魅惑の中森明菜、その歌にはいつだって「彼女らしさ」があった 今日7月13日は中森明菜の誕生日です。

佇まいから発せられる美しさ、があることを、私は明菜を観て知った。

媚びるわけでも、微笑むわけでもなく、しっかりとカメラを見据えて、自分の世界へと引き込むその姿は、圧巻であった。

デビュー当時から、ふっくらとした頬にふんわりとした髪、ぽってりとした唇と、潤んだ瞳、天使のようなルックスに恵まれながら、ただ「かわいい」というだけの枠に収まらないパフォーマンスをしてきたのは、80年代90年代と彼女の活躍を見てきた皆さんであれば私よりよっぽどご存知のことだろう。

「1/2の神話」「禁区」「十戒(1984)」「DESIRE -情熱-」「ジプシー・クイーン」など、明菜の曲は他のアーティストに比べて、衣装とリンクするものが多い。「この曲といえばこの衣装」というものがあり、明菜のセンスが発揮されたイメージ作りは完璧であった。彼女のステージは、まさに一つの作品であったと思う。

クールで、大胆で、魅惑的なパフォーマンスをする明菜だけれど、笑うとたまらなくかわいい。そのギャップにやられてしまったファンは多いだろう。彼女は話をさせても魅力的で、バラエティで茶目っ気たっぷりに話したり、わざといつもと声色を変えてアニメ声で MC をしている映像なんて見たりすると、後追い世代の私たちだって夢中になってしまう。

今日は彼女の誕生日に寄せて、私のお気に入りの、ちょっぴり明るい少女らしい “明菜ちゃん” をお届けできる曲を1983年に発売の「ファンタジー〈幻想曲〉」から2曲紹介したい。

まず、一曲目は「アバンチュール」。軽いサンバ調のリズムに、はじけるような若さと、明菜ちゃんにしか出せない色っぽさが加わった、こじゃれた一曲だ。

アイドルが夏を歌った曲は数あれど、タイトルを「アバンチュール」とした時点で、すでに明菜っぽさが出ていると思う。情景描写が丁寧で、南国での恋人たちの様子が浮かんで来る。

 キザなセリフ うつろにひびく
 落としたいの わかっているわ

と、明菜ちゃんの曲はいつだって男のことなんてお見通しなのだ。それでいて、

 キッスくらい 許してあげる
 気がかりは それからのこと

なんてフレーズもあってドキッとしてしまう。まるで明菜ちゃんと2人で南国に来てしまったような気分になれる、極上の一曲だ。

もう一曲は、「目をとじて小旅行(イクスカージョン)」。失恋を歌った曲でありながら、柔らかいメロディが印象的で、アルバムのタイトル通り、「ファンタジー」感あふれる一曲だと思う。

好きな人ができたと、振られてしまった彼のことを思いながら、目をとじて過ぎ去り日に思いを馳せ小旅行をしている… という内容になっているが、まだあどけなさの残る明菜ちゃんの歌声と相まって、不思議と暗さは感じない。メロディの80年代歌謡感もたまらなく好きだ。

 ねえ私とそのひととは
 どちらが綺麗でしょうか

 こんなにまだ好きでごめんね
 目をとじて小旅行

と、切ないフレーズが並ぶけれど甘さが強く、シングル「セカンド・ラブ」が入ったアルバムの中の一曲としてはかなりしっくりくる。こちらも私のお気に入りの一曲だ。

どちらの曲も、そして明菜ちゃんが歌った曲全てに言えることだと思うけれど、彼女の曲にはいつだって「彼女らしさ」があって、他のアイドルが歌っている姿は想像しにくい。

それほどまでに自分のスタイルを確立してきた中森明菜は、大人の階段を登り、少女から魅惑的な女性へと進化していった。

「永遠の少女」も魅力的ではあるけれど、その年齢ごとにベストなパフォーマンスをしてきた彼女を見ていると、もうすぐ23を迎える私は、果たして大人になれているだろうか、なんて考えてしまう。ちなみに、中森明菜は22歳で「TATOO」を歌っているのだ(笑)。

伝説の歌姫は、またひとつ年を重ねた。96年生まれの私は、物心ついた頃から彼女をテレビで見かけた機会は少ない。いつかもう一度拝める日が来れば… と願いながらも、どこかでゆっくりとしていてくれればそれでいいという気持ちもある。

時代を経てもなお愛される彼女の曲とパフォーマンスに想いを馳せる、令和の今日この頃である。

カタリベ:みやじさいか

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