【世界から】保護者はフーリガン?

米、過激化する子どものスポーツ現場

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保護者同士のいさかいを戒める米アイスホッケーの啓発ポスター=2018年12月、ミシガン州ロイヤルオークのアイスアリーナ 谷口輝世子撮影

 「これはワールドカップの試合ではありません」

 米国のグラウンドに少し変わった看板が掲げられているのを、ツイッターで見かけた。そして、この一文とともに次のような言葉がならんでいる。「コーチはボランティアです」、「審判は人間です」、「これはゲームです」、「彼らは子どもです」―。

 筆者も、米国の野球場や体育館、アイスアリーナなどといったスポーツ施設で同様の看板をいくつも目にしている。これらは、子どものスポーツに興奮し過ぎる保護者への警告メッセージなのだ。

 試合に夢中になるあまり、ミスをしたわが子を怒鳴り、不利な判定を下した審判を激しくののしる。子どもの歓声が聞こえるはずなのに、いつの間にか大人の怒声にすり替わっている試合もある。子どものスポーツで熱くなった保護者同士がもみ合う姿を目撃したのも一度や二度ではない。保護者間であわや乱闘になりかけて警察官が駆けつける騒ぎに出くわしたこともあり、サッカー・ワールドカップ(W杯)のフーリガンよりもタチが悪いのではないかと感じたほどだ。

▼1960年代に変化

 米国の親が子どものスポーツにここまで入れ込むようになったのはいつからか。

 子どものスポーツに大人が関わるようになったのは1900年代前半のことだ。少年アメリカンフットボールの団体である「ポップ・ワーナー・リーグ」は29年に始まった。野球のリトルリーグは39年に設立された。

 社会学者ヒラリー・リービ・フリードマンは、子どものスポーツに競技傾向が強まってきたのは60年代に入ってからだとする。大学の入学選考で優位に立つために、放課後の活動によって他の子どもと差をつけようという意識が出てきたからだ。90年代半ばからは、エリート大学に入る競争が激化。それに呼応する形で、スポーツでの競争も激しくなったとフリードマンは分析している。

大学からの奨学金についての触れている掲示物もある=17年5月、ミシガン州テカムシーの野球場 谷口輝世子撮影

 スポーツは見る人を興奮させる。それに加えて、スポーツの競技成績が大学進学の好材料につながることもあり、親の過熱ぶりに拍車がかかっている。トップ選手になれば、大学の運動部から競技優秀者向けの奨学金を提示され、スカウトされる。強豪大学からの奨学金オファーは、保護者の経済的負担を軽くすると同時に、とても名誉なことなのだ。

 このような背景を反映してか、保護者への警告看板には奨学金バージョンについてのものもある。「ワールドカップではない」という文言の代わりに「大学からの奨学金は、今日は手渡されない」という一文が入っている。

▼スポーツ・ペアレンティング

 保護者に向けた警告メッセージのひな型を作っているのは、スポーツ心理やスポーツ教育の研究者たちだ。彼らは親が過熱する要因、親の過熱が子どもに与える影響などを調べている。

 「ユーススポーツ研究所」を構えるミシガン州立大も、研究結果をもと保護者向けの10カ条を作成。同大学のダン・グールド教授は、忙しい保護者にすぐ読んでもらえ、いつも思い出してもらえるように短い言葉で啓発することを意識しているという。

 40年前に作られた同大ユーススポーツ研究所は、コーチや運動部の顧問に具体的な指導法や指導のありかたを啓発してきた。しかし、2000年代に入ってからは過熱する保護者の問題に直面。現在は、親として子どものスポーツにどのように関わるかを考える「スポーツ・ペアレンティング」にも力を入れており、保護者の意識を変える事を目的にしたさまざまな取り組みを行っている。(米ミシガン州在住ジャーナリスト、谷口輝世子=共同通信特約)

「ここからはキッズゾーン」と注意喚起する掲示物。守るべき事柄が列挙され、違反した場合は退場を求めている。=19年6月、ミシガン州カラマズーのサッカー場 谷口輝世子撮影