社民党・吉川はじめ幹事長「『自己責任・自助努力で』ではなく『支えあう社会をつくりたい』」|参院選2019政党インタビュー

選挙ドットコムでは参院選の比例代表に候補を擁立している各政党・政治団体(以下、各党)の代表・幹部に参院選の争点・政策や政治・選挙の意義について聞く取材依頼を行い、取材を受諾した各党の代表・幹部にインタビュー形式で取材しました。今回は社民党・吉川はじめ幹事長兼政策審議会長へのインタビューの模様をお届けします。

世界情勢は緊迫し、格差は広がる一方の今、平和憲法を捨て、格差拡大の傾向を是正するどころか強める政治の安倍政権は、ここで終わらせなければならない

‐‐ 選挙ドットコム編集部(以下、選挙ドットコム)
今回の参院選の争点はどこにあるとお考えですか?

吉川元 社民党幹事長兼選対委員長(以下、吉川氏)
やはり安倍政権を終わらせるための足掛かりになる選挙にしなければいけないと思っております。この6年半、暮らしは全然よくなっていません。政権側は景気が過去最高で回復しているなどといっていますが、実際それが本当かどうかは別にしても、間違いなく言えるのは国民の暮らしはこの6年半で非常に苦しくなったというのが現実です。

例えば格差について。大きな企業は過去最高益を上げていますが、一方で、年金で暮らす人や非正規雇用の人たちは一向に良くならない。この社会構造を変えなければならないのに、安倍政権は構造改革に指を触れることすらせず、逆に格差を広げてしまうような政治を行いました。やはりこの政権は、国民の暮らしのためにも変えないといけないと思います。

もうひとつは憲法をめぐるものが大きな争点だなと思っています。憲法の解釈を変えて、集団的自衛権は行使可能とした安保法制が強行採決で可決しました。今、アメリカはトランプ氏が大統領。中東ではイランと非常に緊迫した状況が続いていて、実際先日は、10分前にやめたといっても直前まで攻撃をしようとしていたわけです。そうした緊迫した情勢の中、日本の外交姿勢はトランプ大統領に言われるがまま。アメリカとの関係で言えば、他の国との外交方針もそうですが、イージスアショアなどもでたらめな計測結果をもとにしてやって今、大問題になっていますけれども、ごく最近ではトランプ氏は「日本は日米安保で不公平だ」的なことを言い始めていますからね、これらの状況を考えると、仮にもし中東でアメリカに関わる戦争が発生した時に、自衛隊があの地域に行って戦闘に加わる可能性が、かつてないほどに高まっています。

その中で、憲法九条で「日本は戦争をしない」と決めたことを、しっかり守っていくことが、今、非常に大きな争点だと思っています。

行政や政治が国民に対して「それはあなたの自己責任」「自助努力で」と言った瞬間、それは明らかな政治の責任放棄につながっている

‐‐ 選挙ドットコム
社民党の今回の参院選に対するキャッチコピーは「支えあう社会」ですが、これにはどのような思いが込められているのでしょうか。

吉川氏
安倍政権によって、流れは一層強まったのですが、今の社会は「自己責任」が非常に強調されるようになっています。安倍政権は「自助、共助、公助」この順番だというんですよ。まずは自助があるべきだと。国会の答弁にも、大臣や総理の口から「自助努力」「自己責任」という言葉が盛んに出てきますし、政府の財政制度審議会が出す予定の文書の中には、実は「自己責任的な」文面があったんだけど、これはさすがに「今の時期はまずいだろう」ということで、削ったほど。削ったとは言うけれど、もともとそういう考え方があるわけです。

もちろん、日常生活の中で「自己責任」とか「自助努力」というのは当然あり得ますし、個人個人がそれを意識して生活するのは普通のことだと思うんです。だけども、行政、政治が国民に対して「それはあなたの自己責任」「あなたの自助努力でやってください」といった瞬間に、それは明らかに政治の責任放棄につながるものだと、私たちは考えます。

