ゲームセットが告げられ、座間と座間総合ナインが本塁に整列する。審判員の制止を振り切り、敗れた座間総合の8番佐野は涙ながらに、座間の伊地知にこう伝えた。
「ありがとうな。次、頑張れよ」。
二人はそろって3打数1安打。ともに得点には絡めなかったが、三回、鮮やかにバントヒットを決めた佐野に伊地知が「ナイスバント」と声を掛ける。「最後の舞台で一緒に戦えて幸せだった」。佐野の涙は、悔しさとうれしさからこみ上げたものだった。
2人は伊勢原市内の同じ団地に住む幼なじみ。公園でプラスチックバットとテニスボールを使って遊ぶ野球が大好きだった。ただ当時はぽっちゃりとした体形の佐野は「本格的に野球をする自信はなかった」。野球クラブに誘ってくれたのが、伊地知だった。
2人はクラブで主力を務め、ともに成瀬中へ。佐野がクラブチーム、伊地知が中学野球部と一度は別れ、高校最後の夏にグラウンドで再会した。佐野が「今までの思いは伝えられた。悔いはない」と言えば、伊地知は「あいつの分もこの先勝つ」と誓った。