名取裕子が明かす「けものみち」「わるいやつら」撮影裏話&松本清張ドラマの魅力

名取裕子が明かす「けものみち」「わるいやつら」撮影裏話&松本清張ドラマの魅力

40年にわたる作家生活の中で推理小説をはじめ、時代小説やノンフィクションなど幅広い分野の作品を残し、社会派推理小説というジャンルを確立した松本清張。その生誕110周年を記念して、AXNミステリーでは7月15日に「1日まるごと松本清張」と題し、清張の小説を原作にしたドラマ10作品を一挙に放送する。これに合わせ、これまで17作もの“清張ドラマ”に出演している名取裕子がインタビューに応えた。今回、放送される「けものみち」と「わるいやつら」の撮影時のエピソードや清張作品の魅力などを話してくれた。

清張先生の作品は「犯罪は普遍的な人間の感情から生まれること」を教えてくれる

──まず「けものみち」の撮影について教えてください。名取さん演じる仲居の民子は、ホテル支配人を名乗る小滝との出会いからまったく違う人生を歩くことになりますが…。

「実は『けものみち』の演出家だった和田勉さんから、直接『出ませんか?』と電話をいただいて、出演が決まりました。当時は大学を卒業したばっかりで、卒論を書くためにNHKの近くに借りていたアパートから撮影に通っていました。大人の皆さんにいろいろ教えてもらいながら撮影したという感じで楽しかったですね。民子の衣装を見て、こんなおばあちゃんみたいに地味な着物を着るのかと驚いたけど、今、ドラマを見てみると、奇麗なんですよ。若い人が地味な“こしらえ”をするから奇麗に見える、清張先生の作品からはそういう大人の男性から見た女性の美しさや、物事の裏側には人の欲望が渦巻いていたり、利権の奪い合いがあったりして、見えないところで事件が起こっているということを教えてもらいました」

──撮影当時の思い出はありますか?

「そのアパートの近くで殺人事件が起こって。もう、怖くて、怖くて。いつもドアの鍵を開けてから『そこにいるのは、分かっているんだ!』と叫んで、『1、2、3…10』と数えてからそーっと中に入っていました(笑)。ある日、帰ってきたら部屋がぐちゃぐちゃで。でも、よく考えたら自分が出かけた時のままになっていただけでした(笑)。実家にいれば誰かが片付けてくれるけど、1人だと自分で片付けなくちゃいけないんだと思って。そんな時期に『けものみち』を撮影していたんですよね」

──清張先生とは親交があったそうですね。

「私が清張先生と初めてお会いしたのは『けものみち』の時(『けものみち』は一部、清張の自宅で撮影)ですが、奥さまが上品でとても奇麗な方だったことが印象に残っています。清張先生はイケメンではなかったかもしれないけど、一つのことにこだわったらとことん調べ上げて、ご飯も忘れて没頭するようなピュアな熱心さがある。そんな社会の手あかがついていない魂の純粋さのようなものを、女性としては守ってあげたくなるんじゃないかと思います」

──「わるいやつら」についてはいかがですか? 女性を利用する男性医師が女性たちから復讐される物語ですね。

「古谷一行さん、原田芳雄さん、加藤治子さん、それから、ちあきなおみさんが出ていらして。私は気取ったデザイナーで、しゃらっとしながら悪いことをするような役でした。加藤さんはワケありの女性の役で、すごくすてきで、ちあきさんの看護師さん役も面白かったですね。原田さんはモサッとした弁護士役なんですけど、最後はさらっていくんです。とにかく、加藤さんが色っぽかったですね。私は色気がないので感心していました。まさに“色と欲”の話ですね」

──最後に名取さんが考える清張ドラマの魅力を教えてください。

「まず、ドラマの骨格がしっかりしていると思います。その、しっかりした骨格の中で、何げなく見えている日常の裏にあんなことがあるのか、淡々とした暮らしの裏にはこんなことがあるのか、ということが描かれている。真面目に日常を生きている市井の人たちが追い込まれて罪を犯してしまうんですが、その主人公や登場人物にだれもが自分を重ね合わせることができるんですよね。緻密に計算された犯罪が発覚する糸口が、あっけないくらいに小さなことだったというのも多くて、そんなところも面白いと思います。そして、普遍的な、時代を経ても変わらない人の心の機微と危うさ、嫉妬とか悲しみとか情愛というものから犯罪は起こるということを教えてくれるんですよね」

【プロフィール】


名取裕子(なとり ゆうこ)
1957年8月18日生まれ。神奈川県出身。76年、大学在学中にミス・サラダガール・コンテストで準優勝し、連続テレビ小説「おゆき」(TBS系)で主演デビュー。ドラマ「3年B組金八先生」(TBS系)で美術教師を演じ人気に。「序の舞」(84年)、「吉原炎上」(87年)、「釣りバカ日誌7」(94年)、「マークスの山」(95年)などの映画、92年から始まり、現在46作目のドラマシリーズ「法医学教室の事件ファイル」(テレビ朝日系)、「京都地検の女」(テレビ朝日系)、「カクホの女」(テレビ朝日系)などのドラマに出演。ラジオ「オールナイトニッポン MUSIC10」では火曜日のパーソナリティーを務めている。

【作品情報】


「1日まるごと松本清張」
AXNミステリー
7月15日午前6:00~7月16日午前6:00
「けものみち」「わるいやつら」「砂の器」「点と線」など松本清張の小説を基にしたドラマを10作連続放送。

「わるいやつら」(全1話)
AXNミステリー
7月15日 午後7:30~9:45
戸谷病院の院長・信一は愛人たちから巻き上げた金を病院の赤字の穴埋めに充てていた。ある日、デザイナーの槇村隆子と出会った信一は、若くて財力のある隆子との結婚を考えるようになり…。
演出:山根成之 出演:古谷一行 名取裕子 原田芳雄 加藤治子

「けものみち」(全3話)
AXNミステリー
7月15日 深夜0:00~3:45
料亭の仲居・民子には元ヤクザで半身不随となった夫がいたが、ある夜、料亭の客でホテルの支配人を名乗る男・小滝と関係を持つ。そして、小滝の指図に従って自宅に放火し、政界の黒幕といわれる鬼頭に接近していくが…。
演出:和田勉 出演:名取裕子 山﨑努 西村晃

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