ザギトワさん無免許おとがめなし、背景にある複雑な事情

By 太田清

アイスショー「ドリーム・オン・アイス」で演技するアリーナ・ザギトワ選手=6月28日、新横浜スケートセンター

 平昌冬季五輪フィギュアスケート女子の金メダル、ロシアのアリーナ・ザギトワ選手(17)の無免許運転がおとがめなしとなることが決まった。ザギトワさんは故郷の中部イジェフクスに里帰りしていた際に無免許運転した疑いが持たれていたが、イジェフスクの警察当局は容疑を裏付けることができずに捜査を終了したことを明らかにした。ロシアの主要メディアが16日までに、一斉に伝えた。 

 同警察当局は「捜査の結論を出すためには、いつ、どこで、どのような車に乗っていたかなど、すべての状況を明らかにする必要がある」として、ザギトワさんの無免許運転を裏付けるため直接の聴取が不可欠だとしていたが、海外公演などで多忙なザギトワさんをつかまえることができず、そのまま刑法の時効に当たる、罰金刑を問える期間を過ぎてしまったという。 

 元々、ロシアでは無免許運転の罰則は刑法ではなく、行政処罰に関する法律に基づくもので、それだけ「時効」は短い。一方、交通警察の汚職や職権乱用などを告発してきた市民団体「青いバケツ連盟」のコーディネーター、ピョートル・シュクマトフ氏はロシアの通信社NSNに対し、違反を問えないケースはザギトワさんに限らず一般的に増えているとして、交通警察官の人員不足が背景にあると指摘した。 

 シュクマトフ氏によると、ロシアでのマイカーの急増により、現在では平均して車約一千台につき、1人の現業交通警察官しかいない状況となっており、交通違反の捜査どころか事故対応も滞る状況となっているという。 

 法律問題専門サイト「プラバ・ルー」などが伝えたロシア内務省統計によると、2016年から18年前半の計2年半の間に無免許運転で2回以上検挙された人は8万2500人に上り、7500人は5回以上捕まっている。この間に、無免許運転が原因の事故件数は2万6000件に達し、こうした事故で4000人が死亡し、3万4000人以上がけがをした。ロシアの無免許運転事情は深刻だが、警察は十分な対応をしていないとの批判が強まっている。 

 シーズンを終了したザギトワさんは4月末、父親の誕生日を祝うためイジェフスクに帰郷したが、その際に故郷の田舎道で免許もないままに自動車を運転した疑いがもたれていた。ザギトワさんは当時16歳でロシアでは運転免許は18歳からしか取得できない。5月初めに自身のインスタグラムに、音楽をかけながら車を運転する動画を投稿。シートベルトも着用していなかった。 (共同通信=太田清)

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