ボルボ ポールスターエンジニアード試乗|走りの性能を引き上げるパフォーマンスソフトウェア

ボルボ ポールスターエンジニアード

ボルボと言うと「安全」と言うイメージが非常に強いが、実は「モータースポーツ」、それも市販車に直結するツーリングカーレースに積極的に参戦している。近年、その活動を担ってきたのが、1996年にボルボのモータースポーツ&カスタマイズの「オフィシャルパートナー」として設立されたポールスターだ。

WTCC第8戦 ボルボ

元々は資本関係のない「公式パートナー」と言う位置ながらも、スカンジナビアン・ツーリングカー選手権(STCC)では6回のドライバータイトル、8回のチームタイトルを獲得。ボルボとの関係は年々密接となり、2016年7月にボルボがポールスターの株式を100%取得、正式な「ワークスチューナー」へと昇格した。2016年から世界ツーリングカー選手権(WTCC)にポールスターとポールスター公式パートナーのシアンレーシングによるワークスチーム「ポールスター・シアンレーシング」として参戦。2017年にドライバータイトルとチームタイトルを獲得。ちなみに世界選手権制覇はボルボの歴史上初だ。

他のワークスブランドもそうだが、次第にモータースポーツで培ったノウハウや技術を量産モデルにフィードバックさせたいいう想いが生まれるのは当然の流れである。

2012年に量産車向けのチューニングソフト「ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェア」、2014~2016年にコンプリートカーの「S60/V60ポールスター」、更に2017年に量産車向けのアドオンアイテム「ポールスター・パフォーマンスパーツ」と、短期間でピラミッドを形成している。

チューニングからEV専門ブランドへ

ポールスター1
Polestar初のピュアEV「Polestar 2」(ポールスター2)

しかし、2017年10月にポールスターをボルボから独立した高性能エレクトリックカー専門ブランドにすると発表。すでにPHEVクーペの「ポールスター1」、EVセダンの「ポールスター2」が公開されている。

ボルボ 新型 S60 T8 ポールスターエンジニアード(北米仕様) 外装(エクステリア)

当初の思惑とは若干変わってしまったが、ポールスターのテクノロジーをボルボの市販モデルにフィードバックさせる事は変わっておらず、新型S60をベースにポールスターが仕立てたスペシャルモデル「T8 ポールスターエンジニアード」が今年中に導入予定。さらにポールスター・パフォーマンス・ソフトウェアも新世代ボルボ用をラインナップする。

ボルボ ポールスターエンジニアード

高い性能と効率を引き出す純正ソフトウェア

このポールスター・パフォーマンス・ソフトウェアはボルボユーザーの間では定番メニューの一つだが、昨今のボルボ人気による他名柄からの乗り替え組にとっては“謎”のアイテムかもしれない。そこで今回は、ノーマルと乗り比べを行なって、実際に何がどう変化するのかをチェックしてみた。

そもそも、ポールスター・パフォーマンス・ソフトウェアとは何なのか? ノーマルは万人が乗ることを考慮したマイルドなセットアップが施されるが、「もう少し元気よく走らせたい」、「プラスαが欲しい」と言ったこだわりのユーザーのために、ハードはそのままにエンジン/トランスミッション/AWDの制御ロジックを、より走りの方向に振ったチューニングだ。一般的にはコンピューターチューンやROMチューンなどと呼ばれる。

ボルボ ポールスターエンジニアード

まずはV60クロスカントリー T5 AWDである。見た目の違いはドライブモードセレクトがパフォーマンス→ポールスターエンジニアードに変更、メーター表示、そしてチューニングを行なったモデルにだけ貼られるリアのエンブレムの3点のみだ。

ボルボ ポールスターエンジニアード

エンジンスペックは254ps/350Nmから261ps/400Nmとなっている、全域で力強さは増しているが、特に常用域の力強さは数値以上(実はミドルレンジの出力アップは174ps→200ps)。また、アクセルを踏んだ時の応答性とレスポンスの良さはまるでターボをボールベアリング式に変更したような滑らかさである。加えてAT制御は滑らかさを損なわないレベルでシフトスピードやダイレクト感がアップしているが、そこまでやるならパドルシフトが欲しい。

