【令和に咲く】自分は監督 諦めない 自主映画で注目、俳優の道へ 映画、大河ドラマに出演、嶺豪一さん

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映画「故郷の詩」の撮影をした有斐学舎の風呂で、当時の思い出を語る嶺豪一さん=埼玉県志木市

 自主映画「故郷の詩[うた]」の舞台は、県出身者の学生寮、有斐[ゆうひ]学舎(埼玉県志木市)だ。「ぴあフィルムフェスティバル」で2012年、審査員特別賞に輝いた。監督・主演を務めた嶺豪一さん(29)=熊本市出身=は現在、俳優として活躍中だが、「いつか新作を撮りたい」という思いを温めている。

 作品は、スタントマンを志して上京した若者が理想と現実の間でもがくストーリー。有斐学舎は、嶺さん自身も4年間を過ごした場所だ。

 自分は何者か。何をしたいのか-。熊本で過ごした高校生の頃、いつも自らに問い続けた。むさぼるように映画を見た。そして不安を吹き飛ばす作品と出合った。北野武監督の「キッズ・リターン」。ボクサーとヤクザになった青年2人の栄光と挫折を描く。「これだっ」。気持ちが高ぶった。「世界が光って見えた。自分も映画を撮りたい」

 多摩美術大造形表現学部に進学。授業で撮影した同級生の作品に衝撃を受けた。20歳の男が母親の局部を見ようとするドキュメント。「こんなに自由でいいのか」。刺激を受け、「故郷の詩」に包み隠さず自分の思いをぶつけた。

 この映画が注目され、卒業後は俳優の道へ。同郷の行定勲監督の映画「うつくしいひと サバ?」「リバーズ・エッジ」などに出演した。NHK大河ドラマ「いだてん」では、熊本出身の師範学校教師、福田源蔵役を好演した。

 俳優のキャリアを重ねる一方、2作目のめどは立っていない。資金の壁は高く一歩が踏み出せない。「映画監督ですか、俳優ですか」。取材で聞かれ、悔しい思いをする。

 撮影中、行定監督に演技で怒られたことがある。「おまえは映画監督なんだろ。監督の目線を持て」。厳しい言葉だった。ただ、自分のことを映画監督と認めてくれていると思うと、うれしかった。

 映像化を目指し、取材を今も進めているテーマがある。「いつか誰も見たことのない作品を撮りたい」。映画を撮影する夢はあきらめない。何者か、何をしたいのか-。高校生の頃の問いかけが、自分の中でまだ熱い。(文・写真、植木泰士=30歳)

◇みね・ごういち 1989(平成元)年生まれ。監督・主演した映画「故郷の詩」が、「ぴあフィルムフェスティバル」で審査員特別賞。現在は個性派俳優として活躍する。趣味は料理。郷土愛は誰にも負けない。

●熊本での新作上映楽しみに 埼玉県の有斐学舎で、嶺さんに会った。何かを悟ったようなまなざしに、無精ひげ。新聞記者の僕から見ると、こわもての風貌は、容疑者を追いつめる刑事か、いやむしろ、追われる方かな。個人的に旧知の人なのだが、物腰の柔らかさは変わらない。学校の先生から犯罪者までこなす演技派。俳優として順調にキャリアを積むが、映画監督としても新作の準備を進める。熊本で上映される日を楽しみに待ちたい。(植木泰士)

(2019年7月12日付 熊本日日新聞朝刊掲載)