①ホテル経営は毎日が笑いあり涙あり! まるでドタバタなリアリティショー【映画とホテル】それぞれの空間とシチュエーションにマッチする形で映画を提供

特別企画【映画×Tシャツ】「ミレニアル世代が注目!話題のヴィンテージTコレクターが鬼才キューブリックを“Tシャツ”で語る」から始まった、このインタビュー企画。「MERICAN BARBERSHOP(メリケンバーバーショップ)」代表・結野多久也さんを迎えた第2回「マネできる髪型!今っぽいのはJ・ギレンホール、ビジネス寄りならR・ゴズリング【映画と髪型】デ・ニーロからブラピまで解説」に続いては、日本全国で一風変わったホテルを運営する<L&G Global Business>代表、龍崎翔子さん!

龍崎さんは「HOTEL SHE, KYOTO」「HOTEL SHE, OSAKA」「HOTEL KUMOI」ほか5つのホテルを経営する敏腕プロデューサー。2016年にオープンしたHOTEL SHE, KYOTOは京都・東九条にある、全33室のミニマムなブティックホテルだ。“最果ての地のオアシス”をテーマに、神奈川・新丸子「BIG BABY ICE CREAM」とコラボしたアイスクリームパーラーを併設するなど、ホテルらしからぬ唯一無二のコンセプトを提供している。

また、翌2017年には大阪・弁天町にソーシャルホテル「HOTEL SHE, OSAKA」をオープン。さらに2018年には北海道上川町層雲峡の古びた旅館を「HOTEL KUMOI」としてリニューアルオープンさせるなど、地域に根づいた展開はユーザーからの支持も厚い。

オフ/オンラインを問わず手腕を発揮する若き起業家/クリエイターとしての鋭い視点、そして激レアなシチュエーションで幼少期を過ごした龍崎さんならではのホテル/映画論は必読!

なお今回のインタビューには、同企画に龍崎さんを推薦してくださったヴィンテージTシャツ専門Webショップ「ANYTEE」代表・9brickさんに進行役として同席していただいた。

「映画を“観に行きたくないわけじゃない”という人たちが圧倒的マジョリティ」

高橋:もともと僕から近づいたんです。本職のほうで割とネット企業がリアルな場を持つとか、もしくは最初はリアルだったところがそれをネットで動かすような案件が増えているし、今後もそこがボーダレスになっていくなぁと思っている時に、やっぱりホテルって面白い存在で。何かの記事で現役の学生さんがホテルのプロデューサーをやっているというのを読んで、「面白い子がいるんだな」って思っていて。そしたらたまたま上野でイベントがあって、そこで繋がった。でも、単純に飲み食いして仲良くなるよりは、どんなに小さくても仕事を通じたほうが関係は深まるし楽しそうだなと思った時に、ちょうどGAGAさんの映画の件があって。映画とホテルにTシャツ、どう絡められるかな? と思って話を持っていったんです。

龍崎:その前に「平成ラストサマー」(※踊って泊まれるオールナイト音楽フェス)に来てくれましたよね。その翌時の朝に、お仕事の話を3つくらい持ってきてくださって、そこから『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018年)でanyteeさんとコラボすることになりました。

高橋:そうだそうだ。ありがとう、楽しかったね。

―映画とのコラボレーションは『アンダー・ザ・シルバーレイク』が最初ですか?

龍崎:そうですね。

―コラボのきっかけは? どんな反応がありましたか?

龍崎:まずanyteeさんが『アンダー・ザ・シルバーレイク』をモチーフにセレクトしたビンテージTシャツをホテルに置いてくださって。ポップアップみたいな感じで、お客さまがパジャマとしてTシャツを借りられる、みたいな感じでやらせていただいたんです。結果的に多くの方に利用していただいて、興味のある方は嬉しそうに試着してくださったり。『アンダー・ザ・シルバーレイク』のチラシを見て来てくださったお客さまもいました。

高橋:その時、いろんなTシャツのポップアップはやっていたので、単純にTシャツをホテルで売るだけじゃつまんないなと思って。僕はレコードに感動したんだよね。プレイヤーも全部屋にあって、(レコードを聴きながら)寝落ちする、みたいな……(HOTEL SHE, OSAKA)。じゃあTシャツを選んでいただいて、寝間着として貸し出すのも面白いだろうなって。やっぱり「買いたい」って言ってくださった方も何人かいたみたいで、それも嬉しかった。

