いつか行ってみたい!大自然に包まれながらロングトレイルを歩く「アメリカ3大トレイル」 ULの記事などで最近よく見る「アメリカ3大トレイル」。ハイカーたちは春から夏にかけて、アメリカの雄大で多様性あふれる自然や生き物、歴史、文化と出会い、気まぐれで時には厳しい気候の中に身を置き、一歩一歩あるいていきます。 ULやロングトレイル、スルーハイクなど、最近よく聞くワードは全てここから生まれているのです。アメリカ3大トレイルの特徴と必要な事前準備まで、まるごと解説します!

アメリカ3大トレイルって知ってる?

日本のロングトレイル人気の中で、その元祖として注目されているのがアメリカ3大トレイル。パシフィッククレストトレイル(PCT)、アパラチアントレイル(AT)、コンチネンタルディバイドトレイル(CDT)がその3つにあたります。

3つ全てのトレイルが3,500〜5,000kmというビッグスケール。ハイカーたちは草原や砂漠、山岳地帯など、変化に富んだ地形を、春から夏のワンシーズンに踏破するのです。
アメリカの雄大で多様性あふれる自然や生き物、歴史、文化と出会い、気まぐれで時には厳しい気候の中に身を置きながら、ハイカーたちは時間をかけて一歩一歩踏みしめていきます。

スルーハイクって何?

スルーハイク(スルーハイキング)とはワンシーズン(6ヶ月ほど)の間にロングトレイルを踏破すること。アメリカ3大トレイルに挑戦するハイカーは雪道をなるべく避ける為、春から夏にかけてスルーハイクするのが一般的です。UL(ウルトラライト)の概念も、スルーハイクを追求することで生まれました。

アメリカ3大トレイルってどんな場所?

どのトレイルもアメリカ南部をスタートし、北上するルートが一般的。3大トレイル全てを踏破したハイカーは「トリプルクラウン」の称号を得ることができます。ここでは、アメリカ3大トレイルを難易度順に見ていきましょう。

アパラチアントレイル(AT)

  • 総距離,最高地点,最低地点,所要時間,踏破率
  • 3,498km,テネシー州クリングマンズ・ドーム(2,025m),ニューヨーク州ハドソン川,5〜7ヶ月,約20%

アパラチアントレイルは、アメリカ創世記の歴史を感じられるロングトレイルです。中でも人気のNOBO(ノースバウンド)は、ジョージア州からメイン州へ北上するルート。ルート上には、アメリカ開拓や南北戦争の舞台が点在しています。
アパラチア山脈のアップダウンの多い稜線や森がトレイルルートとなっているため、霧や雷雨、ストームに遭うことも。他のトレイルに比べ比較的標高が低いので、人里と交差する箇所が多いのが特徴です。
ゴール地点マウントカタディンのある自然公園は例年10/15に積雪のためクローズするため、早めのスタートが必要です。踏破時には、アパラチアントレイル協議会から証明書とワッペンをもらえます。

アパラチアントレイル協議会(Appalachian Trail Conservancy)

パシフィッククレストトレイル(PCT)

https://www.google.com/maps/d/embed?mid=1GDzxFLH8HrHMe-are7GEuIXaVjMIIzg2

  • 総距離,最高地点,最低地点,所要時間,踏破率
  • 4,260km,シエラネバダ州フォレスター峠(4,009m),オレゴン州カスケード・ロックス(43m),4〜6ヶ月,約60%

アメリカにおけるロングトレイルブームのきっかけとなったのは、PCTが舞台の映画「私に会うまでの1600キロ」とその原作「WILD」。メキシコ国境を出発し、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境までを結ぶトレイルです。
シエラネバダ山脈やカスケード山脈などの高山地帯や、砂漠、草原、氷河など、さまざま地形を縦走します。このトレイルの一部が、アメリカで一番人気のトレイルルート、ジョン・ミューア・トレイル(JMT)です。

パシフィッククレストトレイル協会(Pacific Crest Trail Association)

コンチネンタルディバイドトレイル(CDT)

  • 総距離,最高地点,最低地点,所要時間,踏破率
  • 約4,300〜5,100km,コロラド州グレースピーク(4,352m),ニューメキシコ州コロンブス(1,200m),6ヶ月,不明

「大陸を分断する」という意味のコンチネンタルディバイドトレイルは、カナダからメキシコまでを結ぶ、ロッキー山脈に沿ったトレイルルートです。
整備されていない箇所が多く、ルートの3割が消失しているため実際の総距離不明。踏破には地図読みの技術も必要です。既にATやPCTを制覇したベテランハイカーの挑戦が多く、アメリカ3大トレイルの中でも一番の難易度と言われています。
慣れたハイカーにとっては、まだ形になっていないトレイルを歩くのも楽しみでしょう。

コンチネンタルディバイドトレイル(Continental Divide Trail Coalition)

チャレンジするには、どんな準備が必要?

