未来の景色は見えないが

 湖に浮かべたボートをこぐように、人は後ろ向きに未来へ入っていく。フランスの詩人バレリーの言葉という。なるほど、手こぎボートの向かう先の景色は目に映らず、背中の向こうにある▲前途洋々の未来図だけを頼りに進めればよいが、いかんせん、あすという日は測りがたい。一人の人生もそうであり、ある地域、一つの国の行方もまた同じなのだろう▲後ろ向きの格好で、真っすぐか、右か左か、ボートのへさきの向く先を定める日が近い。参院選の投開票日が3日後に迫った▲長崎新聞社が14日から3日間、県内の有権者に電話で世論調査をしたところ、日本が向かう先を巡って意見の割れた事柄もある。自民党は憲法9条に自衛隊を明記することなどを公約に掲げていますが、どう思いますか? 賛否は二分された▲共同通信社の世論調査によれば、憲法改正に前向きな勢力が国会発議に必要な議席数を保てるか、微妙だという。最近の別の調査では、老後資金2千万円問題を争点と「思う」「思わない」がほぼ並んだ。消費税率を上げることへの賛否はどうか-と、目を凝らす点ならばいろいろある▲政党で選ぶ。候補者で選ぶ。いま問われている事柄に絞って選ぶ。人それぞれの選択が積み重なれば、測りがたく、見えがたい未来の景色も変わってくる。(徹)

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