シェイクスピアズ・シスターと白黒写真に学ぶ女の友情と加齢 1989年 7月17日 シェイクスピアズ・シスターのセカンドシングル「ユア・ヒストリー」がリリースされた日

朝、鏡に映る自分の顔には、くっきりとした眉間のしわ。私は深く、ため息をつく。

先日再結成を発表したシェイクスピアズ・シスター(以下SS)の新しいビジュアルを目にしたのだが、そこで二人の顔に現われた「マリオネットライン」に、私は釘付けになった。

マリオネットラインとは、加齢にともなって口の両脇から下に伸びるしわが、口をパクパクさせる腹話術人形に似ているから、そう呼ばれているんだとか。だけど私には、彼女たちのマリオネットラインがとてつもなくカッコよく見えた。

このバンドは、シボーン・ファヘイとマーセラ・デトロイトのデュオとして活動した時期がおなじみかと思う。

アイルランド出身のシボーンは、ご存じバナナラマの元メンバーだが、脱退後、ソロプロジェクトとして SS をスタートさせた。一方、マーセラはアメリカ人のシンガー・ソングライター。70年代から活動しており、エリック・クラプトンとも共作している。

バンド名はご存じスミスの同タイトルの楽曲から取ったもので、それと同様に、「シェイクスピアに妹がいたら」という仮説から始まる、ヴァージニア・ウルフによるフェミニズム批評『自分ひとりの部屋』にも言及している。

SS との出会いは1989年夏、ロンドンのタワーレコード。買い物をしていたら、当時発売されたばかりのシングル「ユア・ヒストリー」の MV がモニタに現われた。

低音と高音の女性二人の掛け合いが面白くて、モニタを見つめていたら、低い方があのシボーンだったのだ。しかも金髪を真っ黒に染め、目の周りも真っ黒だったので、彼女とはまったく気づかなかった。

当然、声が高い方がマーセラなのだが、ゴス風シボーンに対比する形か、見た目も1900年代初めのフラッパーな感じ。とにかく、そんな二人のコントラストと掛け合いが最高だったのだ。

この曲はインエクセスの『ニード・ユー・トゥナイト』に似ている、と、誰かに言われたことがある。しかしサビ部分で比較すると、インエクセスの方が「あの最中の男女」を思わせるのに対し、こっちは「アンタなんて過去の男よ」「そうよ、アタシの敵よ」と、女が二人でまくし立てる感じ。

これが確信犯だったとしたら、実に小気味よい。ヴァージニア・ウルフの時代より、ずっと自由な女たち。

1993年に大ヒットしたシングル「ステイ」の MV は、マーセラが瀕死の恋人を「死の天使」シボーンに取られそうになるという筋書きで、非常に印象的なものだった。ブリット・アワードで賞も獲得している。

だが、ほどなくしてマーセラが脱退。「あのビデオはリアルすぎるわ!」と彼女がのちに語ったが、知らぬ間に二人の関係は悪化していたようだ。

時は流れ、今回の再結成まで実に25年間、二人は口をきいていなかったらしい。

間もなく発売されるシングル集『Singles Party(1988-2019)』に収録される新曲「All the Queen's Horses」の MV を見たが、高音と低音の掛け合いは変わらず、還暦を過ぎた女二人の、(いい意味での)枯れ節デュエットに胸を打たれた。

映像は全編白黒。二人のマリオネットラインが強調されて見えた。

かつて写真を少しかじったときに、「白黒で撮ると、余計な情報がすべてそぎ落とされ、輪郭を強調してくれる」というような話を聞いた。

余計な情報(=小じわ)を「白」が飛ばし、輪郭(=マリオネットラインという影)を「黒」が強調するとしたら?
細かいことや許せなかったこと(小じわ)はもうどうでもよくなる。
だけど、自分が歩んできた道(マリオネットライン)は肯定したい。
「年を重ねるってことは白黒写真のようなものなのかな」と、二人の姿を見て思ったのだ。

25年も口をきかなかった人とまた仕事ができるようになるまでに、いろいろな葛藤があっただろう。若い頃は似たもの同士が仲良くなるけど、年を取ると自分と違う人間を受け入れられるようになるのかな。それもこれも、細かいことを許せるようになるからかもしれない。

私もマリオネットラインを絶賛育成中。とはいえ、まだはっきりとしたものは見えない。だが、気づけばキュッと口角を上げているので、自分でも意識はしているらしい。それを受け入れられるまで、もう少し時間がかかりそうだが、とりあえずは今後自分の写真を撮る際、必ず白黒にしておこうとは思っている。

カタリベ: Polco

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