政府がそんなことを言い出したら、結果として、1人1人の国民、個人が孤立化してしまう。そしてこれはちょうどネットで流れるようなので言いますが、本来のインターネットというのは遠いところの人や、本来なら会えないような人同士をつなぐツールというか、手段だったわけですね。本来は人と人とをつなぐ役割だったインターネットが、こうやって自助努力・自己責任を強調する世の中になることで、逆に人を孤立させるような方向に動いてしまっているのは、本当に残念です。これはインターネットの仕組みやユーザーが悪いというよりも、今の政治の在り方が悪いのが原因です。たとえば、役所に行って「自分はこんなに困っている」と相談しても、役人から「それはあなたの自己責任です」「自助努力でなんとかしてください」なんていわれたら、困って役所に行った人はどう感じるのか、と。

ぼくは「自己責任」「自助努力」なんていう言葉は、政治家は口が裂けても言ってはいけない言葉だと思うんです。それが今、平然と大臣が答弁で答えている。そうではなくて、全体でみんなを支えあう、そういう社会にもう1回作り替えていかないと、本当にこの先勝手にやってくれという社会の中で、ひとりひとりがますます孤立を深めて行ってしまうのではないかと。苦しいときに「助けてほしい」と声をあげたとき、周りのみんなが、とりわけ政治や公的な部分が、十分か不十分化は別にしても「大丈夫、助けます。あなたを支えますよ」って言える社会を、日本は取り戻すべきだと思うんです。

そういう意味で「支えあう社会」というのを今回の大きなキャッチコピーに掲げました。

社会民主主義の考え方―人が安全・安心して暮らすために不可欠な分野だけは規制をかけ公的機関の管理が必要。そして働く人・弱い立場の人を支えていく

‐‐ 選挙ドットコム
社民党の考える「社会民主主義」とはどういったものなのかを教えてください。

吉川氏
私たち社会民主党は、以前社会党と呼ばれていましたが、当時から社会民主主義に基づいて作られた政党です。そういう考え方に共感する人たちが集まって結党しました。社会民主主義の考え方というのは、ざっくりとした言い方ですと、資本主義経済、市場経済を前提として、なおかつ議会選挙を通じて政治を変えていくというものです。日本には、私たちと考えを同じくする人だけでなく、今の与党のような考え方の人もおられますし、他の政党のような考え方の人も、いろいろいるけれど、それを排除するのではなく、考え方が違う人とも、みんなで一緒に国を支えて作っていこうという考え方。

政策面での一番の特徴は経済政策です。さきほどの「自己責任」「自助努力」を含む、規制緩和をどんどんして利益を求める企業は、自由に何をやってもいいよという「新自由主義」的な考え方が2000年代、日本だけでなく世界を席巻しましたが、我々はそれとは真逆の考え方を持っています。人間が健康で文化的に生きていくうえで必要不可欠な公的な役割をもつ産業などに対しては、しっかりと規制をかけて、民間ではなく公共で扱うべきだと。そうでなくては、経済的に困窮する人や弱い立場にいる人を守っていけないし、ひいては社会の将来も奪ってしまうと考えます。

もちろん、市場経済を通じて社会の富を作っていくこと自体を否定するものではありません。でもなんでもかんでも規制をなくして自由に利益を追求していくんじゃダメな部分が出てくるわけです。

例えば、この間の通常国会では林業について大きな法律が議論に上がりました。国有林の木を民間の会社が切って儲けられるように、法制度が改正されたのです。けれども木は植えてから伐採するまで、短くても50年、使い勝手のいい大きさにするには70年もかかるわけですよ。ここで市場主義だけを優先したら、70年後の経済状況もそのとき木がどのような役割を果たすのかを誰も予測することなんて不可能なわけですから「今、儲かるから切る」だけになってしまう。切った後、70年後に木の需要があるかどうかわからないのに、利益や効率を追求する民間が、山の手入れをしたり、管理するコストを払って事業を進めていけるのか。こんなこと民間ができますか? やっぱり民間には任せられないこともあるんです。

