ザクセンリンクで開幕戦を迎えた電動バイクレースMotoE、ライダーたちが語るマシンの課題とリスク

 電動バイクによるチャンピオンシップ、FIM Enel MotoE World Cup(FIMエネルMotoEワールドカップ)の開幕戦が、7月5~7日、ザクセンリンクで開催のMotoGP第9戦ドイツGPに併催で行われた。初の公式レースのなかで、ライダーたちは電動バイクレース、そして電動バイクにどのような印象を抱いたのか。今回は3人のライダーに話を聞いた。

 MotoEは、MotoGPをプロモートするドルナスポーツが2019年より新設した電動バイクによるチャンピオンシップで、2019年シーズンは4戦6レースが予定されている。イタリアの電動バイクメーカー、エネルジカ・モーターカンパニーのエネルジカ・エゴ・コルセのワンメイクマシンによって争われ、タイヤサプライヤーはミシュランが務める。

 電動バイクのレースとなると、気になるのはその乗り味だ。MotoEにエントリーするのは、これまでMotoGPのようなプロトタイプマシンやスーパーバイク世界選手権(SBK)、スーパースポーツ世界選手権(WSS)、FIM世界耐久選手権(EWC)などの市販車ベースのレーシングマシンで戦ってきたライダー18名。2019年シーズンは、EWCなどとダブルエントリーするライダーもいる。内燃機関のバイクでレースをしてきたレーシングライダーにとって、電動バイク、エゴ・コルセはどのような印象だったのだろう。

 MotoEの開幕戦ポールシッターであり、記念すべき最初のウイナーとなった23歳のフィンランド人ライダー、ニキ・トゥーリ(アジョMotoE)に予選会見後、エゴ・コルセという電動バイクのおもしろさについて聞くと、このように語った。

MotoEの初レースで初ポール・トゥ・ウインを飾ったトゥーリ

「(エゴ・コルセは)新しいバイクだからおもしろいよ。ただ、パワーの使い方には注意しないといけない。バイクがとても重いから。1コーナーでの(パワーの)使い方とかね。これがとっても重要なことなんだ」

 エゴ・コルセの最低重量は260kg。レギュレーションで定められた1000ccのMotoGPマシンの最低重量が157kgなので、比べると100kg以上重いことになる。重さについては決勝レース後、話を聞いたセテ・ジベルナウ(ジョイン・コントラクト・ポンス40)も同意見だ。

 ジベルナウはMotoE参戦により、10年ぶりにロードレース世界選手権(WGP)の舞台に復帰。MotoE開幕戦では、9位でフィニッシュしている。

10年ぶりに電動バイクレースMotoEでロードレース世界選手権に復帰したジベルナウ

「(内燃機関のバイクと電動バイクは)とても似ている。マシンはとてもおもしろいし、楽しいよ。(エゴ・コルセは)バッテリーで動いているというだけさ。けれど、重い。それが大きな違いだ」

■スミス、スタート時の“音”について「とても奇妙だった」

 1990年代から2000年代にかけてWGPで活躍してきたジベルナウ。2ストロークから4ストロークにマシンが変化した時代を経験してきたことを踏まえて、電動バイクも同じように興味深いマシンだと言う。

「僕は2ストロークマシン、4ストロークマシンに乗り、今は電動バイクで戦っている。僕にとって、すべてがおもしろいマシンなんだ。それぞれのマシンでチャンピオンシップを戦ってきた」ジベルナウはそう語ったあと、少しおどけた風に「……まあ、それはつまり、それだけ僕がベテランってことなんだけどね」と笑った。

グリッド上でスタートを待つジベルナウ。アレックス・クリビーレと言葉を交わしていた

 決勝レースでは抜群の好スタートを決めてトップ争いを演じ、2位表彰台を獲得したブラッドリー・スミス(ワン・エナジー・レーシング)は決勝レース後の会見場で、レーススタート時の音について語った。スミスは2019年シーズン、アプリリアのテストライダーを務めながら、同時にMotoEにエントリーしている。

「とても奇妙だったよ。バイクの音がまったくしないんだから。ただじっと、ライトが消えるのを待ったんだ」

元MotoGPライダーのスミスは、その実力を発揮して2位表彰台を獲得

 また、スミスは6周目の8コーナーで起こったロレンツォ・サバドーリ(トレンティーノ・グレシーニMotoE)のクラッシュに触れた。レースはサバドーリのマシンがエアフェンスに突っ込む形となったこのクラッシュにより、赤旗が提示されて終了となっている。なお、サバドーリ自身に大きな怪我はなく、マシンが炎上するなどの大きな損害はなかった。

「6ラップ目にクラッシュが起こった。けれど、これはいつでも起こることだ。僕たちはマシンの重さというリスクを承知している。けれど、それについて考えることはできない。レースをすることが仕事だからね。ただ、(レースには)危険があることはわかっている」

「それについて何ができるのか。現時点ではできることは多くはないけれど、オーガナイザーやセーフティコミッションと、現状について話し合い続けることはできる。何が必要で、どのように管理すべきか。最初のレースで最初のクラッシュが起こった。ここから学んでいくだろう」

エンジンのフィーリングよりも、エゴ・コルセについてライダーが言及するのは重量のことだった

 3人のライダーの話によると、内燃機関のバイクと変わらないおもしろさはあるものの、大きな違いはマシンの重さ、といったところだろうか。ついに開幕戦を迎えた電動バイクレース、MotoE。新たに誕生したこのチャンピオンシップの今後を見守りたい。

 MotoEの第2戦は、8月9~11日、オーストラリアのレッドブル・リンクで開催のMotoGP第11戦オーストラリアGPに併催で行われる。

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