龍崎:うん、いらっしゃいました。いま思うと買えたらよかったですね。ホテルのプロジェクターでも『アンダー・ザ・シルバーレイク』の映像を流したんです。空間演出的にもマッチしていてよかったですね。ホテルのスタッフもみんな観てくれていて、感想を言い合ったりとか。

高橋:ホテルのマネージャーさんとかから、「これなんの映像なんですか?」とかって質問いただいて、そこで「こういう映画なんですよ」って説明することで、劇場に足を運ぶきっかけにはなったと思う。GAGAさんや僕(anytee)の意図としても、ああいう映画の世界観は好きだけど映画館には行かない、というカテゴリーの人たちに届けることで情緒的に動かせるのか? みたいなテストをしたかったので、そこにハマったいい例じゃないかなと。GAGAさんの評価としても「新しいユーザーにリーチできた感触を持った」って言っていただけたので。

龍崎:映画の広告とかも、ほとんど目にする機会がないじゃないですか。新作がいつどこで封切られるかとか。ただ劇場に足を運ばなくなったとはいえ、映画を“観に行きたくないわけじゃない”という人たちが圧倒的にマジョリティだとは思っていて。なので、自分の日常生活の中に広告が入り込んでくることで、そういう人たちが新しいことにチャレンジするきっかけになったのかなって思いますね。

―コラボレーションの期間は1ヶ月くらい?

龍崎:そうですね。評判はかなり良くて、(貸し出した)ビンテージTシャツとかはツイッターとかでも“ちょいバズ”みたいな感じで。

高橋:HOTEL SHE,は過ごし方の提案が上手で、何人かのモデルさんがTシャツを着てベッドでくつろいでるシーンをインスタグラムにアップしたり。ミレニアル世代の人たちって、ある程度やわらかな枠組みで「こんな風にして楽しんでみては?」っていうのを提示すると乗っかってくれる。組み立てることを嫌がる人も多いから、全くのゼロからだと難しい。

龍崎:ある程度こっちで編集しておくっていうことが、めちゃめちゃ大事だなって思っていて。もっと情報がない時代だったら、みなさん自分で考えてやってくださると思うんですけど、今は“それ”を置いておくだけではなかなか構っていただけない。なので「こういう楽しみ方をして欲しい」とか、あるいは「こういうことができる場所ですよ」みたいに、わかりやすい言葉で表現しておく。そういう意味でも、コンテンツ自体は事前に編集しておくのがすごく大事だなっていう実感はあって。単純に「行ってみたらビンテージの服があって……」っていうよりも、「この映画とタイアップしたビンテージTシャツのポップアップ」だということを、動画を含めてあらかじめ紹介しておくと、お客さまの満足度にもつながってくるのかなと思いますね。

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―そのとき用意したTシャツは、どんなテーマでピックアップされたんですか?

高橋:『アンダー・ザ・シルバーレイク』を3回観て、そこでモチーフにされてるものを全部ピックアップしました。例えばジェームス・ディーンやマリリン・モンロー、エルビス・プレスリーとか昔のセレブリティのTシャツを揃えたり、あとはニルヴァーナとかグランジ系のロックがかなり使われているので、その世代のミュージシャン系のTシャツを揃えて……そんな感じですね。映画に出てくるモチーフを中心に全部、Tシャツを編集しなおして起こしました。

龍崎:STUSSYをセレクトしたのは?

高橋:STUSSYは今の20代の女性に現行で流行ってるので、それを元ネタにオールドSTUSSYで“朽ちた可愛さ”みたいなものを届けたかった。当時のスケートカルチャーみたいなノリが『アンダー・ザ・シルバーレイク』にあったのが2割、HOTEL SHE,のお客さんを意識したのが8割かな。

龍崎:実際めっちゃ人気で、STUSSYのTシャツを着ていく人が多かった印象はありますね。

―『アンダー・ザ・シルバーレイク』とコラボしてみて、若い皆さんに“映画が魅力的なコンテンツである”ということが伝わったと思いますか?

