自民党・甘利明選対委員長「伝統とチャレンジの精神で未来への夢を育み、世界一イノベーティブな国づくりを目指す」|参院選2019政党インタビュー

選挙ドットコムでは参院選の比例代表に候補を擁立している各政党・政治団体(以下、各党)の代表・幹部に参院選の争点・政策や政治・選挙の意義について聞く取材依頼を行い、取材を受諾した各党の代表・幹部にインタビュー形式で取材しました。今回は自由民主党・甘利明選挙対策委員長へのインタビューの模様をお届けします。

参院選の2大争点は経済と社会保障。そして憲法改正に対する議論の姿勢も争点のひとつと捉えている

‐‐ 選挙ドットコム編集部(以下、選挙ドットコム)
最初に、今回の参院選の争点はどこにあるとお考えですか?また、それに対する自民党の政策はどのようなものでしょうか?

甘利明自由民主党選挙対策委員長(以下、甘利氏)有権者のみなさん、国民のみなさんの今一番の関心事は、やはり経済、社会保障の2点が双璧だと思います。今回の参院選の争点も、経済と社会保障は外せないテーマです。

経済の安定には、政治の安定が必須要件だということは、過去に政権交代があって政権闘争にあけくれた時代の経済がどうだったかということを思い返していただければ、みなさんにも痛いほどご理解いただけると思います。もちろん、政権交代の必要性があるときも当然、あると思いますが、それがいつかと言えば「今ではない」ということですね。デフレの脱却、経済の安定成長に向けてまだ道半ばの今、ここで政治を混乱させることはできません。

次に、社会保障ですが、みなさんが一番心配しているのは「持続性」ということだと思います。今、年金や医療、介護などの社会保障費は国の予算の3分の1を占めており、34兆円にのぼっています。実は、この支出の半分を、赤字公債でまかなっているのが現状なんです。いつまでも借金で社会保障を続けていられるのか、ここが一番の不安となっている。そこで、消費税は社会保障にしか充てられないという法律になっていますから、消費税を少し上げさせていただいて、借金による運営から脱出していくというのが、今の方針です。

ただし、消費税の引き上げは消費を抑圧しますから、景気に影響を与える可能性があります。そこで前回、5%から8%に引き上げたときの反省をしっかり踏まえ、マイナスな影響を与えないように、消費を下支えする措置・施策を最大限に行って対処します。

この2つが、今回の参院選の争点に対する自民党の柱です。

‐‐ 選挙ドットコム
憲法改正は、争点になるでしょうか?

甘利氏世界中の国で、自国の憲法を50年も100年もずーっと全く触らないという国は、どこにもないんです。それはなぜかというと、時代による社会的な変化により、基本的なものの考え方や価値観が変化してきている、または何十年前には想定しなかったような事態が社会に起きている、それにどう対処するか、ということですから。時代とともに変わらざるを得ないんですよ。
日本も、今の時代に照らして自国の憲法をしっかり見直す必要があります。

ただしその際、どのように直すのかは、それぞれの党によって考え方が違います。思いが違うし、バックボーンも違うから。そのために議論は欠かせません。まずは憲法改正の手前の段階で、どういう考え方を持っているのかという議論です。ところが今、その手前の議論すら全く拒否されているわけです。

第一次安倍政権で発足した憲法の議論をする委員会では、たった3分しか議論がされていないんです。議論自体を拒否されているわけです。立憲民主党などは、安倍内閣の下ではこうした手前の議論すら拒否するとおっしゃっている。どこが問題だからダメなのかという議論もされない。こんな風に議論を拒否したら、国会って成り立たないんですよね。

憲法について、そもそも改正すべきかどうか、憲法についてどのような考えを持っているか、というそもそもの基本のところから議論をちゃんとしようとする党か、その議論すらしないと拒否する政党か、という点も参院選の争点のひとつになると思います。

自民党と公明党の最大の違いは、平和に対する「攻め」と「守り」の姿勢。連立することでちょうどいいバランスが取れている

‐‐ 選挙ドットコム
現在、自民党は公明党と連立与党を組んでいます。政治に詳しくない一般の人から見たとき、ひとくくりに「与党」というイメージが強くて、自民党と公明党の共通点とここは違うという部分がわかりにくいのですが、甘利さんが考える自民党と公明党の共有している部分と、2つの党の違う点というのはどこでしょうか。

甘利氏共有の価値観としては、資本主義、市場経済、民主主義、法の支配、自由主義といった基本となるベースがありますね。もうひとつ共有しているのは、日本の歴史が培ってきた伝統、風雪に耐えた価値観を大事にするということです。公明党さんは宗教がバックボーンですので、こうした伝統や歴史を大切にするという姿勢は非常に強いと思います。我々、自民党も伝統や歴史を非常に重視しています。こうした伝統や歴史を踏まえ、さらにチャレンジしていこうというのが党のキャッチフレーズでもあります。

一方、違う点というと、平和を守るための姿勢でしょうか。「平和が大事」ということは両党同じ思いを共有していますが、自民党は積極的に平和を作っていこうという「攻めの感覚」での平和アプローチ。公明党さんはどちらかというえば「守りの感覚」の平和アプローチなんです。

安全保障は、今現在の課題なので、周囲のリスクが高まれば、こちらはそれに対処するということを考えなくてはいけない。ただ「平和でありますように」と祈っているだけでは平和は維持できないんです。あらゆる工夫と交渉、そして準備で積極的に平和を作っていこうというのが我々の姿勢です。

今の与党内では、自民党がいいと思ってより積極的な動きを取ろうとすると、公明党さんは「もう少し穏便に、制御してくれ」と適度にブレーキをかけてくれています。
そういう意味では、この姿勢の違いが非常にいいコンビネーションを生み出しているのではないかと感じています。

