「不信」を売る

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 明治の初め、保険制度を日本に根付かせようとして、福沢諭吉はこう説明した。平生無事でいる人からお金を集めておき、〈万一其(その)人へ災難あれば(略)大金を出して其損亡(そんもう)を救う仕法(しほう)なり〉(著書「西洋旅案内」)▲けがや病気や、何かの災難が降りかかったときに備えて「安心」を買っておこう。そう考えて人は保険に入るものだろう。保険会社が売るべきは「信用」だが、かんぽ生命保険は、それを自ら“損亡”した▲9万件を超える不正販売が明るみに出て、かんぽ生命社長と、保険を委託販売している日本郵便の社長が謝罪した。保険を乗り換えた顧客に、新旧の契約の保険料を二重払いさせたりと、悪質な例が多い▲新契約を結んでも、旧保険をしばらく解約させない方が営業成績は上がる。だからわざと解約を遅らせる…。二重払いさせたのは成果最優先の結果らしい。過剰なノルマが背景にあったと、会社も認めている▲「町の郵便局」に寄せる信用を利用していなかったか。不正は長期にわたるとみられる。「ノルマ必達」を「信頼回復」へ。目指すところの大転換をするほかない▲福沢諭吉はこうも書いた。顧客が安心を手にすれば〈品行廉恥にも与(あずか)りて力あり〉。行いも清らかになる、と。時代は移り、品行廉恥を知るべきは保険会社の方らしい。(徹)