6ヶ月にも及ぶスルーハイク。長期の行動・食糧計画を立てておくことはもちろんですが、トレイルの準備以前に、ビザ取得や海外旅行保険の加入など、海外長期滞在としての準備も必要です。どのような準備をしておく必要があるか、確認してみましょう。

①「アメリカビザ」は最初で最大の難関?

日本国籍の場合、90日以内のアメリカ渡航であればビザ不要ですが、スルーハイクのような長期間に及ぶアメリカ滞在にはビザが必要となります。ビザの中でもB-2ビザ(旅行、友人や親族の訪問、治療、同窓会や社交、奉仕活動など娯楽や休養が目的)の取得が一般的です。B-2ビザの場合、6ヶ月間以内のアメリカ滞在が認められます。

B-2ビザの取得には、アメリカ大使館、領事館のサイトより英語にてオンライン申請(DS-160ビザ申請書)し、ビザ申請代金支払いの上、アメリカ大使館または領事館(東京、大阪、福岡、沖縄、札幌のいずれか)での英語面接が必要です。
面接は事前予約必須ですが、予約がとりにくい傾向にあります。オンライン申請にも時間がかかるので、早い段階で準備しておくことをおすすめします。

面接時には、下記を証明する補助資料の提出が必須です。

面接時に必要な補助資料(全て英文)
︎現在の収入、納税、財産、事業所有権、資産の証拠書類。
︎予定している旅行に関する旅程表やその他の説明。
︎職位、給与、勤続年数、休暇許可、米国への旅行に際して仕事上の目的がある場合はその目的、を詳述した雇用主の書簡。
︎刑期を満了済、もしくは恩赦された場合であっても、逮捕もしくは有罪判決などの犯罪歴/裁判歴。
出典:米国ビザインフォメーションサービス

※ビザ申請条件等は予告なく変更される場合があるため、必ずご自身にてご確認ください。

補助資料をチェックするのは、アメリカ3大トレイルについてほとんど知識のない領事館のスタッフです。「自分が挑戦したいトレイルとは何か」からはじまり、なぜ挑戦したいのか、どうして90日以上の日数が必要なのか、計画表や帰国後のプランまで全て英文にてレターを作る必要があります。計画の実現性をアピールするため、トレイルの許可証や海外旅行保険の保険証、可能であれば往復の航空券(Eチケット)などを事前準備しておき、補助資料として提出するのもいいでしょう。

永住を疑われるとビザ申請却下、今後のESTA(90日以下のビザ免除プログラム)申請さえも拒否されてしまう可能性があります。「トレイル終了後は必ず帰国する」旨のアピールは必須です。休職してスルーハイクに挑戦する場合は、職場に在籍証明書や休職証明書などを英文で発行してもらいましょう。

資産の証拠書類(確定申告書、登記事項証明書など)も英文翻訳の上、提出が必要となります。英文の残高証明書は銀行にて発行可能です。スルーハイクにかかる費用は、一般的に3,000〜5,000USD(アメリカまでの交通費を除く)と言われていますが、ビザ申請の際はそこまでの残高がなくても問題のないケースが多いようです。

またカナダやメキシコから歩きはじめる場合、それぞれの入国条件も確認する必要があります。
米国ビザインフォメーションサービス

②地図をゲットして「計画表」をつくってみよう

アメリカビザの申請にも必要な計画表。トレイルマップやガイドブックなどは、保護団体ウェブサイトやAmazonにて注文可能です。
スルーハイク中の食料全てを持ち歩くことは難しいため、3〜7日に一度は町に降りて食料や備品を補給するイメージで計画を立てましょう。1日に何km歩くことができるか、自分の体力を把握しておくことも必要になってきます。

アメリカ3大トレイル専門のウェブプラットフォーム「THE TREK」では、まさに今スルーハイクに挑戦中のハイカーのブログ記事を読むことができます。現在挑戦中のハイカーがどんなスケジュールで挑戦しているのか、絶対参考になるはず。
THE TREK
日本人初のトリプルクラウン、舟田靖章さんのウェブサイトにも実際の行程表が掲載されています。
逍遥遊(舟田靖章さんのウェブサイト)
CDTに挑戦するなら、CDTの神と呼ばれるジョナサン・レイ氏の地図も必見です。
Jonathan Ley’s CDT Maps for 2016

③「パーミッション(許可証)」は必要?どうやってとればいい?

