野手はヤクルト中村、投手は中日柳が出色の好成績…セイバー目線で選ぶ6月月間MVP【セ編】

中日・柳裕也【写真:荒川祐史】

野手で候補となるのは中村の他、阪神糸井、DeNA神里の3人

 交流戦があったということで、ほぼ対パ・リーグとの対戦成績となっている6月のセ・リーグ各チーム成績は以下の通りです。

巨人 15勝7敗 打率.254 OPS.750 本塁打28 防御率3.14
DeNA 13勝8敗 打率.252 OPS.748 本塁打29 防御率3.30
中日 10勝12敗 打率.252 OPS.670 本塁打 8 防御率4.02
阪神 7勝13敗 打率.249 OPS.653 本塁打11 防御率3.34
ヤクルト 7勝15敗 打率.234 OPS.694 本塁打23 防御率4.86
広島 6勝15敗 打率.228 OPS.644 本塁打18 防御率4.09

 例年パ・リーグ優位とされている交流戦ですが、今年もセ・リーグは46勝58敗と負け越してしまいました。そんな中、巨人は5カードで勝ち越し、6月の勝ち越しが8となりリーグ首位を奪還しました。また最大11の借金があったDeNAも交流戦4カードで勝ち越し、6月末で借金1にまで回復しました。ちなみに、ヤクルトの16連敗初日となった5月14日以降の成績を見ると

ヤクルト 7勝30敗 勝率.189
DeNA 22勝12敗 勝率.647(6月30日まで)

 と対照的です。勝率.647は昨年パ・リーグを制した西武の勝率.624よりも高くなっています。5月は20勝4敗とまさに鯉の季節に急浮上した広島でしたが、6月はパ・リーグ相手に5カードで負け越し。月間最下位となってしまいました。そんなセ・リーグの月間MVPは7月9日に発表される予定です。

 月間MVPの選出基準は原則NPB公式記録が用いられます。ただ打点や勝利数といった公式記録はセイバーメトリクスでは、個人の能力を如実に反映する指標として扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあることでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による6月の月間MVP選出を試みます。

〇6月月間MVP セ・リーグ打者部門

中村悠平(ヤクルト)
OPS.934 wOBA0.421 RC27 8.72 出塁率0.482 出塁率0.500
(すべてリーグ1位)

 公式による今月の月間MVP候補選手は10名ですが、セイバーメトリクス指標による有力候補はこの3人に絞られます。

○中村悠平
打率.340 18安打 本塁打0 打点3 得点圏打率.385 四死球16 三振7

○糸井嘉男
打率.354 28安打 本塁打1 打点10 得点圏打率.588 四死球14 三振6

○神里和毅
打率.320 31安打 本塁打2 打点8 得点圏打率.278 四死球6 三振19

本塁打と打点でトップのソトは打率.188と低く、候補にはならず

 通例なら本塁打や打点のトップが有力候補に名を連ねるところでしょうが、月間本塁打8本、打点17の2冠であるソトの打率は.188。月間16安打のうち半分の8本が本塁打という極端な打撃ぶりでした。出塁率も.247と低調なため候補には挙げておりません。

 月間首位打者と得点圏打率トップという成績が評価され、公式の月間MVPの最有力候補は糸井となりそうです。ではセイバーメトリクスの指標による評価を見てみましょう。

○中村悠平
OPS.934 出塁率.500 長打率.434 wOBA.421 RC27 8.72

○糸井嘉男
OPS.913 出塁率.457 長打率.456 wOBA.404 RC27 8.58

○神里和毅
OPS.885 出塁率.359 長打率.526 wOBA.385 RC27 6.72

 出塁率と長打率を足して評価するOPS、各プレーの特典価値を累積して算出するwOBA、選手の得点創出能力を測るRC27といったセイバーメトリクスの指標によると、中村悠平がすべての指標で月間1位となりました。よって6月の月間MVP打者部門は中村悠平と言えるでしょう。

 もともとO-swing%が20%以下と選球眼がよく、空振り率も6%程度とかなり少ない部類に入る中村悠平ですが、6月の出塁率が5割を記録。シーズン通算でも.375でこれはリーグ8位の成績です(7月7日現在)。捕手としては、かなり優秀だと言えるでしょう。交流戦における中村悠平の球団別成績を見ますとかなり極端な結果になっています。

