黒南風の季節

 どの市町にも響きのきれいな地名があるが、この時季は佐世保市の「白南風(しらはえ)町」、JR佐世保駅のすぐそばの町が思い出される。白南風とは、梅雨が明けて、明るい空の下を吹く南風のことらしい▲梅雨時に吹く南風は「黒南風(くろはえ)」という。雨雲、雨傘と、雨の季節はどこかしら黒い色を思わせる。いつもの年ならば今は梅雨の終わりで、風が黒から白へと変わる頃に当たる▲言葉の響きも美しく、さらりと心地よいはずの白南風だが、今年はもうしばらく「黒」のままで、と願っている。なにしろ今年の梅雨入りは、統計を取り始めてから最も遅く、実に平年の21日遅れだった▲3連休の終わりのおとといと昨日、県内はおおむね晴れて、暑さも「程よい」と身近に聞いた。長雨よりもよほど過ごしやすい梅雨の晴れ間だったが、雨もまた、程よく降って土を潤さないと、差し障りがいろいろある▲梅雨前線が北上し、きょうはおおむね曇りで、あすは曇り一時雨か、時々雨らしい。この先“遅れ”を取り戻すかどうか。雨乞いの一方、先で豪雨に襲われないように、とも祈る▲長崎大水害(1982年)が発生した7月23日、諫早大水害(57年)が起きた25日が近い。茶褐色の濁流と、土砂の崩れた茶色の山肌と。風が黒から白へと移ろう頃は、ほかの色もまた思い浮かぶ。(徹)

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