<大ヒット盤> サカナクション『834.194』 二度聴きしてしまう中毒性

サカナクション『834.194』

 6年ぶり通算7作目のオリジナル。東京-札幌間の距離を意味する本作は、CDが2枚に分かれていることに大きな意味を持つようだ。

 DISC-1の方は、総じて派手なサウンドや曲調が多い。「丁寧丁寧丁寧に描くよ」という歌詞や中華風イントロでもお馴染みの『新宝島』や、80年代のリゾートポップス風の『忘れられないの』、GSやゴーゴー歌謡を想起させる『モス』など、幅広い世代が楽しめそうだ。なおかつ、歌詞が隠喩表現に富んでおり、「今何て言った?」と二度聴きしてしまう中毒性も強い。

 DISC-2の方は、飾り気がないバンドサウンドが多い。両ディスクのラストに収録された『セプテンバー』の違いが印象的。DISC-1の東京versionでは、都会的で洗練された音質が特長的なのに対し、生音成分の多いDISC-2の札幌versionでは、前を進もうともがき続ける人生観が強く感じられる。そういう生き方について、前半の「それもまあいいだろう」から、後半の「それもまあいいさ」に変わる部分も、DISC-2の方がより強く伝わる。

 作詞・作曲を手がける山口一郎の歌唱も多彩だ。デジタルロックに合わせた繊細な歌声から、逆に昭和ポップス風に熱い歌声、さらに自然な言葉を届ける際の飾らない歌声など、実は歌い手としてもかなり緻密なんだと感心した。

 本作を聴けば、趣味と実益、主張と強調など二者の間で揺れる場面で、より柔軟に考えるようになるはず。

(ビクター・2CD通常盤 3500円+税)=臼井孝

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