【美女の乗るクルマ】-scene:14- 三菱 デリカD:5 × 引地裕美

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

恋人との喧嘩の発端は車のデザイン

それについて話せば話すほど、僕らの関係はややこしくなる。

たしかにあやまちを犯したのは僕だが、もう必死に謝りつくしたし、裕美も納得してくれたはずだった。その事実を彼女が知った時、僕は彼女と別れることになっても仕方がないと思ったし、覚悟もしていたが、しかし彼女だって別れることを望まなかった。

彼女の気持ちはいまだに荒れているようだが、僕はもうそのことを考えるのにも辟易していて、それでも彼女とドライブをしている。喧嘩の発端にもなったデリカD:5で───。

(この物語はフィクションです。)

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三菱 デリカD:5 × 引地裕美

デリカD:5が新しい顔になった時、世間のクルマ好きの間では論争が沸き起こったそうだ。どちらかというと否定の声が多かったようだが、僕はこのデザインを見た瞬間から、迷わず買うことを決めていた。

良くも悪くもインパクトが強い。たしかに僕もそう思った。しかしこれほど強烈な印象の顔でも、箱型のボディ全体を含めて眺めてみると、まだ物足りなさを感じる。クルマに興味のない裕美に言わせれば、「ミニバンって後ろや横から見たら全部同じに見える」のだ。

それでも、野性的でありながら、直線基調で日本的な礼儀正しさを携えた、相反する世界観が共存する新しいフロントデザインを気に入り、デリカD:5を購入したのは3ヶ月前だ。納車された直後、裕美はこのデザインを気に入ると同時に、SF映画好きの彼女らしい感想を言い放った。

裕美:「まるでプレデターみたい」

僕:「そうかな、僕には電気シェーバーに見えるけど」

裕美:「いや、これは絶対プレデターだよ。きっと開発した人は、絶対SFやホラーが好きだよね」

僕:「まあ、それはあるかもしれないけど、プレデターはもっと生物的だからさ」

かくいう僕も、それなりの数のSF映画を観ていて、『エイリアン』派である。どちらかといえば『プレデター』のことを認めていない。なのに、自分が気に入って買った愛車に「プレデター」などと愛称をつけられてはたまらないではないか。ここは食い下がった。

そしてその時、ちょっとしたプレデターvsエイリアン論争になったため、余計なことを言ってしまったのだ。

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

僕:「だって、ここで一緒に『プレデター』を観た時、裕美だってエイリアンのデザインの完成度にはかなわないって言ったじゃないか!」

裕美:「え……わたし、あなたと『プレデター』観てないけど。あなたがこの映画を好きじゃないの知ってるから、わたしあなたとは観ないようにしてたのに。一体誰と観たの?」

痛恨のひと言だった。実は僕は彼女と付き合っているにもかかわらず、一度だけあやまちを犯していた。会社の後輩に浮気したことがあったのだ。

はじめのうちは気色ばんで否定していたが、あまり嘘が得意じゃない僕は、それから一日中、裕美に問い詰められ、洗いざらい本当のことを答えた。結果として、お互い別れたくない、別れないという結論に達した。その後輩とは別れるという言葉を使うまでもない関係だったが、もちろん、二度とプライベートで合わないことを約束した。

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

カーラジオから聞こえてきたのは「ノルェイの森」

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

あれ以来、現在まで謝罪の日々が続いている。毎週末ごとにドライブに駆り出され、なにを言われても裕美の言う通り、彼女の欲しいもの、やりたいこと、すべての要望をかなえている。今日は大自然のなかで空気を味わいたいというので、早朝のうちに都内を出発していた。

デリカD:5のデザインがもとで僕のあやまちがバレてしまったとはいえ、このクルマに罪はない(そりゃそうだ)。それにしても、従来モデルから改良されたというクリーンディーゼルエンジンは静かだし、力強い。高速道路で合流や追い越しする時などもストレスフルだ。全グレードで標準搭載されているというACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)も、高速走行での巡行をアシストしてくれる。