もうひとつ言えば、水道法が昨年改正されました。これは水道業の扱いを、民間企業でもできるというものです。でも水っていうのは人が命をつないでいくのになくてはならないものなんです。大きな災害が起こったときも、まず確保しなければいけないのは水。安全な水を、だれもがいつでも安価に手に入れられるというのは非常に重要なことなんです。世界的に水道を扱う企業はいくつかありますが、そうした企業がこの水を独占して利益の対象として行動し始めたら、貧しい人にとって安全な水にアクセスすることが大幅に制限されてしまいます。だとしたら、これはやはり民間に開放すべきものではなく、規制をかけてしっかりと公共で扱うものなのではないかと考えます。

経済と並んで、社会民主主義の大きな考え方は、働く人の立場に立って政治を行うということです。社会的に弱い立場の人を支えるために政治は力を尽くさねばならないと。こうしたことを理念の中心に据えて、作られたのが社会民主主義という考え方です。

選挙で勝てば「不祥事の禊は済んだ」「なんでもできる」という自民党の姿勢に「No」という国民の声をつきつけるのが、野党候補一本化の狙い

‐‐ 選挙ドットコム
社民党さんは今回の参院選に、一人区の候補を他の党や会派と協力して1人に絞って立てることにしたわけですが、その理由はなんですか。

吉川氏
今の安倍総理の発言を見ていると、選挙で勝てば、いわゆるいろんな不祥事の禊は済んだ、選挙で買ったんだから何でもできる、という姿勢が色濃く表れているように感じます。だとするなら、今の政治を変えていくためには、もちろん政党は違うのでいろいろ考えの違う部分もあるけれど、大元でほぼ同じ考え、少なくとも「今の安倍政権はおかしい」という風に考える政党が協力して、1人区で候補者を一本化するというのは、非常に意義のあることだと考えます。

野党は、過去の選挙ではそれぞれの党がそれぞれの候補者を出していました。そうするとただでさえ強い大きな与党に、小さな党がさらに分かれて戦いを挑むことになってしまいます。これじゃ、なかなか勝てないと。そう考える政党が今回、お互いに協力して、1人区で候補者の住み分けを行い、1本化したというのは非常に重要だと思います。今までバラけてしまっていた安倍政権に対する違和感の声を、一本化できるわけですから。安倍政権がこだわる選挙の結果で、安倍政権に「おかしい」といえるチャンスを作ることができた。

与党のみなさんは、これを「野合だ」って言ってますが、そうでしょうかね。自民党と公明党は長らく連立政権を組んでいますが、ぼくはこの2つの党は全く同じだとは見ていないんですね。憲法の考え方やとりわけ9条に対する姿勢は水と油なのに、なぜか一緒にやってますよね。選挙でも32の1人区ではお互いが候補者を立てて共倒れしないようにしていますし。

実際には、4党と1つの会派で国民の皆さんからあった要望や意見について、いくつかの政策できちんと合意をしたうえで、今回の統一候補を出しているわけです。全く違うものが選挙のためだけに集まったということではないんですよ。

いつの時代も「若い人は政治に無関心」といわれるが、問題なのは今の政治が信頼されていないこと。多くの人が関心を持ってこそ、いい政治が生まれる

‐‐ 選挙ドットコム
今回のインタビューの企画として、さいころを振っていただいて、出た目の質問に答えていただくというのがありまして。さいころを振っていただけますか。あ、3番が出ましたね。

3番の質問です。巷ではよく「若い人は政治に関心が薄い、その一方で政治は若い人を向いていない」というすれ違いを指摘する声があります。それについてどう考えますか?

吉川氏
政治は若い人を向いていない、ということに関しては、ぼくはそんなことはないと思いますよ。僕自身、今、文部科学委員会に所属していますから、教育を中心に国会活動を続けています。
そのなかで奨学金制度については、これまでの借りる(返済が必要な)奨学金制度しかなかったのですが、今回、給付型の(返済しなくてもよい)奨学金制度というのも作りました。もちろん子育て支援についても取り組んでいます。

