消費税が免除される事業者の条件は?課税事業者とどちらが有利?

©弁護士ドットコム株式会社

事業を営んでいる場合、原則は消費税の納税義務がある課税事業者となりますが、一定の要件を満たすと、納税義務が免除される免税事業者になることができます。この記事では、免税事業者となるための判定基準や手続き、課税事業者との違いなどを解説します。

消費税の「免税事業者」とは

消費税のしくみ

消費税は、消費者が負担し納税を事業者が行う「間接税」となっています。そのため、すべての事業者は消費税を納める義務のある「課税事業者」となります。

個人事業主は毎年3月31日まで、法人は決算日の翌日から2か月までに消費者から預かった消費税を納めます。

ただし、詳しい要件は後述しますが、「新しく事業を始めた場合」や「基準期間の課税売上高が1000万円以下の事業者」は、消費税の納税義務が免除される「免税事業者」となることができます。

免税事業者は、仕入先から預かった消費税を利益(益税)とすることができるので、経理負担や経済的な負担が軽くなるというメリットがあります。

課税事業者との違い

モノやサービスの取引の際に発生した消費税を、預かったり預けたりする過程はどちらも同じです。

先述のとおり、免税事業者は消費税の納税義務が免除されているため、メリットの方が多いように思えますが、消費税の還付を受けることができないというデメリットがあります。

課税事業者は仕入額の方が多かった場合には、納めすぎた分の消費税の還付を受けることができるので、場合によっては課税事業者である方が有利になることがあります。

課税事業者になるときは、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに「消費税課税事業者選択届出書」を所轄の税務署に提出します。

消費税の請求について

免税事業者であることを理由に、取引先から消費税分の値引きを要求されるというケースも少なからずあるでしょう。また、そもそも請求して良いのかという疑問もあります。

しかし、免税事業者だからといって消費税の請求ができないということはありません。消費税が免除されるのは納める消費税、つまり、預かった消費税と預けた消費税の差額であり、商品を仕入れる際には、どの事業者も同じように消費税を支払っているからです。

公正取引委員会では、消費税転嫁対策特別措置法という法律に基づき、消費税の円滑かつ適正な転換に向けた取組が行われています。

この法律では、取引先への消費税分の減額や税抜き価格での交渉拒否などが禁止されており、違反した場合は不利益分の回復措置、重大な違反行為が発覚した場合は、公正取引委員会による勧告・事業者名等の公表が行われます。

もし、免税事業者だからといって消費税分の値引き交渉をされたり、対価の支払い時に消費税分を減額された場合は、公正取引委員会に相談をすると良いでしょう。

免税事業者の判定基準

免税事業者になるためには、「基準期間の課税売上高が1000万円以下」である必要があります。

「基準期間」とは、法人の場合は前々事業年度、個人の場合は前々年のことをいいます。「課税売上高」とは消費税を抜いた売上のことで、課税対象となる取引の合計額です。

なお、基準期間が1年に満たない場合は、基準期間中の課税売上高をその年度の月数で割り、そこに12をかけて1年相当額に換算することで判定します。

課税売上高の計算方法

消費税の課税対象になる取引とは、国内における課税資産の譲渡等の対価の額の合計額をいいいます。免税取引では消費税はかかりませんが、課税された消費税が免除されているだけなので課税売上高に含めます。

原則として課税売上高の計算は税抜きの売上で行いますが、免税事業者の場合は税込みで計算した金額となります。

また、免税事業者はそれらの取引で発生する消費税は売上に含めることになるため、仕訳は税込経理方式で行う必要があります。税込経理方式とは、税抜き価格と消費税額をまとめて記帳する方法です。

消費税の会計処理には税抜経理方式という方法もありますが、こちらは税抜き価格と消費税額を区別して計上する方法なので、そもそも消費税が免除される免税事業者は選択することができません。

【図解】消費税の課税区分とは?課税・免税・非課税・不課税の違い( https://www.zeiri4.com/c1076/c1077/h_271/ )
国税庁|課税売上高の範囲( https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/06.htm )