国立自然公園や一部指定地区で宿泊を伴う通行を行う場合、パーミッション(許可証)を取得する必要があります。
1日あたりの発行数に制限があるパーミッションは、事前予約が必要です。希望日のパーミッションが取れない場合、ルート変更を余儀なくされることも。早めに確認しておく必要があります。許可証の取得方法はそれぞれ異なるため、管轄している管理機関のウェブサイト等でチェックしましょう。
PCTの場合は指定エリア毎のパーミッションとは別に、PCTに挑戦するためのパーミッション「PCT長距離許可証」が必要となります。

④スルーハイクで一番重要な「リサプライ(再補給)」

安全で確実なスルーハイクを行う上で、一番重要と言われるリサプライ(食料、燃料の再補給)。トレイル中は1週間前後の食料を持ち歩き、なくなる前に町に降りて補給する必要があります。もちろん町の商店で補給することもできますが、必ずしも欲しいものが売っているとは限りません。確実なリサプライを行うため、トレイル周辺の郵便局や食料品店宛に必要物資を送ることも可能です。ほとんどのハイカーは事前に荷物を郵送し、スルーハイクをスタートさせます。

トレイルルート上には、ハイカーに無料で食事や宿を提供してくれるトレイルエンジェルというボランティアの存在も。もし出会えたなら、そのご厚意をありがたく受けましょう。

⑤無駄なものは持ちたくない!気になる「装備」

テントや寝袋、食料などを含め総重量20kgの荷物を背負っているULハイカーが多い傾向にありますが、軽量化にこだわり過ぎず、万が一の事態を考慮したギアを厳選したいですよね。
霧や雷雨が多いATやCDTではしっかりとした雨具が必要です。PCTではクマ対策のベアキャニスターの使用必須となっている区間があります。トレイルの地形や気候にあわせた装備を準備しておくことはもちろん、トレイル毎のルールも確認しておく必要があります。食料と同様、必要なタイミングに合わせて町の郵便局や飲食店に装備を送ることも可能です。アメリカ3大トレイル専門のウェブプラットフォーム「THE TREK」では、おすすめのギアも紹介しているので参考にしてみましょう。THE TREK

飛行機で運べるもの、運べないものは?

海外ハイクの場合国際線航空機への搭乗は必須。装備によっては、航空機への持ち込みが制限されているものもあります。機内持込み、受託手荷物ともに不可なものは、現地到着後に購入しましょう。

︎機内持込み可・受託手荷物(預け入れ手荷物)不可
モバイルバッテリー、ライター・マッチなどの火器類(一人1つまで)、電子タバコなど
︎受託手荷物(預け入れ手荷物)可・機内持込み不可
ナイフ・ハサミなどの刃物類、トレッキングポール、アイゼン、水銀医療用体温計など
︎機内持込み・受託手荷物(預け入れ手荷物)ともに不可
ガス・スプレー缶(調理用ガスカートリッジ、酸素スプレーなど)、固形燃料、瞬間冷却材、自動加熱食品など
※詳細は利用航空会社のウェブサイトにて確認できます。

搭乗に際しての荷物とは別に、アメリカへの持ち込みが禁止されているもの(特に食品)に対しても注意が必要です。アメリカを含むほとんどの国で、海外からの肉製品、乳製品、野菜、果物類は持ち込み禁止。肉(牛、豚、鶏)の成分が入っているフリーズドライ製品や、カップ麺、缶詰、レトルト、ブイヨンなども罰金の対象となります。日本の食べ慣れた味を持ち込みたいところですが、食品成分表をチェックを忘れずに!

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Leave No Trace(自然に足跡を残すな)のマインド

アメリカのハイキングカルチャーの中で大切にされている「Leave No Trace(自然に足跡を残すな)」。自然をそのままに、訪れた痕跡を残すなという意味です。事前に多くの準備が必要なスルーハイクですが、頭でっかちにならず自然を尊重するマインドを大切に楽しみたいものです。

歩くことが中心となる半年の生活は、本来の自分のリズムを見つけるきっかけをくれるはず。大自然と向き合い、共存しながら、自分自身とも向き合う旅になるかもしれません。

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