どんな制約を突破してでも実現したいのは、日本を世界一イノベーティブな国にすること

‐‐ 選挙ドットコム
今回のインタビューの企画として、さいころを振っていただいて、こちらが用意した質問にランダムで答えていただくというのがありまして。

甘利氏じゃあ、やってみましょうか。4番が出たね。

‐‐ 選挙ドットコム
ではこの質問ですね。「実現したい政策を育む制約が仮になければ、真っ先に実現させる政策を1つ挙げるならなんですか?」

甘利氏我々は、仮に制約があったとしても、それを突破してでも実現はしますよ。なんとしても実現したい政策は「日本を世界で一番、イノベーティブな国にする」ということです。新しい製品、サービス、仕組み、価値……。世界を変えるようなこうしたものが、いつも日本から発信されるような国にしたいんです。

スティーブ・ジョブズは「イノベーションはどうやって生まれてくるか」と聞かれたとき「テクノロジーだけではイノベーションは生まれません。リベラルアーツが必要です」と答えているんですよ。リベラルアーツと言うのは、芸術まで含んだ基礎的な教養。これとテクノロジーが融合した時に、イノベーションは起こる、と言っている。

リベラルアーツにとって大事なことは、多様性を否定しないということなんです。とんがった才能をつぶさない、可能性を開いていく。こうした環境の中でいろんな分野の突き抜けた考えが結びついたときに、爆発が起こってイノベーションが生まれる。だから我々政治家は、突き抜けた個性を受け止め、それを存分にのばせる環境を作っていかなくてはならない。

日本の社会の中に、イノベーションの自動発生装置を作りたいというのが私の長年の思いですし、アベノミクスの最終形でもあります。

そのために、すでに今現在、いくつかの制約を突破しつつあります。世界に先駆けて、イノベーションがどんどん生まれる国を作っていくために、我々は日々努力を重ねています。

若い人が政治に関心がないのは、今の政治に「ときめき」がないから、今の政治家は、政治家の大切なもうひとつの役割を忘れている

‐‐ 選挙ドットコム
次は、この質問です。「若い人は政治に無関心、政治が若い人を見ていないという声もありますがどのようにお考えですか?」

甘利氏それはね、若い人が問題なんじゃなくて、政治がときめいていないからですよ。今の政治にワクワク感が持てないから。

政治には本来、2つの役割があるんです。ひとつは今、目の前にある課題を解決すること。外交課題とか経済とか、社会保障とか。そしてもうひとつは、将来の夢を育むという役割です。今の政治にはココがない、だからワクワク感がないんだね。

我々は、今目の前にある課題についてはしっかり力を入れて取り組んでいます。でも2つ目の「将来の夢を育む」というのが、これまでほとんどできていなかった。政治家は将来の構想を語って、未来の夢を提示していくというのも今の課題を解決するのと同様に、大切な仕事なんだけど。

実は今回、我が党ではこの2つめの政治家の大切な仕事をテーマにした「自民党2019 新時代」というプロモーションフィルムを制作したんです。これもイノベーションを生み出す国づくりのための、仕掛けのひとつなんです。

押し付けではなく「アート&エンタメアプローチ」で夢を提示。安倍総裁からの注文は「チャラくしないでね」の一言のみ

‐‐ 選挙ドットコム
YouTubeの自民党チャンネルで公開されている動画ですね。公開から2か月ほどで百万回を突破する視聴回数をたたき出して話題になっています。いろいろな分野で才能を開花させるべく挑戦中のティーンエージャーたちの姿と、それを見守り支えていく決意を述べる安倍総理の姿が、とてもスタイリッシュに表現されていますね。今までの政党のプロモーションビデオとは一線を画す斬新さで「自民党がこれを作ったの

」と、驚きの声も上がっているようですが。

甘利氏でしょう? 意外だという感想は、我々にもたくさん届いています。若い人が政治に関心がないからと言って「みなさん、政治に関心を持たないと、将来、大変なことになりますよ」なんてやったら、ますます心は離れてしまいますよね。それよりも「政治って面白そう」とか「これが政治?」と国民のほうから関心を持って近づいてきてくれるようにしたいと。これを狙って、今回のプロモーションフィルムを作りました。

自民党のキャッチフレーズは「伝統とチャレンジ」です。ただのチャレンジだけというのは広く受けられないし、根無し草になってしまいますが、伝統の上に新しい価値観を先取りしてプラスしていくというチャレンジってすごく必要なんですね。

今回のプロモーションフィルムでは、我々のこうした思いがダイレクトに伝わったと思うんですよ。世間では「政治の側がこんなことやるの?」「まして自民党が?」と思われたかもしれませんが、私からすれば「これが、これぞ自民党の本来の姿なんですよ」といいたい。あのフィルムで「我が党はこれくらいチャレンジングな政党なんですよ。でも浮足立っていませんよ」という宣言を、改めてしたわけです。

このプロモーションフィルムについての安倍総裁からの注文は、「チャラくしないでね」の一言だけ。若者に迎合して浮足立つのではなく、政治家の「将来の夢を育む」という仕事への意欲・思いを、思い切った形で伝えようと。

今、若い人たちと政治には距離がある。もっと政治を身近に感じてもらうためにこれまで通りのベタな表現を捨てて、音楽や芸術を楽しむように政治を身近に感じていただきたいと、アートやエンタメアプローチという手法で、表現しました。世界中が「LDPってカッコいいね」「スマートだね」と評価するような政党にしていきたいと思います。我々がこうしたアプローチで、将来の夢をしっかり語れば、若い人たちの政治への関心は自然に高まっていくと考えています。

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