政党や候補者のネット広告は何が問題なのか?ネット選挙解禁から6年で、問われる豊かな政治コミュニケーション|西田亮介准教授に聞く| #参院選2019

7月21日投開票の第25回参議院議員通常選挙(以下、今回の参院選)。今回改選が行われるのは「ネット選挙」が解禁された2013年の参院選に当選した議員の議席です。ネット選挙解禁から6年が経ち、政治家や政党のネット戦略はどのように変化してきたのでしょうか。今回の参院選では、公示前に政党が行った広告にも注目が集まるなど新しい展開も。そうした状況を踏まえ、選挙ドットコムでは東京工業大学の西田亮介准教授にお話を伺いました。

ネットを主軸に情報収集する人が今後も増えていく以上、ネット選挙の影響は増えていく

–選挙ドットコム
ネット選挙解禁から6年が経ちましたが、大きな流れとしてネット選挙は効果があったのでしょうか?活用は進んだのでしょうか?まず、西田先生の評価をお伺いしたいです。

–東京工業大学・西田亮介准教授(以下、西田氏)
インターネットでの選挙運動が投票率向上や政党の獲得議席数に直接的な影響があるかはよくわからない状況は今も昔も変わりません。今は普及が進みどの候補者も政党もネット対策をするようになったのでネットだけが効いている、ということがますます言いにくくなったことだと思います。

選挙運動の期間然り、政治活動も然り、候補者にとってインターネットは欠かせないツールになったことが一番の変化と言えます。国政レベルであればほとんどの候補者がインターネット選挙運動を行い、インターネットを使った政治活動をやっています。実態はともかく、政治の世界で「インターネットは重要だ」「ネット対策が重要だ」という規範が形成されたのだと思います。

–選挙ドットコム
そういった規範ができたのはなぜでしょうか?

–西田氏
理由はシンプルで、インターネット以外の選挙運動の手法はかなり厳格に規制されていることがあります。一方でインターネットは、電子メールや有料広告には一部規制があるものの、かなり広範な裁量が認められている状況です。インターネットのサービスはさまざまなものが存在し、テキストベースもあればイメージが中心になっているものもあります。なのでそれらをどうやって使っていくのか、という点に関心が高まっています。若い世代のみならず、現役世代の多くがインターネットを主軸に情報収集をしているのは自明ですから、選挙や政治においてもそうなりつつある、ということではないでしょうか。

 

「ネットの使い方競争」で政党・候補者が試行錯誤を重ねてきた

–選挙ドットコム
2013年のネット選挙解禁当時は、「ネット上で演説の告知しかしていない」というような批判も耳にしました。候補者や政党のネット活用は、6年前と比較してどう変化したとみていますか?

–西田氏
この6年間で、政党間や候補者間での競争を通じていろんなやり方が出てきたと思います。国会議員だけでも衆参両院で700人くらいいるはずですから、やはり選挙は競争だと言わざるをえないと思うんですよね。「インターネットの使い方競争」の中で新しい告知の仕方、広告の使い方などを含めて様々な創意工夫や試行錯誤がなされていると。ただ、かなり状況は改善したとはいえ、民間の水準、広告業界の水準と比べるとまだ見劣りすると思います。

–選挙ドットコム
選挙期間に入ると「政党等」しか有料広告を出すことができなくなるというルールがあります。今回も自民党などは積極的にバナー広告などを展開しているように思われますが。これ自体は問題ないことですよね。

–西田氏
そうですね、有償バナー広告は政党等だけにしか認められていない選挙運動の手法です。

–選挙ドットコム
この辺りの変化についてはどう見られているでしょうか。毎回のように新聞社の選挙情報特集などには政党のバナー広告が貼られていたりしますが。

–西田氏
バナー広告もありますが最近はキャンペーンハッシュタグが増えましたね。前回の参院選で行われていた例としては民進党による「#3分の2を取らせない」がわかりやすいです。

日本の場合は国政選挙の選挙期間は衆議院は12日間、参議院は17日間と概ね2週間程度です。この期間だけでネットを使った選挙運動を十分に行おうとするとフォロワー数を増やすことなどには無理があるので、事実上政治活動とシームレスな取り組みを行う政党・候補者が増えているという印象です。