ただし、基準期間の課税売上高が1000万円以下でも、特定期間における課税売上高と給与等支払額が1000万円を超えた場合は、課税事業者となります。

「特定期間」とは、法人の場合はその事業年度の前事業年度が開始してから6か月の期間、個人の場合はその年の前年の1月1日から6月30日までの期間のことです。

新規開業または新設法人

新しく事業を始めた場合は基準期間がないので、原則2事業年度は免税事業者となります。

ただし、資本金または出資金の額が1000万円以上の場合や、特定新規設立法人に該当する場合は初年度から課税事業者となります。そして、特定期間の課税売上高と給与等支払額が1000万円を超えた場合は、2期目から課税事業者となります。

「特定新規設立法人」とは、その事業年度の基準期間がなく、資本金または出資金の額が1000万円未満の法人のうち、以下の2つの要件をどちらも満たす法人のことをいいます。

  • 新設法人の基準期間がない事業年度の開始日において、他の者によって当該新設法人の株式等の50%超を保有される場合など、他の者によって当該新設法人が支配される一定の場合(特定要件)に該当する
  • 上記の特定要件に該当するかどうかの判定の基礎となった他の者、およびその他の者と一定の特殊な関係にある法人のうち、いずれかの者(判定対象者)の当該新設法人の当該事業年度の基準期間に相当する期間における課税売上高が、5億円を超えている

※資本金の額または出資金の額が1000万円以上の場合は、「消費税の新設法人」に該当し、納税地を所轄する税務署に「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を速やかに提出しなければなりません。しかし、「法人設立届出書」に消費税の新設法人に該当する旨を記載して提出すれば、この届出書は不要となります。

相続や合併で引き継いだとき

相続や合併があった場合でも、免税事業者の判定は基準期間における課税売上高をもとに行われますので、以下に当てはまる場合は課税事業者となります。

  • 相続があった年において、基準期間となる前々年の被相続人の課税売上高が1000万円を超えている場合
  • 相続があった翌年および翌々年において、被相続人と相続人の課税売上高の合計額が1000万円を超える場合
  • 合併があった事業年度において、その基準期間に対応する期間として算出した各被合併法人の課税売上高のいずれかが1000万円を超えている場合
  • 合併があった翌事業年度および翌々事業年度において、その基準期間に対応する期間として算出した各被合併法人の課税売上高の合計額が1000万円を超える場合
  • 分割があった事業年度において、その基準期間に対応する期間として算出した各新設分割親法人の課税売上高のいずれかが1000万円を超えている場合

免税事業者になるための届出

新設法人や新しく事業を始めた個人事業主等は、判定基準を満たしていれば、免税事業者となるための特別な手続きは必要ありません。

課税事業者が免税事業者となる場合には、以下で説明する手続きが必要になります。

課税事業者から免税事業者になるとき

基準期間における課税売上高が1000万円以下となった場合は、所定の手続きを行うことで課税事業者から免税事業者となることができます。

対象となる事業者は、国税庁のホームページなどから「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」を入手し、必要事項を記入して納税地を所轄する税務署に持参するか、郵送で提出しましょう。

届出書の必要事項には届出をする人の氏名や名称、納税地などの基本的な項目のほか、免税事業者になる年度や、課税売上高が1000万円以下になった年度とその年度の課税売上高などを記載します。

この書類を提出することで、翌々事業年度または翌々年の納税義務が免除されることになります。提出はその事由が生じた場合、速やかに行いましょう。

ただし、特定期間の課税売上高と給与等支払額の合計が1000万円を超える場合は、免税事業者にはなれません。

免税期間を長くする方法

原則として、新しく事業を始めた場合、2期目までは消費税の納税義務が免除されます。免税期間を最大化したい場合は、以下のような対策を行いましょう。

1.資本金や出資金は1000万円未満で設立する

まず、設立時の資本金または出資金を1000万円未満に設定すれば、原則1期目と2期目は免税事業者となることができます。

ただし、資本金の判定はその事業年度の開始日における金額で判定をするため、たとえば1期目で増資を行い、2期目の期首における資本金の額が1000万円以上になった場合は、2期目から課税事業者となるので注意しましょう。

