ずっと隣にいた―愛弟子古田が見せた野村監督への心遣い 21年ぶりの師弟の対話

代打として打席に立った野村克也氏【写真:荒川祐史】

球団創設50周年記念イベントで21年ぶり同じユニホーム「打席まで行くので、行きましょう!」

 ヤクルトの球団設立50周年を記念したOB戦「オープンハウス presents スワローズ ドリーム ゲーム」が(11日、神宮球場)は大きな盛り上がりを見せ、“閉幕”した。元メジャーリーガーでもある岩村明憲氏が3安打でMVP、ブンブン丸こと池山隆寛氏の豪快スイングに遊撃での美技。八重樫打法に、クローザー・林昌勇の登場、そして代打・野村監督の申告敬遠。他球団に散らばったOBからの心温まるビデオメッセ―ジに球場外の演出、彩られた花火……見所は随所にあった。

 やはり、野村監督がかつての教え子たちに支えられ、打席に入ったシーンがこの日のハイライトと言えるだろう。これが古田敦也氏の発案だったというのはファンの心をぐっとつかんだ。

 古田氏は試合前、断られるのを覚悟で野村監督に試合に出場することを直談判。「(一緒に)打席まで、行くの行きましょう!」と声をかけた。すると元気よく「行こうか!」と返ってきたという。

 1990年から98年、野村監督の功績とヤクルト黄金期には、司令塔・古田氏の存在がずっとあった。ベンチに帰ると監督の前に座って、リードから帝王学まで伝授されていた。この日は、自軍の攻撃になると一塁側ベンチで野村監督の隣にずっといた。そのシーンが他の華やかなプレーと同じくらい印象に残った。

「この球場のあの席のあたり……僕は前だったんですね。こうやって、お話をゆっくりすることできた。(隣に自分がいて)監督は話しやすかったのではないかと思っています。『あれは誰や?』とか『(球が)速いな~』とかおっしゃっていました」と古田氏は時に“専属解説者”になっていた。ベンチで21年ぶりに再現された師弟の対話だった。

「スワローズファンからも監督を見たいという声もありました。ベンチにおられたら、あまり(スタンドから姿を)見られない。グラウンドで見たいという声がありました」という声があったことも明かした。ファンへの心遣いでもあった。ファンが3万人近く集まったことに「(野村)監督は感激していましたよ」と明かした古田氏。誰もが心から楽しめる試合を演出した影のMVPだった。

「打席に立つとはわからなかったけど、グラウンドで立っていただけることがうれしかった。我々も元気でいてほしいし、いつまでもぼやいていただきたいですね」

 感動を呼んだ代打・ノムさんの舞台裏。古田氏にしかできない好リードだった。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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