『生理ちゃん 2日目』小山健著 漫画じゃない

 手塚治虫文化賞、受賞おめでとう! 映画化も決まったし、すごいなあ、なんだか遠くに行っちゃったみたい。って、すんません、友達でもなんでもないんです。けど、ついそんなことを言いたくなっちゃうのが彼なわけで。

 そんな国民の友達、漫画家の小山健が今、乗りに乗っている。2014年に発表した初の書籍『手足をのばしてパタパタする』が話題を呼んだ小山。彼の新刊は『生理ちゃん 2日目』。前作『生理ちゃん』の第二弾だ。

 不登校の中学生、銀河系を漂う妊活中カップル、女子高生アイドル、世界の終わりに何者かと戦う女、そして漫画編集者……。SF、ヒューマンドラマ、ラブロマンスなんでもござれ。個性豊かな女性たちに焦点を当て、置かれている状況、抱いている葛藤を、毎月訪れる「生理ちゃん」との関係性(生理の擬人化とか斬新が過ぎる…!!)を通して描いている。

 なにがすごいって、これまでの彼は、自身のことや妻さち子、娘のことといった、自分とその周辺を描いていた。「スゴイって思われたい」とか「モテたい」「女の子かわいい」「娘かわいい」「嫁微動だにせん」みたいな日常の、いわゆるエッセーマンガを得意としていたのだ。それが、男性である小山の身には起こり得ない、女性の生理現象をテーマとしている。しかも「自分の意思とは関係のない、ボディーとソウルの絶不調」を描こうとしているのだ。

 さらに本書はそれだけにとどまらず、「生理と、それにより生まれる葛藤や自責の念、社会との距離感」まで描いている。

 ある中学生は授業中、黒板に立ち問題を解いていたら、スカートに経血が漏れていたのをクラス全員に見られてしまった。それを境に学校に行けなくなってしまう。

 またある漫画編集者の女性は、「人様に迷惑をかけたらいかん」と教わり、現在もそのように働いていた結果、重い生理ちゃん……ではなく卵巣嚢腫になった。即入院となり、「めちゃくちゃ迷惑掛ける」と青ざめたが、雑誌は無事刊行。自分がいなくても「意外と大丈夫やった」と、それはそれですこしさびしいと、病院のベッドでひとりごちる。

 他者との関係ではなく、一番近くて遠い、自分の体という得体の知れなさ。そしてそれを解放しきれないこと、ないもののように扱われることで生まれる弊害。それらと向き合い突き詰めようとした作品って、これまであったかな。しかも漫画で。

 人間の体は、それだけ神秘が詰まっていて、その底知れぬものの正体を、小山は、小山のままで描こうとしている。これは漫画じゃない。漫画という手段を使った、新しい保健体育の授業であり、想像力の冒険だ。数年前に小山家にやってきた超絶かわいい娘さんが、大きくなった時にこれを読んで何かを感じてくれたらいいね。そんな本気が伝わってくる。

(KADOKAWA 1200円+税)=アリー・マントワネット

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