【世界から】なぜ、爆発的ブーム? 中国の新型書店

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北京郊外にあるアジア最大級モール「LIVAT」内にある「言几又書店」は、北京でも最大級となる2フロア3000平方メートルもの規模を誇る。店内には皮や陶器のクラフト店も。週末は親子連れも多いが、カフェスペースは平日はまるで自由な形態で働くSOHO(仕事場兼住居)の「ワークスペース」のようだ=斎藤淳子撮影

 「このモールにもまた、こんなにおしゃれな書店ができた!」。2016年ごろから北京の街ではまるで雨後のたけのこのようにおしゃれな書店が次々と現れている。なぜ、中国では街の本屋がこんなに急速に増えているのだろうか? 中国の本屋ブームを北京からリポートする。

 ▼猛烈に増えるしゃれた書店

 近年、北京にある主要な複合商業施設(モール)21カ所のうち、18カ所に「西西弗書店」、「言几又書店」、「中信書店」、「単向空間」、「Page One」などおしゃれな書店が続々開店している。その中で「西西弗書店」は最も勢いが良く、北京で17年に1号店をオープンするとわずか2年半で20店舗まで増やした。その間、全国では130店以上を新規開店し、現時点では200店を数える。ちなみに同店は最近、夏目漱石の「我是猫(吾輩は猫である)」のキャンペーン中で、全国200店以上に漱石の本が平積みになって売られている。

  また、四川省成都市生まれの「言几又書店」は14年に北京に進出後、これまでに8店を展開。目下、国内の14都市に計59店を持つが、23年までにはその数を500店にすると鼻息は荒い。両店とも数年前には北京で名前さえ聞いたことが無かった新参者だ。変化において「中国スピード」はすさまじい。

  そもそも、本屋は受難時代ではなかったのだろうか? 中国図書モニタリング最大手、「北京開巻(OpenBook)」の蒋晞亮会長によると、約20年前に第1期民営書店ブームがあり、現在は第2期の書店ブームを迎えているという。そうはいっても、ネット書店によるリアル書店への打撃は中国でも大きく、08年ごろから13年ごろに掛けては倒産が相次いだ。「今や本の販売だけでは、書店の維持は困難」というのが業界の常識らしい。

  変化が表れるようになるのは11年ごろから。台湾の「誠品書店」や日本の「蔦屋書店」などが先んじる形で「融合型」の書店を誕生させたことで、これまでは見られなかった形態のいわば「新型書店」が中国で広がる波を生むきっかけとなったのだ。中国でもほぼ同時期に広東省広州市で「方所書店」がオープン。北の北京では一足遅れて16年ごろからブームの影響が顕著になってきた。

  融合型書店は日本ではすでにおなじみとなっているが、書籍にカフェや文具、しゃれた雑貨などの「モノ」とイベントなどの「コト」を総合的に扱う新種の文化サービス店舗のことだ。

▼書店ブームに火をつけたのは誰?

 次に中国で急速に融合型書店が増えた原因を探ってみよう。実は中国政府は「全国閲読」キャンペーンを掲げ、16年から「実体書店」支援としてテナント代の補助や税の優遇などの支援策を全国レベルで展開している。

  その影響で、実施を任せられた全国各地の地方政府は競い合うように個性的な書店を開店。上海の「新華社書店」は安藤忠雄氏設計の天井まで伸びる圧巻の書棚で有名だし、北京の若者でにぎわう一等地・三里屯にある「三聯書店」は24時間営業だ。店舗は無料で政府が提供している。安徽省合肥市の「新華社書店」では全国初の「シェア書店」制を導入し、東野圭吾著の「ナミヤ雑貨店の奇蹟」が一度に400冊以上も貸し出されたこともあるという。

 このように、政府の音頭で「読書奨励、書店は支持されるべき」と言う社会的雰囲気が盛り上がった。

中国国内の大都市と同様に北京でも急増する〝オシャレ書店〟。北京の繁華街にある「言几又書店」王府井中環店のようにまるでカフェのような佇まいの書店も珍しくなくなった=斎藤淳子撮影

 ▼融合型書店とモールの相互依存関係

 一方で、「北京開巻」の蔣会長はブームの最大の要因はネット書店の圧力から危機にひんした実体書店が融合型書店と言う新しいビジネス機軸を開発した点にあると指摘する。中国で本屋や雑貨などのモノ以上に将来性が期待されているのは、「本と言う連結物」(蔣会長)を通じて提供される文学はもちろん、趣味や実用から哲学に至るまであらゆる分野を扱う講座やイベントなどであり、図書館のようにカフェでお茶をしながら読書や仕事をする空間と場だ。「この(コト消費市場の)可能性は無限大と目されている」と蔣会長は指摘する。

