政治への視線 2019参院選 長崎・5完 <ひきこもり>孤立させず伴走を

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賢太さんと一緒によく食事をしていたカウンターでかつての日々を振り返るけいこさん=諫早市内

 2015年5月、10年以上ひきこもっていた江嶋賢太さんは自宅で自ら命を絶った。39歳だった。部屋には太く丁寧な字で「日々平穏」と書いた半紙が残されていた。母親のけいこさん(69)=諫早市=は額縁に入れ居間に飾っている。
 あの日、賢太さんは仕事に車で向かうけいこさんをいつものように見送った。カーブで見えなくなるまでずっと手を振っていた。
 中学1年の時、いじめに遭い不登校になった。定時制高校は2年で中退。アルバイトも長くは続かず、ひきこもるようになった。正義感や思い込みが強く、たびたび周囲とのあつれきを生んだ。その後も県外で職を探したり就労支援施設を利用したりしたが、定職には結び付かなかった。
 20代後半、飲み屋に通い泥酔し、帰れば家具を蹴って壊した。きょうだいの体を押さえ「俺の苦しみが分かるか」と叫んだこともあった。
 ある日、「いろんな人が安心して愚痴を言える場所をつくりたい」と言い出した。ひきこもりの人や親らが語り合える場をけいこさんとつくった。不安症や強迫性障害と診断されたが、穏やかな日が約3年続いた。毎日、けいこさんが賢太さんの足をもみ、賢太さんがけいこさんの肩をもむこともあった。だが亡くなる数週間前、幻覚を見るようになり「手を握って」とせがんだ。
 「息子は試行錯誤してきた。『もう疲れました。ここでいいです』。そう決めて亡くなった気がする」。けいこさんはそう振り返る。
 国の15年度の推計では、ひきこもりの人は15~39歳で約54万1千人(うち長崎県約5千人)、3年後の18年度推計では40~64歳で約61万3千人(同約6千人)。政府は今年6月、30代半ば~40代半ばの就職氷河期世代への支援を決めたが、遅すぎたとの指摘もある。
 川崎市で5月、スクールバスを待っていた児童らが殺傷された。自殺した容疑者はひきこもり傾向があったとされ、「1人で死んで」とのテレビ出演者の発言が物議を醸し、孤立を助長しかねないとの論議も起きた。その後、事件の報道は沈静化し、参院選ではひきこもりの人の支援は主要なテーマになっていない。
 けいこさんは息子の死後、当事者や親に寄り添う活動を始めた。悩む親子にかつての自分たちを重ねた。「伴走してくれる第三者がいたら、私たちもより良い方向に向かえたかも」
 学校や社会生活でつまずき、“心の充電”をする時期があってもいい。生きづらさを抱える人をありのまま受け入れ、その人なりの幸せを見つけられるよう見守る-。そんな世の中を目指す人に政治に携わってほしいと思っている。