2019年上半期(1月-6月) 上場企業「早期・希望退職」実施状況、17社が募集実施、業績堅調な企業も「先行型」募集へ

 2019年上半期(1-6月)に希望・早期退職者を募集した上場企業は17社に達し、すでに2018年(1月-12月)の実施企業数(12社)を上回った。
 業種別では、業績不振が目立つ電気機器が5社でトップ。次いで、薬価引き下げや国外メーカーのライセンス販売終了などを控えた製薬が4社と続く。年齢条件付での募集では、45歳以上が10社で最多だったが、40歳以上が2社、35歳以上も1社と、募集年齢の若齢化が目立った。
 中小企業は、求人難と退職で人手不足が深刻さを増している。一方、上場企業の一部では事業の選択と集中、人員構成の是正のため、好調な業績のうちに将来を見越した「先行型」の募集を実施した企業も出ている。

  • ※本調査は、2019年1月以降に、希望・早期退職者募集の実施を情報開示し、具体的な内容を確認できた上場企業を対象に抽出した。希望・早期退職者の募集予定を発表したが、実施に至っていない企業、および上場企業の子会社(未上場)のみは除外した。資料は原則、『会社情報に関する適時開示資料』(2019年6月30日公表分まで)に基づく。

上半期で17社が募集、人数は前年1年間の2倍増

 2019年上半期(1月-6月)に希望・早期退職者の募集実施を公表したのは17社だった。募集人数は合計8,178人(判明分)にのぼり、2018年の年間募集人数4,126人の約2倍増に達した。c  なお、7月以降も融資書類改ざんが発覚し、関東地方整備局から7日間の業務停止命令を受けたTATERU(募集人数160名程度)、生産拠点の集約を公表したキョウデン(募集人数未定)が希望退職の募集を行うことを公表しており、企業数、募集人数はさらに上積みの可能性がある。

人数別 最多は富士通の2,850人、JDI、東芝も1,000人超え

 人数別の早期希望退職者の募集は、最多が富士通で2,850人。2018年で最多の日本電気(NEC)の2,170人を約700人上回った。次いで経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)の1,200人、子会社の売却、事業の選択・集中を進める東芝が1,060人と続く。2018年に年間1社だった1,000人超の募集が2019年に入り、すでに3社出ている。

業績が堅調な企業に「先行型」が進む

 上半期に希望・早期退職者の募集を実施した17社の業績は、直近決算で最終赤字が6社、減収減益が4社だった。業績不振に起因する退職者募集が過半を占めるが、一方で、アステラス製薬や中外製薬、カシオ計算機など業績堅調な企業も先を見据えた「先行型」の募集が目立つ。

主な上場企業 希望・早期退職者募集状況

「先行型」「年齢構成バランスの適正化」進む

 アステラス製薬の2019年3月期決算は、増収増益で業績は堅調に推移している。だが、約700人が応募した。同社は、営業サポート支援や企業研修の支援を手がける子会社の再編に伴い、早期退職者を募った。今回の制度対象者は、創薬研究や社員研修など業務支援を行う子会社が中心。対象となる部署の業務は、外部アウトソーシングに加え「既存部署間での置き換えでまかなう」(同社広報)とし、「業績の良い悪いは今回の早期退職制度と関係なく、社内業務の効率化を優先しての実施」と説明する。
 2018年12月期に過去最高の売上収益、営業利益を達成した中外製薬も、薬価改正など今後想定される事業環境の変化に対応するため、早期退職優遇措置を実施した。
 カシオ計算機の2019年3月期は、前期比5.3%の減収となったが、最終利益は同13.1%増の“減収増益”だった。ただ、社員の平均年齢は46歳と完全な“逆ピラミッド型”の年齢構成になっており、均等化が長年の懸念材料となっていた。同社広報は「80年代から90年代初めにかけ、ピーク時は1年で500人規模の採用を行った年もあり、年齢構成に偏りがあった」として、「予算を潤沢に計上できるうちに制度の実施に踏み切った」と早期退職実施の背景を説明する。

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