年金問題なども、若い人にとっては遠い先の話に聞こえるでしょうが、だれもが等しく毎年1歳ずつ年をとっていくのは自然の摂理。今年生まれた子供も65年後には年金を受ける年齢になっていくんです。だからこれが若い人には関係ない話では全然、ないんですよ。無関心でいちゃだめなんです。今の年金制度は、今回も2000万円の問題などが出ましたけれども、将来の年金給付額がものすごく下がる制度になってしまっているんです。おそらく若い人は、非常に不信感を持つと思うんですね。

僕は、若い人たちの不信は、まったくそのとおりだろうと思いますし、今の政権側がいかにそれを言葉でごまかすかに汲々としているとしか思えないです。100年安心というけれど、それは制度自体が安心ていうことだけ。我々からすれば、100年安心な年金制度だとするなら、それは100年生きても年金で最後まで文化的で快適な生活を送れる、人間らしく生きていけるんだということにしなくてはいけないと思うんですよね。でも、政府は「いやいやそんなことは我々、言ってませんよ」というような話を、今している。

それはおかしいと思う我々とともに、若い人にもご自身の老後の話なのでぜひ関心を持ってもらいたいし、それに対する若い人の意見を我々はしっかり聞いて改革していかなくてはと思っています。我々政治家は、目の前の1年後、2年後だけでなく、十年後、二十年後、50年先まで責任を持っていかなくちゃいけないわけですからね。

一方の「若い人は政治に関心が薄い」という件ですが、実はいつの世代もそういわれていますよね。僕が二十歳のころだってそうだったし、古代ギリシャの時代から「最近の若者は……」というフレーズは使われていたわけですから。

ただ今の政治が問題なのは、信頼されていないということだと思います。関心がない若者も「政治家はうそをつく。ごまかす」あるいは「自分たちだけで利益を確保してうまいことやっている」「さぼっている」と、そういうイメージはあるじゃないですか。そう思われても仕方がない事案が次々に出てくると、そりゃあ若い人たちも政治を信用できなくなるのは当然だろうと思います。

でも政治は、若い人だけでなく何歳の人でも、どこかで自分たちの生活に関係する話なんですよ。政治にはいろんな分野があります。教育、福祉、外交、働き方、身近な生活の問題点など、ありとあらゆる分野が政治に関わっています。本当に困ったときに、政治や行政が手を差し伸べるのも、施しなんかではなく、その人の当然の権利なんです。これも政治がやっていかねばならないことです。どの分野でも構いませんから「これってどういう仕組みでこんなことになってるの?」と考えてみてほしいんです。その興味や疑問を突破口にして、政治について知ってほしい。それは、政治がよくなることに直結しますから。

多くの人が政治に関心を持てば持つほど、政治はよくなります。逆に多くの人が政治に無関心になっていけば、政治は確実に悪くなる。それはどの党がやろうが、だれがやろうがそういうものなんですよ。

「どうせ変わらない」と諦めて、選挙に行くか迷っている人に、高校生の平和大使のスローガン「微力だけど、無力じゃない」を贈りたい

‐‐ 選挙ドットコム
では、もう1回さいころを。今度は2番。「投票に行くかどうか迷っている人が目の前にいたら「一票の大事さ」をどう伝えますか」

吉川氏
今、毎年日本の高校生が「平和大使」として、ジュネーブの国連欧州本部に出向いて、核の廃絶を訴える活動をしているんです。僕もこれを応援するひとりなんですが、彼らのスローガンが非常に素晴らしいのでぜひ紹介させていただきたいです。それは「微力だけど、無力じゃない」というものです。

17歳、18歳の高校生ひとりの力は、たしかに微力なのかもしれませんが、決して無力ではないという力強い宣言です。政治も同じで、1人が声を上げて友達と話したりすることを通じて、2人、3人と力を結集すれば、変えていけるものなんです。参院選、国の選挙で自分の1票というのは、平和を訴える高校生の声と同じで微力に思えるかもしれませんが、たくさんの微力が集まって声を挙げれば、その声は大きくなって大きな力になり、政治は動く、変わるんです。

それを若いみなさんにも、ぜひ知っていただきたい。どんなに小さな1票に思えても、投票に参加しなければ、決して物事は動きません。どうか、選挙に参加し、投票所に足を運んでください。

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