広告という観点では今回、自民党の深夜CMが話題になったかと思います。違反だ、という声もありますが公選法で認められている「政治活動用CM」の域を出ないという印象です。特定の選挙について言及せず、特定の候補者が出てくるわけでもなく、投票を呼び掛けていませんから、従来の解釈からいえば政治活動用のCMとして区分されるものになります。ただ確かに、参院選の期間中に政党がCMを打つことがどうなのか?という疑問や、投票結果に影響を与えるのかどうか、という点で議論が起こるのはわかります。しかしながら、従前から多数の政党がこうしたCMを行ってきた経緯もあり、今回のものが特に悪質なCMであるとは思えませんね。

与党か野党か、政党か候補者かに関係なく「グレーゾーン」を突くのが当たり前になっている

–選挙ドットコム
一方で候補者もあの手この手で試行錯誤している印象があります。Facebook上で自分の出版物を広告している例もありますが、この辺りもグレーゾーンとしか言えないのでしょうか。

–西田氏
同じように本を出した告知看板を選挙の時期に置くのはどうなのか、といった問題は昔からあります。これは野党についても同様のことが言えます。いわゆるグレーゾーンを突くアプローチは誰でもやっているんですね。これはある意味当然で、候補者も政党も、みんなそれぞれ死に物狂いなんですよ。政治家は当選するかしないかで明日の生業が変わってくるわけですから。

衆院選での小選挙区制や、参院選での1人区が増えていることからますます厳しい状況になっているわけです。なので、直ちに違反とは言えないグレーゾーンは、いずれ使い尽くされるということなんだと思います。

–選挙ドットコム
公選法違反にならない範囲で、創意工夫を重ねているとも言えますね。

–西田氏
ただグレーゾーンを突いていることを好ましくないな、と思うことは生活実感としてありうると思います。選挙の専門家らは政治活動・選挙運動は判例の蓄積などに基づいて区別できる、としています。それは確かにその通りですが、その区別・定義が有権者の生活実感と合致するかどうかといえばそうでもない、というのは否定できないと思います。こうした感覚のずれによって批判的な声が上がってきているのではないでしょうか。

公選法や政治資金規正法、政党助成法、放送法など、これらの関連する制度全般を棚卸しして、現在のメディア環境や選挙運動の実態に照らしつつ民主主義の根幹である選挙の在り方をどうしていくのか、どうすべきなのかという議論は大いにあり得ると思っています。むしろそういった議論が少なすぎます。

ただ、そういった議論と現行の規制の中で特定の事象をどう解釈するのか、違法なのか適法なのか、というのは別の問題です。日本の公選法は部分部分の改正だけで時代の変容を乗り切ってきた面があるので、変な所は他にもたくさんありますから。

ネット上での発信は目に入りやすい。受け取る側にどう捉えられるかがカギ

–選挙ドットコム
ネットでの広告については、どちらかと言えば否定的な声が多い印象です。その一方で公選法では新聞広告、ハガキなどは公費で負担されるという状況で、アンバランスな印象があります。現状ネットの方にお金が回っていない(マーケティング対象ではない)ことのほうが、時代にそぐわないという見方もあるのではないでしょうか。

–西田氏
やはりネットが影響力を増したこと、日常生活の中に浸透したことの現れで、そのような議論が広がっているのではないかと思います。そもそも若い人たちは新聞を読まなくなっているので、新聞に出ている広告って目につかないし知らないんですよね。だから指摘もしないし、できない、と。ネットでの広告はタダで目に入るわけですから批判の槍玉に上がりやすいんだと思います。

先般話題になった「ViVi」の問題でも同じようなことが言えるかと思います。政党による雑誌広告は90年代終わりから行われていることで、別に今に始まったことではありません。ではなぜ今回炎上することになったのかを考えてみると、やはりネット上でタダでみんなの目に入ったからではないでしょうか。

一方であの企画が、政治知識がまったくゼロの人にとってどう見えるかを考えてみましょう。確かにTシャツはダサく見えるかもしれませんが、若い人に対して何かしらのメッセージを発しようとしている、声を聞こうとしている、そうした姿勢があると受け取られうる点で一定の効果があるかもしれません。対して自民党以外の政党は、声高に批判を加えていながら若い人に対するメッセージはいまいち見えにくい、と捉えられてしまいます。

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