美しい星空か利便性か。国立天文台が大規模通信衛星群への懸念を表明

国立天文台は7月9日、米スペースXが打ち上げを開始した「スターリンク」を念頭に、膨大な数の衛星から構成される通信衛星群による天文観測への悪影響について懸念を表明しました。

2019年5月24日に実施されたスターリンク衛星最初の打ち上げでは、実に60基もの小型衛星群が軌道上へ一気に展開。打ち上げからしばらくのあいだ、一列に連なって夜空を横切る衛星群の様子が世界各地で目撃されました。こちらの動画は、5月25日夜に動画で撮影されたスターリンク衛星群の様子です(Credit: 平塚市博物館)。

人類がさまざまな分野で用いるようになった人工衛星は、太陽光を反射して明るく輝きます国際宇宙ステーション(ISS)のように巨大な構造物になると、肉眼でもはっきりと見えるほどの明るさです。

しかし、より小さな人工衛星であっても、高い感度や精度が求められる天体観測に対して影響を与えることがあります。

今回の懸念表明で特に指摘されているのは、衛星の数です。計画通りに進んだ場合、最終的に1万2000基のスターリンク衛星群が地球全体を覆います。国立天文台によると、スターリンクの打ち上げがすべて完了すれば、200基ほどのスターリンク衛星が昼夜を問わず常に存在することになるといいます。

その200分の1しか打ち上げられていない現時点ですでに、アメリカのローウェル天文台が撮影した銀河の画像に、スターリンク衛星からの反射光による複数の斜線が写り込んでいたものがあるとされています。また、衛星群による影響は光だけに留まりません。衛星と地上との間で交わされる無線通信が及ぼす電波天文観測への影響も懸念されているのです。

いっぽう、現代社会にとっての人工衛星は、もはや生活に欠かせないインフラの一つとなっています。日々の天気予報には気象観測衛星からの情報が利用されていますし、スマートフォンやカーナビの位置情報は全地球測位システム(GPS)や準天頂衛星システム(QZSS)を構成する衛星群などに支えられています。

大量の通信衛星群による全地球規模での通信ネットワーク構想は、インターネットへの高速なアクセス手段を世界中に提供することが目的です。同様の計画はスターリンクだけでなく、ソフトバンクが出資した「ワンウェブ」など幾つか存在しており、その一部はすでに打ち上げが始められています。

美しい星空を保つことと暮らしの利便性を追い求めることのどちらを優先すべきかは、簡単に決められることではありません。ただ、事態が急激に進むことで何かの取り返しがつかなくなってしまう前に、関係する人々によるアクションが求められています。

Image Credit: ローウェル天文台
[https://www.nao.ac.jp/news/topics/2019/20190709-satellites.html]
文/松村武宏

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