父の失業、母の浮気、愛し合いながらも崩壊する家族… ジェイク・ギレンホール&キャリー・マリガン主演『ワイルドライフ』はポール・ダノ初監督作

『ワイルドライフ』© 2018 WILDLIFE 2016,LLC.

『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)、『プリズナーズ』(2013年)でセンシティブ/アブないナヨ男を演じつつ、『スイス・アーミー・マン』(2016年)や『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』(2015年)で俳優としての幅を見せつけたポール・ダノの初監督作品『ワイルドライフ』。ダノと共に脚本を手がけたのは『ルビー・スパークス』(2012年)で共演し、公私にわたるパートナーでもある女優ゾーイ・カザンだ。

初監督作にして傑作! ポール・ダノが実力派俳優陣を招集

『ワイルドライフ』© 2018 WILDLIFE 2016,LLC.

物語の舞台は、1960年代の米モンタナ州の田舎町。ゴルフ場で働くジョーイと妻ジャネット、14歳の息子ジョーの穏やかな生活が、ある出来事をきっかけに崩壊していく様子を静かに、しかし愛情深く描く。まるで油彩画のようにねっとりと色鮮やかな映像が、俳優陣の見事な演技と相まって心の中に深く染み入ってくる。

『ワイルドライフ』© 2018 WILDLIFE 2016,LLC.

俳優としてのダノは“一定の条件が揃うと発狂する地味な男”みたいな役柄が多いが、『ワイルドライフ』は監督としてのダノの思考を通して鑑賞しているような錯覚に陥る、とても物静かな作品。いわゆる映画的な作法を踏まえつつ、ダノ自身が家族の根底にある愛情を手探りしているかのような、パーソナルな気配も感じさせる。

才能爆発の若手俳優、実はシャマランにウ◯コまみれにされたあの子だった……

筋書き自体に突飛さはないものの、セリフの一つ一つがずっしりと重く、スクリーンの隅々までじんわりと緊張感が漂う。ジェイク・ギレンホールとキャリー・マリガンの俳優としての実力をじゅうぶん把握しているダノだけに、まるで家族という設定で自由に演じさせているかのような自然さで、それぞれの豊富な経験を尊重し反映しているようにも感じられた。

そして本作の白眉は、両親に翻弄されるティーンエイジャーの心情を限られたセリフと繊細な表情だけで見事に表現してみせた、エド・オクセンボールドだ。

『ワイルドライフ』© 2018 WILDLIFE 2016,LLC.

映画の中のティーンエイジャーといえば憎たらしいほど反抗的だったりするものだが、本作のジョーは過剰に素直で、心から両親を慕っていることが伝わってくる。こんな若手どこから見つけてきたんだ!? と思ったら、実はM・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』(2015年)でジジイが漏らしたウンコを顔面で受け止めた、あの少年だった。あんなヒドい目にあったのに、たくましく成長してくれて本当によかった……!

ともあれダノは、物憂げな雰囲気が自分と似ているオクセンボールド演じるジョーイに、自身の少年時代を投影しているはず。原作となった同名小説の作者リチャード・フォードに映画化を打診したのも、ダノ自身がこのストーリーに思い当たる経験があったからかもしれない。

俳優引退しないよね? 映画監督ダノの今後に期待せずにはいられない!

当然ながら、親といえども完璧な人間ではない。父親が目の前の問題から逃避したり、母親がいきなり他所の男に色目を使ったりするなんて、14歳でなくともキツい展開だ。人生でもっとも多感な時期に家族の崩壊を目の当たりにするのは、経験した者でないとわからないつらさだろう。

『ワイルドライフ』© 2018 WILDLIFE 2016,LLC.

両親の関係が子どもを(半ば強引に)成長させ、両親もまた子どもに成長を促される。決してスッキリと終わってくれるお話ではないが、崩壊からの再生を目指す家族の姿を見届ければ、情緒あふれるラストシーンが少しだけ心を軽くしてくれるはずだ。

『ワイルドライフ』© 2018 WILDLIFE 2016,LLC.

ところで、ダノとゾーイは意地悪な映画ファンから“意識高い系カップル”なんて揶揄されそうだが、本作を観れば映画制作者としての彼らを称賛せずにはいられないだろう。しかし高い評価を得た本作を経て、2人は今後も俳優業を続けてくれるだろうか? 例えばヴェルナー・ヘルツォークのように、自由に映画を撮るために俳優として資金を稼ぐ、みたいなパターンを選択する可能性もある。どちらにしても、これまで自身を起用してきた名監督たちと肩を並べる存在になったダノとゾーイの今後が楽しみだ。

『ワイルドライフ』は2019年7月5日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

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