政治への視線 2019参院選 長崎・4 <地方創生>「正解」へ試行錯誤

地域おこし協力隊員を引退後、五島に定住し活動を続ける宮本さん=五島市三井楽町

 島を去るか、それとも、とどまるか。今年の春。五島市三井楽町で「地域おこし協力隊」を務めた宮本恭子さん(47)は3年間の任期を終えた後、定住する道を選んだ。「島での暮らしには、お金では買えない価値と豊かさがある」。迷いはなかった。
 大阪府出身。地元の短大を卒業後、広告代理店に入社し、昼も夜もなく働いた。仕事ぶりが評価され、30代になると執行役員に取り立てられた。しかし、やりがいを感じつつも、仕事一辺倒の生き方に違和感も覚えていた。以前から関心があったヨガの講師や鍼灸(しんきゅう)師の資格を取得し、40歳で会社を辞めた。
 2016年3月。東京・渋谷の公共職業安定所で偶然、五島市の地域おこし協力隊の求人を見掛け、「これかもしれない」と直感し応募した。縁もゆかりもない土地で、修学旅行生向けの民泊事業や古民家改修プロジェクトなどに取り組んだ。流した汗の分だけ、地元の人たちからの信頼が深まる気がした。
 協力隊を引退後、ヨガ講師、鍼灸師、地域電力会社のマーケティングなどを掛け持ちし「スローライフ」とは程遠い多忙な日々を送る。ただ、自分がどれほど「地方創生」や「人口増」に貢献できているかは自信がない。
 「移住者は増えてきているが、島を出る人を食い止めることまではできていない。地域を守っていくためもっと知恵を絞る必要がある。離島への大学機能の部分的な移転など、国にはもっと即効性のある対策を取ってもらいたい」。宮本さんは注文を付ける。
 安倍政権が人口減少対策として14年に打ち出した「地方創生」。全国の自治体がこぞって国の交付金などが得られる「総合戦略」を作り、雇用創出やUIJターン促進事業などを展開している。県は16年度以降、計約89億円(うち交付金は計約45億円。本年度分は交付金採択ベース)を投じて各種事業を進めてきたが、人口減少の流れに歯止めは掛かっていない。
 政府は6月、20年度から5カ年の地方創生の道筋を示す第2期基本方針案をまとめた。第1期では不発に終わった「東京一極集中の是正」を重点に、都市部に住みながら地方と継続的に交流する「関係人口」を拡大していく考えだが、成否は見通せない。
 公益財団法人ながさき地域政策研究所(長崎市)の菊森淳文理事長は「これまで地道にプロジェクトに取り組んできた自治体ではそれなりに効果が出てきている。目に見える成果や自治体間の『差』が表れるのはこれからだ」と話す。
 地方の未来図をどう描くか。「正解」を見いだせないまま、現場の試行錯誤が続いている。

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