エンジン/AT共に俊敏、直感、精密になったことで、ドライビングのリズムも取りやすくなっており、結果的として乗りやすさにも繋がっている。また、副次的効果となるがエンジンサウンドに雑味がなくなり低音が効いた心地よい音質になっていた。

個人的にはV60クロスカントリーのベストはディーゼルターボ(日本は未導入)だと思っていたが、これならガソリンターボでも「いいね!!」と感じたくらい。

リアタイヤに駆動を積極的に配分するセッティングへ

更にビックリしたのがハンドリングの変化である。SPA採用により基本素性は非常に高いが、どちらかと言うとワインディングよりハイウェイが似合う性格が与えられているノーマルに対して、「お前はスポーツAWDか!!」と思ってしまうくらいのノーズの入りの良さにビックリ。

また、ターンイン時もスムーズな挙動やコントロール性の高さも相まって、クルマの動きの連続性や一体感が増しており、とにかくコーナリングが楽しい。ボルボのクロスオーバーSUVシリーズの中で、初めてワインディングを攻めたくなった(笑)。

ボルボ ポールスターエンジニアード
ボルボ ポールスターエンジニアード

続いて、登場したばかりのXC90 D5だ。エンジンスペックは235ps/480Nmから240ps/500Nm、更にオーバーブースト機能がプラスされており、20秒間のみ255ps/520Nmを発揮する。正直ノーマルの不満はないが、力強さは“魔物”である。モリモリ湧き出るトルクはもはや直列4気筒であることを忘れてしまうくらいだ。更にトルクの立ち上がりがシャープになっているのと、アクセルを踏んだ時の応答性の良さ、そして高回転までストレスなく回るレスポンスが相まって、眠そうだったエンジンがシャキッとした感じである。

そういう意味で言うと、スポーツディーゼルと呼んでもいいかも。AT制御はシフトスピードやダイレクト感が引き上げられているが、V60クロスカントリーほど攻めた味付けになっていないのは、クルマのキャラクターを考慮しているから!? こちらはパドルシフトがなくても気にならなかった。

ボルボ ポールスターエンジニアード

ハンドリングはV60クロスカントリーのようなスポーツ性は感じなかったが、ノーズの入りの良さや4輪をより効果的に使っている事なども相まって、クルマがより小さく、より軽くなったような印象を受けた。もちろん、2トン近い車両重量なのでワインディングでは無理は禁物だが、ドライバーの操作とクルマの動きがノーマルよりもリンクしているため、より安心して走ることができた。

インストール可能なボルボは多岐にわたる

その他、V60 T5やV40 D4にも試乗。どちらもFFモデルなので、エンジン/トランスミッションのみの変更だが、バランスと言う意味ではパワートレインが若干勝ち気味な印象を受けた。V60 T5ならOPの19インチタイヤ&ホイールとFOUR-C(可変ダンパー)、V40 D4ならスポーティなRデザインもしくはポールスター・パフォーマンスパーツをプラスするとバランスが取れるだろう。ちなみに僕・山本シンヤはマイカーのV40 D4 Rデザインに、ポールスター・パフォーマンスソフトウェアとポールスター・パフォーマンスパーツをすでに装着済みだ。

価格は専用ソフトウェア、ポールスターエンブレム、アルミニウムプレート、ポールスターソフトウェア搭載認定証のセットで18万8000円。一般的には制御チューニングと言うと、マージンを削る、メリットだけでなくデメリットも生まれると言われるが、そこは安全のボルボらしく抜かりはなし。体感できる性能アップを排気ガス/燃費/耐久性を一切犠牲にしない上に、メーカー保証もノーマルと変わらず受けることが可能……つまりメーカーお墨付きのチューニングと言うわけだ。それを考えると決して高くないと思う。

ボルボ ポールスターエンジニアード
ボルボ ポールスターエンジニアード

すでに世界では15万ダウンロードを超える実績があるが、日本では累計9404ダウンロード(2012年10月~)。ちなみにSPAモデルは約11%、V40は約5.5%のユーザーが装着するなど、その人気は年々高まっているそうだ。新車時に装着するのも悪くはないが、ノーマルを十分味わってから違いを実感するものアリだろう。

ツルシのボルボもいいが、ドライビングプレジャーとパフォーマンスをプラスできる「ポールスター・パフォーマンスソフトウェア」、是非お見知りおきを!!

[筆者:山本 シンヤ/写真:佐藤 正巳]

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