日本人シンガーの海外進出は悲喜こもごも? Seiko から BABYMETAL まで 1990年 7月15日 松田聖子&ドニー・ウォルバーグのシングル「ザ・ライト・コンビネイション」が日本でリリースされた日

1990年11月のことだ。シンガポールのディスコで遊んでいた僕の耳に、聴き慣れた歌声が飛び込んできて、思わずドキッとした。声の主は松田聖子、曲は「ザ・ライト・コンビネイション」だった。僕が海外で、このような形で偶然にも日本人シンガーの歌声を聴いたのは、後にも先にもこの時だけだ。

この曲は、彼女のワールドリリース・デビューアルバム『Seiko』からの2ndシングルで、全米シングルチャートで54位、全英では44位を記録した。でも、当時は全米で40位以内、全英だと20位以内がヒット曲の基準と言われていたから、この結果ではヒットしたとはお世辞にも言えなかった。

ましてや、この曲が、当時人気絶頂だったニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのドニー・ウォルバーグとのデュエット曲だったことを考えると、「惨敗」と言われても仕方ないだろう。

松田聖子は、88年にソニーが CBSレコードを買収したのを追いかけるかのように、2年後、海外進出を実現した。そのチャレンジ精神は十分に尊敬に値する。とは言え、同時期に同じソニーからデビューしたマライア・キャリーと同じ土俵で戦うというのは、どう考えても現実的ではなかった。

そもそも、日本人シンガーが海外で成功するのは、とてつもなく難しいことなのだろう。もちろん何をもって成功と言うかにもよるが、日本のプロ野球選手が MLB で活躍するより難易度は高いのではないだろうか。事実、過去のヒットチャートを見ても、日本人シンガーの楽曲が全米トップ40に入ったのは、No.1を獲得した坂本九「上を向いて歩こう(Sukiyaki)」とピンク・レディー「キッス・イン・ザ・ダーク」の2曲だけだ。

アルバムを見ても、全米で40位以内に入ったのは、ジョン・レノンとの共作『ダブル・ファンタジー』でNo.1を獲得したオノ・ヨーコ以外では、やはり坂本九の「Sukiyaki」を収録したアルバムしかない。80年代には YMO が1枚、ラウドネスが2枚のアルバムを100位以内に入れることができたが、40位には到達しなかった。

そんな中、注目したいのが BABYMETAL だ。彼女たちが2016年にリリースした2ndアルバム『METAL RESISTANCE』は、全米で39位、全英では15位を記録した。

BABYMETAL の勝因は、従来のヘビーメタルファンを納得させるだけの技術的な裏付けがあったことも重要だが、それ以上に「アイドルとメタルの融合」という「新しい市場」を創造したことが大きい。松田聖子が「既に存在している巨大市場」に挑んで打ちのめされたのとは対照的だ。おそらく日本人シンガーには、今のところ、この戦い方しかないんじゃないかと僕は思う。

話を松田聖子に戻そう。2017年、彼女は米国の名門ジャズレーベル、ヴァーヴ・レコード(Verve Records)から、初めてのジャズアルバム『SEIKO JAZZ』をリリースした。基本的にはカバーアルバムだが、レコーディングには本場の錚々たるメンツが参加している。

彼女のオフィシャルサイトによると、このアルバムは「全米ハイレゾ最大手配信会社 HD tracks にて、ジャズ部門では第2位、ベストセラー部門では第4位という快挙を成し遂げた」とある。これで彼女はリベンジを果たせたのだろうか。

Song Data
■ The Right Combination / Seiko & Donnie Wahlberg
■ 作詞・作曲:Michael Jay, Michael Cruz
■ プロデュース:Maurice Starr
■ 発売:1990年7月15日

※2018年10月7日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 中川肇

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