2.特定期間の給与を1000万円以下にする

特定期間の課税売上高が1000万円を超えていても、給与等支払額が1000万円以下であれば、免税事業者を継続することも、課税事業者を選択することもできます。

ここでの給与等には所得税が非課税とされる交通費や通勤手当等は含まれません。所得税の課税対象とされる給与、賞与等の金額で判定を行います。

課税事業者を選択する場合には、「消費税課税事業者届出書(特定期間用)」を所轄の税務署に提出する必要があります。

3.設立期の事業年度を7か月以内にする

前事業年度が7か月以下の場合には、その前事業年度は「短期事業年度」に該当するという特例があります。短期事業年度には特定期間がないので、初年度の課税売上高および給与等支払額が1000万円を超えてしまっても、2期目も免税事業者となることができます。

初年度の課税売上高と給与等支払額が1000万円を超える見込みがある場合に、おすすめの方法です。

4.法人成りをする

個人事業主の場合は、法人成りをして新設法人となることで基準期間がなくなります。したがって、法人成りをすることで免税事業者となる期間を延ばすことができます。

ただし、法人成りには手続きの手間やコストがかかるため、慎重に検討しなければなりません。不安な方は、税理士に相談をすることをおすすめします。

5.分社化する

分社することで課税売上高が1000万円以下になれば、免税事業者を継続することができます。また、新設した法人も基本的には免税事業者となることができるので、大きな節税効果が期待できます。

しかし、消費税の免税目的のためだけに同じ事業内容の会社を新設するなどした場合は、税務調査で指摘を受けることがあります。

まったく違う事業の会社を新しく設立する場合など、合理的な理由がある時に、ひとつの方法として考えてみると良いでしょう。

簡易課税制度もある

消費税の課税事業者となった場合は、前々事業年度または前々年の課税売上高が5000万円以下であれば、届け出を行うことで「簡易課税制度」の適用を受けることができます。

簡易課税制度を選択していれば仕入控除税額の計算が簡易的に行えるため、消費税額の計算による事務的負担を軽減させることができ、場合によっては消費税を節税することも可能です。

簡易課税制度では業種ごとに「みなし仕入率」が定められており、課税売上高にかかる消費税額にみなし仕入率を乗じることで、仕入控除税額を算出します。

簡易課税制度による消費税額の計算のプロセスは、以下のとおりです。

課税売上高 × 消費税率 = 売上等にかかる消費税額
課税売上高 × 消費税率 × みなし仕入率 = 仕入等にかかる消費税額
売上等にかかる消費税額 – 仕入等にかかる消費税額 = 納付税額

この制度の適用を受けるためには、適用を受けようとする課税期間の開始日の前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄の税務署に提出する必要があります。

ただし、簡易課税制度は2年間継続しなければなりませんので、注意してください。本則課税で計算した方が節税になる場合でも、簡易課税制度の届出書を提出している場合は、簡易課税で計算しなければなりません。簡易課税制度を選択することでどれだけのメリットを享受できるのかを、税理士に相談しておきましょう。

おわりに

軽減税率の導入に伴い、2023年10月からインボイス方式が導入されます。その影響により、消費税の免税事業者からの仕入税額控除が段階的に廃止されることとなるので、免税事業者の取引排除に繋がる可能性があります。

そのような可能性も含めて、免税事業者でいることを続けるか課税事業者になるかなど、将来を見据えた対策を考える必要があります。

消費税の手続きはもちろん、これからのことを考えたときに、免税事業者・課税事業者のどちらでいる方が良いのかなども、税理士に相談をしてみると良いでしょう。

監修

山岡 輝之 税理士

北勢経営会計事務所( https://www.zeiri4.com/pmie/a24205/f_2366/ )