ミツバチもスマホで管理、新しいハチミツ作りとは

 IT企業元社員が挑戦、AI活用した未来の養蜂

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計測機器を手に取る松原秀樹さん

 ミツバチの巣箱も、スマートフォンで管理―。そんな新たな養蜂を広島県廿日市市の「はつはな果蜂園」が実現している。代表の松原秀樹さん(43)は、経験と勘が物をいう業界に、ITで新風を吹き込もうと意気込む。

 ▽巣箱の温度と湿度、スマホに表示

「ビーセンシング」の画面、蜂が活動すると温度が上昇する(提供写真)

 はつはな果蜂園が巣箱に設置する計測機器「ビーセンシング」は、巣箱内の温度と湿度をセンサーで測り、計測結果をスマホに表示してくれる。健康な蜂は常に巣の温度を一定に保とうするため、数値が異常な巣箱は優先して点検できる。この仕組みを導入したことで効率良く巣箱を回れるようになった。松原さんは「蜂は変化に敏感な生物。だからこそ日々の記録が重要」とデータの重要性を説く。

 作業履歴はインターネットを通じ、データを保管して学習する「クラウドAI」に蓄積している。将来はAIが必要な作業を判断し、提案してくれるようにするのが目標だ。

 ▽原点は瀬戸内のミカン畑

 松原さんは、元々は大手IT企業の社員だった。農業に足を踏み入れるきっかけとなったのが大学時代に所属した自転車部で全国を旅した経験だ。各地でキャンプをしながらツーリングする中、訪れた瀬戸内の島々に映えるミカン畑の美しさに心を奪われた。「いつか自分もこの景色に関わりたい」。

 就職後も思いは消えず、週末には自宅があった川崎市から、神奈川県小田原市に住む知り合いの農家の手伝いに通う日々を過ごした。40歳を前に参加した農業学校で養蜂と出合い、季節や周囲の環境で味わいが変わる蜂蜜の魅力にひかれて家族と地元にUターンした。

はつはな果蜂園が作る「宮島はちみつ」(提供写真)

 農林水産省によると国内の養蜂業は輸入品に押され、自給率は1割にも満たない。それでも「作業の手間を省いて品質を高めれば、手に取ってもらえると思った」。温度と湿度で蜂の健康を管理する構想を、ソフト開発会社を経営する友人に話し、実現にこぎ着けた。

 ▽人にも蜂にも優しい蜂蜜作りが目標

 スマホさえあれば、現場に行かなくても巣箱の内部の状態がある程度分かる。この仕組みを生かし、世界遺産の厳島神社がある宮島(廿日市市)など県内各地に巣箱を設置。生産日誌はQRコード化して商品に添付し、購入者が閲覧できるようにした。日々記録される膨大なデータは品質の高さの証明となり、問い合わせは全国から寄せられている。

巣箱に設置された計測機器

 とはいっても、蜂にはまだまだよく分からない動きも多い。なぜ特定の花の蜜を集めるのか、女王蜂が巣立つとき新しい巣はどうやって決めているのか…。データとして測ることのできない要素がある中で、試行錯誤する日々が続く。「人間が蜂の活動の全てを把握できるとは思わない。でも分け前をもらうパートナーとして、できることはしたい」。目標は人にも蜂にも優しい蜂蜜作りだ。

 今後は他の養蜂家にも利用を広げてより多くの記録を集め、経験と勘だけに頼らない新たな養蜂の在り方を提案していく。松原さんはこう話す。「データや科学的知識に基づいてやることで養蜂の姿は変えられる。実績に裏付けられた指標ができれば新規参入の裾野も広がっていく」(共同通信=助川尭史)