第五十一回 日本の夏祭りみたいな感じもしてくる不思議な『Music of Morocco』

5年ぶりくらいに、モロッコに行ってきました。相変わらず、面白くて、騒がしい国でした。前回行った時は、ジャジューカ村のジャジューカ・フェスティバルに参加したのです。それは、世界各国から先着50人が村にやって来て、ホームステイして、ジャジューカの音楽を聴きまくるというものでした。ジャジューカというのは、モロッコのリフ地方にある村で、そこにはヘンテコなトランス盆踊りのような音楽があるのです。このジャジューカは、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズが、村の音楽を録音して、アルバムにして有名になりました。

しかしながら、今回は、ジャジューカには行かずに、エッサウィラという海岸沿いの街に行きました。エッサウィラは、ジミ・ヘンドリックスの定宿があったとか、ボブ・マーリーのお気に入りの街だったとか(たぶんボブ・マーリーは、一回訪れた程度だと思うのですが)、とにかく、いろいろな音楽が街にあふれていて、広場ではミュージシャンがいつも演奏しています。

そして、毎年6月に、このエッサウィラで、グナワ・ミュージックフェスティバルというのが開かれていて、いつかは行ってみたいと思っていたのです。グナワ・ミュージックフェスティバルは、アフリカ各地から、ミュージシャンが集結して、3日間、音楽祭が開かれます。

デザート・ブルースとも言われていて、とんでもなく格好いい音楽を奏でる、ティナリウェンなども、このミュージックフェスティバルに出てブレイクしたとか、とにかく、ワールドミュージック先物買いフェスティバルみたいな感じと言ってもいいのかもしれません。

でもって、わたし、たいした下調べもせずに、エッサウィラに行ってみたのですが、残念なことに、フェスティバルが開かれるのは、わたしがエッサウィラの街を去る翌日に開かれるということでした。ですから、ステージや会場作りをしている様子を見ることはできましたが、結局、フェスティバルを見ることはできませんでした。

そんなこんなで間抜けをさらしつつ、今年のエッサウィラで奏でられるであろう、モロッコやアフリカのイキの良い音楽は紹介できず、今回は、枯れた感じの、しかしながら、えらくやばい、モロッコ音楽のアルバムを紹介します。その名も『Music of Morocco』というもので、1966年の発売で、内容は、モロッコの各地の音楽が入っているのですが、フィールド録音をしているようで、音がやたら小さい。全部で10曲入っていて、題名、録音した地名などがあり、マラケシュのフナ広場とかエッサウィラのミュージシャンを録音しているのだと思います。

とにかく、なんだか、よくわからないのが実情ですが、これを聴いていると、音楽にあふれているモロッコの街を体感できるかもしれません。しかし、よく聴いていると、日本の夏祭りみたいな感じもしてくるから不思議です。

戌井昭人(いぬいあきと)

1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。

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