対楽天 打率.400 出塁率.625 OPS1.625
対西武 打率.556 出塁率.692 OPS1.248
対日本ハム 打率.500 出塁率.571 OPS1.071
対ロッテ 打率.333 出塁率.400 OPS.844
対オリックス 打率.200 出塁率.500 OPS.700
対ソフトバンク 打率.100 出塁率.182 OPS.382

 楽天、西武、日本ハムに対してはOPSが1を超えています。またオリックス戦では打率は2割ですが出塁率が5割と四死球で貢献しています。ただソフトバンクには10打数1安打1四球と押さえ込まれました。なお、今年のセ・リーグでは阪神の梅野隆太郎が打率.270(リーグ16位)、OPS.741、規定打席に達してはいませんが広島の會澤翼が打率.275、OPS.836と打撃成績を残しています。

 ここ数年のセ・リーグのキャッチャーの平均打撃成績は

2015年 打率.224 OPS.594
2016年 打率.220 OPS.592
2017年 打率.223 OPS.607
2018年 打率.219 OPS.612

 と他のポジションに比べて低迷していたのですが、今年に入っては

2019年 打率 .248  OPS .694

 と大幅に改善しています。実はこれ、セ・リーグのショートの平均打率.245、平均OPS.675を上回っています。

勝利数や防御率などは山口が上だが、セイバー指標では柳に軍配

〇6月月間MVP セ・リーグ投手部門
柳裕也(中日)
登板4 3勝0敗
QS率100% FIP1.83 RSAA7.41 K/BB8.5(すべてリーグ1位)
防御率0.87 WHIP0.90(リーグ2位)奪三振率9.87 被打率0.214

 候補選手は8名。その中でも有力なのはこの3投手です。

○柳裕也
登板4 3勝0敗 完投1 防御率0.87 奪三振34 奪三振率 9.87 被打率.214

○山口俊
登板5 4勝0敗 防御率0.77 奪三振38 奪三振率9.77 被打率.172

○上茶谷大河
登板4 2勝0敗 完封1 防御率1.32 奪三振23 奪三振率7.57 被打率.189

 勝利数、防御率、奪三振数、被打率がリーグ1位である山口俊が公式の月間MVPを獲得する可能性が高そうです。また上茶谷大河がルーキーとして完封一番乗りを果たすなどの活躍を見せました。もしNPBに月間最優秀新人賞があるなら確実に受賞ものでしょう。

 ではセイバーメトリクスの視点での評価を見てみましょう。

○柳裕也
FIP1.83 WHIP0.90 QS率100% HQS率100% K/BB8.50 RSAA7.41

○山口俊
FIP2.43 WHIP0.91 QS率100% HQS率80% K/BB3.80 RSAA6.02

○上茶谷大河
FIP2.68 WHIP0.91 QS率75% HQS率50% K/BB3.29 RSAA3.95

被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIP、6回以上登板で自責点3以内に抑えた割合を示すクオリティスタート(QS)率、7回以上登板で自責点2以内に抑えた割合を示すハイクオリティスタート(HQS)率、与四球に対する奪三振の割合を示すK/BB、そして平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標である

RSAA=(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9

など各部門において、柳裕也の指標はリーグ1位を示しています。特にQSだけでなく、HQSも登板4試合全てで達成というのは出色の成績です。また月間四死球5もかなり少なく、山口俊の14と大きな差になりました。ちなみに1イニングあたり許したランナーの平均数を示すWHIPの月間1位は石川雅規の0.79でした。

ハーラートップタイの9勝、QS率73.3%の安定感を誇る柳ですが、昨年との違いが数字上で見られるのはスライダー。昨年のスライダー被打率が.316に対し、今年の被打率は.212と大きく改善しています。ドラフト1位で入団から3年目にして中日先発投手陣の中核を担い、パ・リーグ相手に安定の投球を披露した柳が6月の月間MVPに相応しいと言えるでしょう。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
6月26日(水)誕生日イベント「セイバー語リクスナイト3.5」
7月14日(日)プロ野球トークイベント「セイバー語リクスナイト4」開催決定

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