走行中、また僕のあやまちに関してちょっとした言い合いになったが、正直、デリカの運転に夢中になっていて、何を話したか覚えていない。

「もういいよ」

そう言うなり、裕美はむくれて窓の外を向いてしまった。クルマがスイスイと高速道路を進んでいる一方で、僕たち二人の沈黙により、車内の空気はずっしりと重かった。

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

気がついた頃には、ある山の中腹にまで達していた。うっそうとした木々のなかで、走っているクルマが、1台、また1台と減っていき、そのうちデリカ以外のクルマは見られなくなった。いつもなら輝いて感じる森の木々が、今日だけは不自然に感じられる。この広い山の中にあって、僕と彼女とデリカだけが存在しているような気さえした。その時、カーラジオから、ビートルズの「ノルェイの森」が流れてきた。今のシチュエーションにぴったりだった。

だいぶ森の奥まで到達すると、裕美はいつもの前向きさを取り戻したのか、それまでの表情とはうって変わって、明るくチャーミングな表情になった。

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

裕美:「ねえ、すこし外を歩かない?」

僕:「もちろん、いいよ」

僕はそう言いながら目を落とし、彼女のお尻の下にあるシートの刺繍を眺める。ひし形が規則的に並んだダイヤモンドキルトデザインだ。彼女の言うことには何も逆らわない。あやまちをおかしたのは僕だから。

そして二人で何もない、ただの森の中を歩いた。10分ほど歩いただけなのに、何時間も歩いてるように感じられた。足元からは草いきれが上がってくる。

正直なところ、うちに帰りたいと思った。今すぐ帰って、自慢のホームシアターで一人きりで映画を観たい。たとえば北欧映画のような、最初から最後までうんざりするほどヒューマニズムに溢れてて、観終わったあとに、人生訓になっているようにも、何にも意味がなかったようにも感じられる、そんな映画が観たい。

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

僕は理想の父親になりたかった

愛車を買いかえたばかりの多くのクルマ好きがそうするように、気が滅入りそうな時は、愛車・デリカD:5のことを考えるようにしている。今歩いているデコボコした路面も、ミニバンとは思えない最低地上高を備えたデリカD:5なら乗り越えられるだろうなとか、今まで乗ってきたどんなクルマよりもボディがしっかりしてるから、もしかしたら崖から落ちてもケガしないかも、などと……。

そんな折、裕美が唐突に聞いてきた。

裕美:「なんでミニバンだったの?」

僕:「え?」

裕美:「ほら、ステレオタイプな見方かもしれないけど、ミニバンって小さな子どもがいるパパが選ぶもんじゃない?」

僕:「そうかもね」

裕美:「あなたくらいの歳なら、スポーツカーとか外国車とかを選びそうじゃん?」

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

僕:「……僕は、理想の父親になりたかったんだ。一度だけ話したかもしれない。僕の父親は、もう死んでしまったけれど、決していい父親ではなかった。いいつけどおりにしないと殴られたし、家族でドライブに連れていってくれるようなこともほとんどなかった」

裕美:「今の時代だったら大問題だね」

僕:「だから……」

裕美:「だから?」

僕:「僕は将来、僕が子どもの頃に欲しかった、そんな父親になりたい。よく女の子がお嫁さんになりたいなんて言うけれど、僕の夢は理想の父親になることなんだ」

裕美:「そっか〜。だからミニバンなんだね」

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

言ってしまった。僕は嘘がつけない。こんな僕が言っても説得力はないかもしれない。けれど、はじめて彼女に夢の話を白状してみると、なぜだか、後悔のような、安堵のような、長い眠りから目を覚ましたかのような心地になった。

不思議とその日は、それから彼女と言い合いになることはなかった。僕もそうだが、彼女も落ち着いていた。そういえば、デリカD:5のインパネデザインは水平基調で理想的だ。何かの雑誌には、「オフロード走行中に水平を確認できる」とかなんとか書いてあったけれど、僕にとっては運転しているときに落ち着いた雰囲気を演出してくれるアイテムのひとつだ。

帰りの高速を走っていると、裕美がつぶやいた。

「ところで、ずっと言おうと思ってたんだけど、このシートの模様いいよね」ひし形が規則的に並んだダイヤモンドキルトデザインだ。カーラジオから、リズムのいい、今どきのハウスミュージックが流れてきた。曲名は知らない。

[Text:安藤 修也/Photo:小林 岳夫/Model:引地 裕美]

Bonus track

引地 裕美(Yuumi Hikichi)

三菱 デリカD:5 × 引地裕美

1992年2月6日生まれ(27歳) 血液型:B型

出身地:神奈川県

2019UPGARAGEドリフトエンジェルス

2016-2019 FLEX GIRL

2014-2018年 エヴァレーシング 綾波レイ役

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