ホンダF1、浅木泰昭PU開発責任者 「投入は条件次第」スペック4/鈴鹿スペシャル準備中を明言

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 オーストリアは標高が高いという条件が追い風になったと推測されるが(参考記事:ホンダ13年ぶりの優勝のテクニカルな要因を推測)、シルバーストンでフェラーリと真っ向勝負できたことで、ホンダはスペック3の進化を完全に証明した。ここに至る道のりはどのようなものだったのだろうか? ホンダF1のパワーユニット(PU)開発責任者を訪ねた。

 数年前、日本モータースポーツ記者会の勉強会でF1エンジンの開発などホンダのモータースポーツ技術部門を集約したHRD Sakuraに行ったことがある。最新鋭の風洞施設などその核心部分は当然、見ることはかなわなかったが、施設規模には驚いた。

 それと同時に要塞のようだなとも感じた。小高い丘の奥に社屋があり周囲は山が囲んでいる。山城まではいかないとしても周辺から隔絶されている。秘匿技術を扱うには絶好の環境だ。

 以前、四輪モータースポーツ技術部門は栃木県芳賀にある本田技術研究所の四輪部門のなかにあった。手狭だった半面、生産車部門の技術者がちょっとモータースポーツ部門に顔を出すようなこともあったと聞く。

 今はレースを離れていても「嫌いではない人」が多いホンダだけに「どれどれ」とか「オレがやっていた時には」みたいな話があったようだ。Sakuraだとそんな非公式な相談や継承は、その隔絶された環境ゆえに難しいのではないか……と、立派な社屋を拝見しつつ、余計なお世話ながら感じたのを覚えている。

「Sakuraに所属している技術者は少数です。でも、世界中にあるホンダの研究所に勤務する技術者は膨大です。そこで、このなかから、F1に必要な技術者を選び出して、その技術を役立てるという態勢にあらためました。じつは、私が2018年1月にSakuraのセンター長になったのも、こうした考え方の一環だったのです」と7月19日発売オートスポーツ誌のインタビューに答えているのは本田技術研究所HRD Sakura執行役員HRD Sakura担当浅木泰昭氏。

 Sakuraの物理的環境にデメリットがあったのかどうかはわからないが、Sakuraだけで完結せずに広く社内から技術を集めることが体制変更の大きな目的だったのはたしかだ。生産車や将来の基幹となる技術開発が本田技術研究所の“本業”であり、ホンダとしては目の前の売上は重要課題。そのなかにあってF1に技術者を投入するということ自体、現在、ホンダがどれだけF1を重要視しているかの指標とも言える。

 また「技術者を選び出して、その技術を役立てる」のは、かなりの荒業とも想像され、“腕力”が必要となりそうだ。だからこそ執行役員であり、研究所の全体をみる立場の浅木氏が任されたのだろう。

■ホンダF1次のニューエンジン『スペック4』投入タイミングは、イタリアか、シンガポールか、ロシアか

本田技術研究所執行役員であり、ホンダF1パワーユニット開発責任者を務める浅木泰昭氏

 他部署からの技術移転・応用として、既に公表されているのがMGU-Hの改良だ。ホンダ・ジェットの技術が応用された。「まずはシャフトの改良で信頼性が確保できた。そこでタービンやコンプレッサーの空力開発にも協力してもらって、これをパフォーマンス向上につなげることにした。こういう流れだと捉えていただければいいと思います」

 空力というとすぐに車体の空力を思い浮かべてしまうが、タービンやコンプレッサー内も超音速の空力だ。信頼性だけでなく性能向上にもホンダ・ジェットの技術が寄与していることを浅木氏は認めた。

 しかし、自分の仕事を思い浮かべてもそうだが、直接関係のない他部署から仕事を突然頼まれても、なかなか身体も頭も動かないもの。ホンダ・ジェット部門はどのように考えたのか? 「ジェット・エンジンの開発は10年単位で行なわれます」と浅木氏。

「ところがF1はそれよりはるかに早いスピードで結果が出る。そういう早いサイクルのなかでホンダ・ジェットの若い技術者を育てることには意義があるというふうにホンダ・ジェット側から言ってもらえたのです」

F1に関係するサプライヤーは欧州に集中している。日本で開発する不利もあるはずだが、社内に技術があればこれ以上の有利はない。サプライヤーを通じて技術がライバルに渡ることがないからだ。

 シルバーストンの善戦でレイアウトと速度域の似た鈴鹿でも期待が高まる。鈴鹿に向けたスペシャル・エンジン投入はあるのだろうか?

「ペナルティを受けてもスペシャルを投入する価値があるかどうか、ということに帰結します。我々にとっても、やはり日本の皆さんには応援していただきたいし、日本GPでいい結果を出したいという思いもあるので、もしもやるのだったら鈴鹿に間に合わせたい。ただし、『それによってトータルの獲得ポイントが減らないのであれば』という条件付きですが……」

 第15戦シンガポール、あるいは第16戦ロシア、またはもっと早い第14戦イタリアでスペック4を投入し、レース距離での信頼性、パフォーマンスを確認した上で、鈴鹿で“全開”。そして標高の条件がなくともメルセデスを超える──このシナリオに向けて準備が進んでいるのは確実だ。ここからホンダ・ファンがなすべきことは過剰な期待で無用なプレシャーをかけないことだろうか? 雑音を遮断するのにHRD Sakuraの環境は最適かもしれない。