孤独な男の人生と愛の狂気を描いた 『アンダー・ユア・ベッド』 高良健吾インタビュー

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「殺人鬼を飼う女」や「呪怨」など数々の話題作を世に送り出した大石圭の人気小説「アンダー・ユア・ベッド」が映画化された。
孤独な人生を送る繊細な男・三井直人を演じた高良健吾のインタビューをお届けする。

【ストーリー】
11年前、大学の講義中に「三井くん」と名前を呼んでくれた佐々木千尋(西川可奈子)のことをふいに思い出した三井直人(高良健吾)。そのとき三井は講義後に千尋を喫茶店に誘い、彼女が好きだというマンデリンのコーヒーを飲み、飼育しているグッピーを分けてあげる話をしたのだった。三井は人生で唯一幸せだったこの時を思い出し、“もう一度名前を呼ばれたい”一心で現在の彼女の自宅を探し出す。そして彼女の近所に引っ越し、観賞魚店をオープンさせた。しかし、 目の前に現れた千尋にあの日のキラキラとした眩しい面影はなく、虚ろな表情をした変わり果てた姿を目にした三井だった…。
愛する女性への狂気の愛を描いた、痛々しくも繊細な男の結末とは――。

説明的になりすぎないように、

引き算しながら演じていました

孤独な人生を送る男のほんの微かな甘い記憶に執着する歪んだ愛を、純粋にそして盲目的に描いた今作。主演作『多十郎殉愛記』が今年公開され、今後は『葬式の名人』や『カツベン』などの公開を控える高良健吾が主演を務めている。
高良演じる三井が大学生時代から11年間一途に想い続ける女性・佐々木千尋役には『私は絶対許さない』(18)でマドリード国際映画祭主演女優賞にノミネートされた西川可奈子。監督・脚本は『バイロケーション』(14)『氷菓』(17)などを手掛けた安里麻里が務めている。
今作の撮影秘話や役について、更に最近観たオススメの映画などを高良が語ってくれた。

ーー今作の原作や台本を読んだ感想からお聞かせ頂けますか。
「結構ハードな描写が多い原作なので、一体どんな風に映像化されるのだろうと思いました。10代後半から20代前半でも三井のような変わったキャラクターを演じていましたが、当時は苦しかった思い出しかなかったというか。周りにはそういう役を演じていた自分のことを羨ましく思う人もいたみたいですけど、僕自身はそこまでしっくりきていなかったんです。でも、32歳になった今は自分がこういう役とどう向き合うのか台本を読んで凄く興味が沸きましたし、三井のような役のオファーを久々に頂けたことが嬉しかったです」

ーーたった一人を除いて、誰からも名前を呼んでもらえなかった三井という男のことをどう思いましたか?
「親を含めて誰からも認めてもらえず、存在を肯定してもらえないというのは相当辛い人生だったと思います。三井は凄く純粋で、だからこそ人から忘れ去られてきたのかなと。そういう孤独な人生を送ったせいでどんどん歪んでいってしまったんだなというのは理解できました」

ーー千尋という女性だけが三井の名前を呼び、三井にとって千尋は“唯一幸せを教えてくれた人”になります。それがとても切なくて、観客にとっても三井を理解できるポイントになるのではないかなと思いました。
「やっと存在を肯定してもらえた、認めてもらえたというのは三井にとって凄く大きな出来事なので、演じるうえでもそこは凄く大事にしました」

ーー監督からはどんな演出がありましたか?
「三井を説明的すぎるお芝居で表現するのは嫌だなと思ったので、監督と相談しながら引き算で演じるようにしていました。あまりにもわかりづらくなってしまった場合は調整して演じていましたけど、基本的には削っていく作業が多かったです」

Photo by Tsukasa Kubota
Photo by Tsukasa Kubota

ーーほぼお一人での撮影が多かったと思いますが、気持ちの作り方やお芝居の仕方が他の作品と違ったということはありましたか?
「それはなかったですね。何故かというと、三井一人だけのシーンの撮影でも周りにはスタッフさんが大勢いるので、他にキャストがいるシーンと全く変わらないんです。確かに相手がいることで“どんなお芝居がくるかな?”というのはありますけど、それ以外は特に違いがないというか。
ただ、一人で狭いベッドの下にずっといたのはこの作品ならではでしたけど(笑)」

ーー(笑)。千尋役の西川可奈子さんとご一緒されてみていかがでしたか?
「千尋のような役は大熱演してしまうとちょっと違うよなと個人的に思っていたんですけど、西川さんは熱演しすぎずに自分と役との間にクールな距離感を保たれていたので凄いなという印象を受けました。どんなにハードなシーンの撮影でも一番明るく振る舞っていらしたので、凄く素敵な女優さんだと思います」

