情熱絶やさぬ若き女王 サーフィン・松田詩野 THE REAL

サーフィン・松田詩野

 5月上旬に行われたサーフィンの第1回ジャパンオープンで初代女王に輝いた茅ケ崎市出身のプロサーファー、松田詩野。ジュニア世代ながらシニアの選手たちにも打ち勝って日本のトップに上り詰め、9月のワールドゲームズに出場する「波乗りジャパン」入りを決めた。五輪はもう夢物語ではない。急成長を遂げる16歳のいまを追う。

 それは、女子サーフィン界に新時代の到来を告げた瞬間だった。

 松田は初戦ラウンド1を2位通過し、以降は決勝まで全て1位で駆け上がった。波に乗るごとに調子を上げ「最初からファイナルまでずっと優勝したいと思っていた」と並々ならぬ気迫がその目に宿っていた。

 準々決勝では同年代のライバル、脇田紗良(藤沢市出身)と激突。残り40秒で8.17点のエクセレントスコアをたたき出して下した。昨年5月に今回と同じ、五輪会場の千葉・釣ケ崎海岸で行われた一宮千葉オープンを制しており、相性がいい。緊張を誘う大舞台にも「落ち着いてできている」と心は熱く、頭は冷静だった。

 群雄割拠の女子サーフィン界。今大会に出た16人中10人が10代で、準々決勝に残った8人のうち7人を占めた。松田と同じく日本代表入りした脇田、大会直前の一宮千葉オープンで初優勝した18歳の都筑有夢路(藤沢市出身)と湘南育ちが3人名を連ねた。男子に比べ、女子はジュニアとシニアとの間で力の差がほとんどなく、次世代サーファーが続々と台頭してきている。

 優勝した松田には世界選手権に相当する9月のワールドゲームズ(宮崎市の木崎浜)への出場権が与えられ、五輪選考争いで一歩先んじた。

 初代女王を決めたファイナルは、海から陸側に風が吹く「オンショア」で、干潮時と重なって波の崩れるスピードが速い難コンディションだった。松田は「最初波に入ったときは(高さのある波が)あまり見えていなかった」と振り返る。

 序盤から積極的に仕掛けるも1点台が続き、その間に相手にリードを許してしまう。しかし、ここで慌てず、20分の持ち時間を有効に利用し組み立て直す。ポジションを左右に変えながら「途中に自分で動いて5点台の波を見つけられたので、そこから少し安心してできた」と鋭いターンを連発して形勢は逆転した。

 サーフィンでは波を先に乗れる「優先権」が目まぐるしく選手間を行き交い、1本乗ったら別の選手へと移る。このルールを生かし、優先権を保持しながら相手にいい波に乗らせず、自らは高得点を狙うといった高度な駆け引きも見どころだ。残り3分、逃げ切りを図った松田は相手選手にパドリングで接近してマーク。重圧を掛けながらリードを守り切る試合巧者ぶりを見せた。「自分の考えで動くことができたので、そこは成長した部分かなと思う」

 サーファーの朝は早い。海は風向風速、潮の満ち引きによって午前と午後で異なる表情を見せる。週間の波情報を元に早起きしてチェック。波が立たない日は休養に充てたり、トレーニングなどで汗を流す。こうした習慣は、茅ケ崎の海岸近くで育った松田がサーフィンを始めた6歳のころから染みついている。

 両親がロングボードやボディボードで波に乗る背中を見て自然と同じ道をたどった。サーフィンスクールでめきめきと上達。14歳でプロ公認を受け世界を転戦するようになると、早速2017年度のワールドサーフリーグ(WSL)のアジアジュニアランキング1位を獲得。昨年はワールドジュニアチャンピオンシップU16女子で準優勝し、団体優勝にも貢献。脇田らとともに、早い段階から海外で場数を踏むことで、競技レベルを押し上げてきた。

 サーフィンが五輪種目に決まったのは13歳の時だった。「そのときは『すごいな』と思うくらいで、まだ遠い夢だった。でも(五輪で)サーフィンは初めてだし、日本でやるので出たい気持ちが強まった」。その夢は今や視界に映る明瞭な目標へと転じた。

 情熱の炎を絶やさぬひたむきな快進撃にも「応援してくれた多くの方々に感謝したい」と周囲への気遣いを忘れない若き女王の意識は「パワーを付けて試合運びも上達させ、もっと成長した姿を見せたい」と先に向けられている。水しぶきを上げて刻む軌跡は、東京へとつながる。

◆まつだ・しの プロサーファー。茅ケ崎一中-飛鳥未来高。小学1年から始め、14歳でプロとなる。2015年西日本選手権ウィメンズ、16年全日本選手権で優勝し、17年度WSLアジアジュニアランキング1位。18年5月にQS1000一宮千葉オープン制覇。同11月のワールドジュニアチャンピオンシップU16女子で準優勝、団体優勝に貢献した。5月のジャパンオープンで初代女王に輝き、ワールドゲームズ日本代表入り。茅ケ崎市出身。16歳。

◆the eye

 第1回ジャパンオープンの舞台となった五輪会場の釣ケ崎海岸。松田は泊まり込みで訪れることもあり「高校に入ってからは土日以外でも千葉に来て練習している」という。住居を同海岸そばに移して打ち込む選手も珍しくない。五輪本番を想定しながら波風の特徴を徹底的に研究。これぞ地の利といえる。(匠)

 連載「THE REAL」では、東京五輪・パラリンピックを目指す神奈川ゆかりのアスリートに「リアル」に迫ります(随時掲載)。

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