  また、日本文化を紹介する中国語雑誌「知日」創始者の蘇静氏は「(近年の本屋ブームの原因は)大都市の消費者がモノの大量消費には満足し、読書を楽しむライフスタイルを重視しはじめたためだ」と指摘する。

 このように、中国の都市部で不足しているのはもはやモノではなく、家族や友人もしくは一人で時間を過ごす空間とコトであることが読み取れる。そのような中国社会の変遷において、融合型書店は、これまでほぼ空白だった中国の「ポスト・モノ」時代の新星ビジネスと目されている。

 同時に、モールもネットショッピング隆盛の影で陰り始めており、新機軸を求めていた。それに見事にはまったのが、図書館的でもあり文化サロン的でもある新型書店だ。「デベロッパーはモール開設に必ず新型書店の入居を要求する。新型書店誘致のために、テナント代は大幅に優遇し、期限付きで無料のケースや内装工事費を負担するケースもある。書店による集客効果とイメージアップ効果で十分元が取れるというのが彼らの公算」と蔣会長は指摘する。さらに政府の「お墨付き」というボーナスもある。新型書店の完全な「売り手市場」になっているのが分かる。

 ▼激変する消費者たち

 このように、本屋ブームの背景には政府の後押しに加えてビジネスの新機軸に対する不動産や投資関係者からの強い「引き」がある。しかし、最も重要な要因はやはり、足元の巨大な消費者たち自身が変化していることにありそうだ。

  新型書店に来る人は、「都会の喧騒(けんそう)を離れ、ゆったりした環境を楽しめる」や「忙しい日常の中で速度を落としてスローライフを楽しむ」「週末のゆったりした時間を過ごす」など、日本の洗練された消費者と近い感覚で「書店のある生活」を楽しもうとする人たちだ。「言几又書店」によると、彼らの主な年齢層は1980年代生まれと90年代生まれの人たちだ。

  この世代に人気なコンセプトの一つに「小清新」がある。「小清新」とは一般に「自然で素朴だが、洗練されて自由」や「下品でなく明るく純粋で文化的」なことを意味する。この感覚は、一世代前に見られたような、ブランド品を身にまとうことで自身の成功を〝ストレート〟に表現する、分かりやすくはあるが時に「拝金的」とも捉えられてしまうスタイルとは一線を画す若いセンスだ。中国でも都市部では、自然で品があり、自分らしくて文化的な香りをオシャレとする時代に入っている。新型書店はこんな自分を掘り下げようとする新しいセンスの消費者あっての書店でもある。さらに、この世代は購買力の面でも中国人口の約3割に当たる4億人を占め、中核的な存在だ。このように、新型書店人気の背景には新しいセンスを持つパワフルな中国の消費者の誕生もある。

 ▼乖離(かいり)する中国社会

 北京でも破竹の勢いで開店する〝オシャレ書店〟の数々から見えてくるのは何だろうか? 乱暴なほど速い「中国スピード」。そして、シェアリング自転車やコンビニ、コーヒーショップなど業種をまたいで見られる赤字であろうとも、潤沢な投資に支えられた強気のビジネス展開。また、政府の旗振りが相まって盛り上がる書店競争の活況ぶりだ。これらは、その開店スピードの速さに圧倒されると同時に、ある日、何かの拍子に泡となり消えるかもしれないという危うさも付きまとう。

  その一方で、この底流には確実に進む地殻変動があるように思う。それは消費者自体の嗜好やライフスタイルの変化だ。夏目漱石や東野圭吾などの人気ぶりからも垣間見えるように、好奇心は世界へと、関心は自分らしさの探求へと向かっている。

  外へ、自由へ。そんな消費者のベクトルとは対照的なこの国の「お上」による日々強まる各種締めつけは一体何故なのか? ひょっとすると、書店の成長ぶりからも伺える極めて奔放な市井の人々の内なるエネルギーを恐れるが故なのだろうか? 社会の「上」と「下」で正反対の動きが混在するように見える中国で、絶妙な成長空間を得た新型書店は今、一大成長期を迎えている。(北京在住ジャーナリスト、斎藤淳子=共同通信特約)

英国アンティーク調のインテリアが素敵な「西西弗書店」。最近は「吾輩は猫である」の新しい翻訳書のプロモーション中で、店内の最も目立つ位置に平積みにされて売られていた。市民の好奇心は世界に向かっている=「西西弗書店」西直門凱徳MALL店、斎藤淳子撮影