龍崎:そうですね、なんて言うんだろ……“ひとつの世界観に没入できる”みたいなものって、今の時代にはそんなにないと思っていて。それを2時間とかで手軽に体感できるものって本当に限られてきていると思うので、そういう観点ではすごく新しい魅力なんじゃないかなって思います。

「ホテルが町にリソースを割いて、よりバランスのいい共生関係を作る必要がある」

―『アンダー・ザ・シルバーレイク』とのコラボを経て、HOTEL KUMOIにシアタールームを作ったご感想は?

龍崎:KUMOIがあるのは北海道の層雲峡というところなんですが、層雲峡って典型的な“廃れた温泉街”なんです。だけど温泉街が廃れる典型的パターンって、それぞれのホテルがゲストの囲い込みみたいなことをするようになったことで“ストリートとしての温泉街”が廃れちゃって、旅行のトレンドが変わったときに一気に打撃を受けて没落しちゃう、っていうのが王道の廃れ方なんですね。

HOTEL KUMOIは温泉街のストリートのロープウェイ側、いちばんアクセスがいいところにあって、かつ最も客室が多い旅館だったんです。なのでKUMOIだけがめちゃくちゃ魅力的になったとしても、お客さまは層雲峡に来てくださらないじゃないですか。だから“層雲峡そのものを魅力的な町にしていく”っていうことは、自分たちがホテルを経営していく上での使命なんじゃないかなって思っていて。

そのために何をすべきか? と考えた時に、お客さまが夜遊びできるような町にするっていうことは、めちゃくちゃ大事だなと。なので、コンセプトの中にヴェイパー(VAPER:水蒸気)っていう ― 層雲峡が雲や霧が多いっていうところからとっていて ― そのヴェイパーと、あとナイトアウトとか夜遊びっていうのがKUMOIのコンセプトなんです。そのナイトアウトの中で映画というのが選択肢の一つとして出てきた、というのが大まかな経緯ですね。

なぜ映画にしたかというと、主なコンテンツとして映画とビリヤードとシーシャ(水タバコ)があって、シーシャをキラーコンテンツとして出してるんですけど、シーシャを楽しむシーンを考えた時に、シーシャを吸いながら1時間とか2時間、友達と座ってダベリながら過ごす夜に映画があったらいいな、と。層雲峡自体が霞みがかった山奥の場所で、その中で非日常の世界を過ごす……みたいな感じの旅行体験ができるので、それでシアタールームを作りました。

高橋:そのナイトアウトは、MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)でやってるような“京都の夜遊び”と同時期に?

龍崎:KUMOIのコンセプトを決めたのが2018年の2月とか。京都は2018年の5月とかだから、たぶん同時期くらいですね。根っこのところは結構同じで、ホテルって町に依存しているので、ホテルだけが恩恵を享受することはできないんです、特に最近は。にも関わらず、ホテルは観光客の落とすお金のほとんどを手にしているので、ホテルがちゃんとリソースを町に割いて、よりバランスのいい共生関係を作る必要があるなと思っていて。具体的な方法として、本来ホテルに落ちるお金が町に落ちるような仕組みを作ってあげることはすごく大事。京都の夜遊びもKUMOIのナイトアウトも、そういうコンセプトでやっていたという感じですね。

高橋:実際に始めてみて、冬の時期のお客さんの反応はどんな感じ?

龍崎:映画を観てくださる方が多かったですね。シーシャも楽しんでくださる方も。あと、もう一つ(KUMOIで)映画をやった大きい理由が、層雲峡の支配人をやっている方がもともと映画のプロデューサーなるためにニューヨークに勉強に行った、みたいな方で。そういうところでもすごくマッチしてるなと思って始めたんです。

高橋:上映する映画はタイムテーブルで決まっている?

龍崎:決まってますね。多分、京都とかだったら成立しないんですよ。お客さまがホテルの中にいる理由が全然ないので。層雲峡みたいに、周りにモノがないところだからこそできるサービスかなって。

高橋:それを踏まえて、次の案件に活かせそうなものは? 映画だけじゃなく、閉じた空間の中での過ごし方をどう提案するのかっていうヒントが、そこにあったのかなって。

龍崎:逆に気づいたのが、映画とシーシャの課題みたいなものは結構ありました。例えばHOTEL SHE, OSAKAだったら、お客さまが部屋の中で好きなときにレコードを聴けるようにお膳立てされているけれど、シーシャや映画って、こちらのスケジュールと映画の上映スケジュールに合わせたり、初めから観ないとわからなかったり、こちらで点けないとシーシャが吸えなかったりするので、そういうところは課題だったなと。それはそれでいいと思うんですけど、そういう外部依存じゃない、お客さまの裁量で楽しめるようなコンテンツがもっとあった方がいいな、とは思いましたね。

高橋:場所とコンテンツを他人と共有することの効果はある? それはやっぱりプライベート空間のほうがいい?

