「僕らはなくすものがなかったから」可夢偉、予選19番手から決勝で13台抜き。劇的レースでKCMGと次生監督のターニングポイントに

 予選19番手、Q1でアタックできなかったこの富士がデビュー戦のパトリシオ・オワードが20番手で、実質、最後尾というまさかの予選結果となってしまったスーパーフォーミュラ第4戦富士の小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)。予選セットアップが大きくずれてしまったのがその要因だったが、決勝ではその19番グリッドから13台のマシンをオーバーテイクして6位入賞。可夢偉の走りとともに、KCMGの今後のターニングポイントにもなりそうな目の覚める展開となった。

 土曜日の雨の予選では「ドライセットだったので、全然、グリップがなくて走れませんでした」とQ1を振り返る可夢偉。

「そこから決勝に向けてはかなりクルマを変えました。全部変えましたね。ドライバーも変わりました」。もちろん、可夢偉の話すドライバーはマインドが変わったという意味だが、同じく雨となった決勝では怒濤の13台抜きの6位入賞。ダウンフォースを高めたか、回頭性の良い可夢偉のマシンはインにアウトにラインを変えて前のマシンをオーバーテイクしていく。前日の予選から、クルマのセットアップの完成度は雲泥の差があったことが伺えた。

「今回、予選があのポジションのスタートなので、ピットストップもレース途中でのセーフティカーもないと、ラッキーで順位を上げることはないので、諦めずに1台1台、確実に抜いていきました。リスクがすごくあるコンディションだったので、逆に言えば僕らはなくすものがなかったので、思い切ってやってここまで来れた」と可夢偉。

 その一番の要因は「まあ、セットアップですね。予選ではセットアップを完全に外したので、そこからここまで戻って来れたのが良かったですね。今回は予選のダメージを最小限に抑えられたので、予選でこういうことがないように、(セットアップの)大外しというのがないように、いつでもチャンスがある状態を作るのが、このレースで勝つ唯一の方法だと思うので、そういうふうになれるようにきを引き締めて戦っていきたいですね」と、富士を締めくくった。

 REAL RACINGとKCMGは1台態勢での参戦のため、セットアップデータの比較ができない難しい面がある。特に今回のようにテストでも走行したことがないフルウエットのコンディションでは2台態勢のチームはセットアップを分けて比較していても、セットアップを外してしまうという難しい状況だっただけに、1台態勢ではさらに厳しい状況だったことが察せられる。

 その土曜日から、劇的に日曜日にセットアップの正解を導き出せたのには、今季からKCMGに加わった松田次生監督の影響も大きい。次生監督にとっても、この富士の週末はチームの大きなきっかけになるような手応えを得られたようだ。

「昨日の予選でセットアップを外したのは分かっていたので、その外した理由も分かっていましてけど、1台態勢だったので確認ができなかった。今日の朝、ドライバーもエンジニアも、僕も思っていることがあって、そこで試したものがすごくいいセットアップで、そこから細かい部分を詰めて決勝でドンピシャで合わせることができました」と次生監督。

 次生監督のドライバーとしての経験、そしてKCMGのチーム力の向上が感じられた週末となった。

「そうですね。僕も可夢偉が話していることがすごくよく分かるし、話を聞いていると僕とドライビングスタイルがそんなに変わらないので、エンジニアだけではなかなか想像できない部分を『こういうことが起こっているんじゃない?』と僕がエンジニアに伝えることができる。特に今回はテストでの実績のない雨の走行だったので、ドライバー視点でいい方向に進めることができたのはすごく自信になりましたね。僕もまだまだフォーミュラカーへの感性は狂っていないなと思いました(苦笑)」と次生監督

「そのクルマを可夢偉がしっかりと乗りこなしてくれて結果を出してくれて、チームにとってもすごく良かった。今回は決勝でなんとかつじつまが合ったという感じですけど、この状態を金曜日からしっかりと組み立てて持ってこれるようにしないといけない。それでも次が楽しみですし、ここからもっと良くなると思います」と、次のもてぎ戦に向けて大きな手応えを得たKCMGと次生監督。

 この第4戦富士が、もしかしたらKCMGと可夢偉にとって、今後のターニングポイントになるかもしれない。

スタート直後から順位を上げていった可夢偉。燃費走行をしながらの走りだった
スーパーフォーミュラ第4戦富士のピットウォークに参加した可夢偉

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