金融庁の審議会が6月、老後資産として夫婦で約2千万円が必要とした報告書が波紋を広げた。

 報告書は、老後に備え、現役時代から資産形成をする「自助」を促す内容だったが、「国民の不安」をあおったとして事実上の撤回に追い込まれた。年金を受けている人は全国で約4077万人。多くの人が年金頼みで細々と暮らしている可能性がある。福田さんもその一人だ。

 「中学を卒業して大工になった。親の借金を肩代わりしたりして都会に出稼ぎにも行った。毎日生きるのに精いっぱいで貯金なんてできんやった。裕福な人はいい。でも私らのような人間のことを国はどう思うとるのか」。福田さんはゼーゼーと息を荒くしながら、そう訴えた。
    ◆
 制度の担い手である現役世代も不安と不満を抱えている。長崎県大村市の鍼灸(しんきゅう)師、高本裕歩さん(41)は「そもそも年金制度がずっと維持できると思っていない。制度の今後を考えれば、金融庁の報告書も引っ込めるべきではなかった」とシビアな見方を示す。

 就職氷河期世代。専門学校卒業後、東京のアニメ制作会社で働いたが、過酷な勤務で心身のバランスを崩して退職。30代半ばで鍼灸師の資格を取り、一昨年、地元で開業した。両親のサポートを受け生活は何とか成り立っているが、体調面の不安もあって将来の暮らしは見通せない。

 参院選で各政党は年金の在り方についてさまざまな主張を展開しているが、高本さんはどれも「小手先」だと感じる。「自分たちが高齢者になった時に配られるパイ(年金)があるなんて期待していない。でもせめて、若い世代の将来のためにも、選挙目当ての話ではなく、現実的で本音の議論をしてほしい」

© 株式会社長崎新聞社