ーー俳優というお仕事をされている高良さんが誰にも存在を認めてもらえない男を演じているというのが興味深かったのですが、三井を演じたことで何か気付いたことはありましたか?
「俳優として関わった作品が世に出ると人から評価されたりしますけど、中には批判的な意見を頂くこともあります。そんな中で、褒められたり肯定してもらうと嬉しい気持ちになるのは当然で、それって三井が千尋に名前を呼んでもらった時の感情と遠くはないのかなと感じました。それから、今作を経験したことで自分は映画でしかつけない嘘の中でちゃんと役として存在していたいなと改めて思うようになりました。そのために役とどう向き合うのかというのはこれからの自分にとっての課題かなと思います」

ーーどんな風に役と向き合うのが理想ですか?
「自分の扱い方を知っていくというか、自分の中のルールを崩して役に入り込むのではなくて、理想は“台本に書いてある台詞を言う”ぐらいの気持ちで撮影に挑めたらいいなと。先ほどの評価の話に戻るんですけど、10代の頃からお世話になっている人達が今作を観て“違う健吾がいた”と言ってくれたんです。その言葉が本当に嬉しかったので、そんな風にひと作品ごとに新しい表現ができるように役と向き合っていきたいです」

Photo by Tsukasa Kubota

ーーご自身が出演した作品の評価や感想をネットでリサーチすることもありますか?
「昔はそうでもなかったんですけど、最近は積極的にリサーチするようになりました。自分が面白いと思った作品を人はどう思うのか興味がありますし、楽しんでくれた人もいれば“面白くなかった”という意見を書いている人もいます。その“面白くなかった”という言葉を見た瞬間は悔しさを感じますけど、それならばどうやったらこういう人にも楽しんでもらえるのかというのを考える良いきっかけにもなるので、なるべくリサーチするようにしいています」

ーーここからはSCREEN ONLINE読者のために高良さんの最近オススメの映画などをお聞きしていきたいのですが、前回は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ビューティフル・デイ』、『ウインド・リバー』についてお話ししてくださいました。最近ご覧になって面白かった作品を教えて頂けますか。
「韓国映画の『バーニング 劇場版』と、Netflixで配信されている『ROMA/ローマ』を映画館で観たんですけど、2本とも面白かったです。『バーニング 劇場版』を観終わったあと、“僕がいま観ていたのは何だったんだろう?”という不思議な感覚になって、凄いものを観たなと思いました。『ROMA/ローマ』は家のテレビで観ていたら寝ちゃったかもしれないんですけど(笑)、劇場だったので全く寝ませんでした。ああいう映画って難しく描こうと思えばいくらでも難しく作れると思うんですけど、そうじゃなくて、ただ淡々と物語が流れていく感じが凄く好きでした。そういう意味では『運び屋』も同じで、ああいう題材をめちゃくちゃ難しい映画にして凄いなと思わせるほうが簡単なのに、わかりやすく描いてエンタメ作品にしていたので、クリント・イーストウッド監督さすがだなと思いました」

ーーそれは凄くわかります! ところで前回ホアキン・フェニックスについてもお話してくださいましたが、『ドント・ウォーリー』はご覧になりましたか?
「劇場に観に行きました。僕の周りでは評価が分かれたんですけど僕は好きでした。“自分を許す”という壮大なテーマを重々しく描くのではなくて、風刺的なユーモアを盛り込みつつ同情させない手法でライトに描いていたので良いなと思いました」

Photo by Tsukasa Kubota

ーーちなみにですが、マーベル作品などもご覧になったりしますか?
「観るんですけど、マーベル作品は単館系の映画とはちょっと違う楽しみかたをしています。どうしても現実的に考えてしまう性格なので、兄弟喧嘩がきっかけで地球が危機的状況に陥ったりすると突っ込みたくなるんです(笑)。それにヒーローが沢山いるから“ソーが一番強いかな? いやハルクかな?”と映画を観ている最中に余計なことを考えてしまったり(笑)。なので、なるべく頭を空っぽにして楽しむようにしています」

ーー好きな映画監督も教えて頂けますか。
「『冬冬の夏休み』などを撮ったホウ・シャオシェン監督が好きで最近よく観直しています。それこそ、ただただ誰かの生活や家族、人生を映していて、それを適当に流しながら観る感じが良くて。僕はあんまり説明しすぎない映画が好きなんだと思います」

ーーでは最後になりますが、映画館の思い出をひとつ教えて頂けますか。
「昔は3本立て上映でも入れ替制じゃなく、地べたに座って観るのもOKな時代があってギリギリ僕はそれを体験しているんです。映画館の思い出というか原風景として残っているのが小学生の頃に観た『学校の怪談』。『学校の怪談』は全く怖くなくて、凄くキュンキュンした思い出があります。まだ観てない人には暑い夏の間に是非観て欲しいです(笑)」

Photo by Tsukasa Kubota

(インタビュアー・文/奥村百恵)

『アンダー・ユア・ベッド』
7 月 19 日(金) テアトル新宿ほか全国順次ロードショー
原作:大石 圭「アンダー・ユア・ベッド」(角川ホラー文庫刊)
監督・脚本/安里麻里
出演:高良健吾西川可奈子 安部賢一 三河悠冴 三宅亮輔
配給:KADOKAWA
R18+
©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

映画『アンダー・ユア・ベッド』公式サイト