龍崎:ホテルっていう空間の中で映画を観ることが、新たな空間体験になっているのかな、って思っていて。普通は映画館だったら喋っちゃいけないとかルールがありますけど、ホテルだったら気兼ねなく喋っていい。

高橋:途中から入ってもいいしね。

龍崎:リビングで観ているような感覚で楽しめるので、そういう意味での“新しさ”になるのかなって思うし。ホテルのメインとなるようなコの字型のソファーの真ん前に、映画のスクリーンがあるんですよ。そんなめちゃめちゃオープンな空間、しかもフロントのすぐ近くで映画を上映していて。それをやったのも、やっぱり“視線の向き”が定まるじゃないですか。そういうところで人が集まりやすくて、その中で出会いだったりとかも生まれやすくなるだろうな、っていう狙いがあってやっていますね。

「ホテル経営は毎日が笑いあり涙ありのリアリティショーみたいな感じ」

―上映のタイムテーブルや作品のセレクトはどなたが?

龍崎:支配人がセレクトしています。

―セレクトにテーマはありますか?

龍崎:そうですね、ホテルに絡めているものが多くて、それこそ『グランド・ブダペスト・ホテル』(2013年)とかもあるし、中には『(500)日のサマー』(2009年)とかもあったり。割と幅広い層で観られて、かつ空間と世界観がマッチしているものを。

―そこでいきなりホラー映画がバーンとかかることはない?

龍崎:それはないですね(笑)

―1作品を1週間とかのスパンで? それとも毎日変えている?

龍崎:基本的には「1日◯本立て」みたいなメニューを日毎で変えていく感じで、割と同じ作品が出てくると思うんですけど、お客さまの滞在期間中に作品が被ったりはしないですね。区切られたシアタールームではなく、フロントのすぐ横でもう観られる感じですし。

―例えば、ホテルを題材にした映画『有頂天ホテル』(2005年)では、スタッフが一丸となって何かをやり遂げていく中で、色んなお客さんのサイドストーリーが出てきます。実際、それに近いような感覚はありますか?

龍崎:そうですね、ホテル側としては一つの大きなストーリーが時間の流れに沿って進行しているんですが、その中で客室の数ごとに個別のストーリーもあるのは面白いところです。それはホテルを経営している上で実感することが多くて、本当に毎日がバラエティ番組みたいな、笑いあり涙ありのバタバタなリアリティショーみたいな感じなので……『有頂天ホテル』は、そういうところを面白く脚色した感じかなぁ。見た目は優雅にしているけど中はすごい必死、みたいな。そういう“白鳥感”がホテル業界っぽいなって思いました。

『ホテル・ルワンダ』(2004年)とか『グランド・ブダペスト・ホテル』は社会の大きな出来事をホテルで輪切りにして見ている、みたいな感じ。ホテルに泊まる人の「こういう人が来た」「こういう出来事があった」みたいなものは、全体の歴史に紐付いているなと。『グランド・ブダペスト・ホテル』とかだと、「ホテルが社会主義化の流れで国有化される」みたいなセリフが一言だけあったりとか、それこそ軍事拠点になったりとか、そういう細かいエピソードの中で「ホテルに泊まった人が◯◯だった」みたいなシークエンスから、世の中の流れが追えているなぁと思ったり。そういう意味では、映画を演出する上でホテルを舞台にすると、またなんかちょっと面白い感じになるんだなぁということは観ていて思いましたね。

高橋:いろんなものが映画の題材になる中で、ホテルをチョイスする映画がそれなりにあるっていうのは、そこになんらかの特徴を持たせられるというか。

龍崎:ホテルの中ではストーリーを切り取る視点やカメラの位置によっても違う見方ができるようになるので、そういう意味ですごく面白いなぁって。

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