サンシャインパワー炸裂!田原俊彦を彩った船山基紀のポップセンス

今回のコラムは田原俊彦について書こうと思う。田原俊彦・近藤真彦・野村義男がメンバーだった「たのきんトリオ」が活躍していた1980年代初頭、私は小学生だったが、クラスの女子のほとんどは3人のうち誰かのファンで、私はマッチこと近藤真彦のファンだった。

今でも付き合いのある幼馴染は田原俊彦のファンで、雑誌の切り抜きを交換したりしていた。当時の私には、トシちゃんは軟派でヘラヘラしたキャラに映っていて、ちょっと硬派なイメージのマッチに惹かれていた。そのためトシちゃんの楽曲はテレビで耳にする程度で、最近までちゃんと聴いたことはなかった。

2013年から活動を始めたイベント企画・運営グループ「ケモノディスク」で何度かお招きしているノーナ・リーヴスの西寺郷太さんは、田原俊彦の初期の楽曲アレンジをほとんど手掛けた船山基紀さんを敬愛していて、田原俊彦についてもメディアでよく言及している。

また、西寺さんが少年隊の錦織一清さんに「今までのジャニーズの歴史の中で、一番すごいと思った人は誰か?」と聞いたときに彼の名前を挙げたことや、2019年1月に船山さんと西寺さんのトークイベントを主催したことも、田原俊彦に興味が湧くきっかけとなった。イベント準備のために、船山さんがアレンジされた田原俊彦の楽曲を30数年ぶりに聞いたわけだが、びっくりするくらいにいい曲ばかりだった。

2枚目のシングル「ハッとして!Good」は、船山さん自身が好きなグレン・ミラー・オーケストラのテイストを盛り込んだアレンジ。とても豪華なホーンセクションが入っていて、まさしくジャニーズの王道と言える煌びやかなエンターテインメントの世界を思わせる仕上がりだ。

筒美京平作曲の8枚目のシングル「君に薔薇薔薇… という感じ」は、編曲家の鷺巣詩郎が「跳ねる16ビートの大傑作」とまで言った名曲。1985年発売、久保田利伸作曲の「It's BAD」はいち早くラップを取り入れた楽曲で、ダンサブルなオケに乗るトシちゃんのヴォーカルも素晴らしい。そして田原俊彦の代表曲とも言える1988年発売のシングル「抱きしめてTONIGHT」は、船山さんが手掛けた楽曲の中でも取り分け印象深いイントロから始まる。

こうやって振り返ると80年代の田原俊彦は、最強のポップソングに彩られている。

初期シングル曲の多くは作詞・作曲:宮下智、編曲:船山基紀というゴールデンコンビで制作され、「ハッとして!Good」「ブギ浮ぎ I LOVE YOU」「キミに決定!」「NINJIN娘」など自分好みの曲が多い。西寺郷太さんもこの二人で作られた楽曲が大好きだそうだ。

西寺さんはトークイベントの中で「トシちゃんのサンシャインパワー半端ない!」と言っていたが、宮下&船山コンビで制作された楽曲は、底抜けに明るくポップ。その上どこかエレガントで、トシちゃんのキャラクターイメージと相まって、とてもクオリティの高いポップソングになっている。

宮下&船山コンビで制作された楽曲は数多いが、二人が直接会ったことは今まで一度もなく、船山さんは最近になって初めてネットで宮下さんの写真を見たそうだ。当時はレコード会社のディレクターが間にいたので、作曲家と編曲家が直接打ち合わせすることはなかったとのこと。

そのレコード会社のディレクターというのは、元ポニーキャニオンの羽島亨さんなのだが、9月8日(日)に開催する『ケモノディスクライブ vol.17 編曲家という仕事 vol.2』は、「歴代のヒット曲を中心に辿る船山基紀の世界」と題し、船山さん、元 DU BOOKS の田渕浩久さんに加え、羽島さんもお招きすることにしている。船山さんと羽島さんは、田原俊彦を皮切りに、現在まで約40年に渡り一緒に音楽制作をされているが、プライベートでも親交が深いそうだ。

羽島さんは2018年9月に『ヒット曲は発明だ!~音楽のしくみから読み解く昭和歌謡&J-POP~』を出版されていて、1960~2000年代のヒット23曲を、コード進行やメロディ、楽曲構成から発声に至るまでさまざまな視点から解き明かしている。ヒット曲にはヒットする必然的な理由があるということを、素人にも分かりやすく解説していて大変興味深い。

『編曲家という仕事 vol.2』では羽島さんならではの視点で、船山さんが手掛けた数々のヒット曲のアレンジを分析していただき、これまで多くの人々を魅了してきた船山アレンジの真髄に迫ってみようと思う。

追記: 掲載直前の7月9日(火)深夜、ジャニーズ事務所・ジャニー喜多川社長の訃報が届きました。田原俊彦さんをはじめ、数々の素晴らしいアイドルをプロデュースし続けた、ジャニー喜多川さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

ケモノディスク 中村

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