同時刻の高田馬場駅前で繰り広げられた2019年夏の女性候補の闘い(安積明子)

わずか5分差で演説の順番が決まる

堀部保兵衛の助太刀で知られる高田馬場(実際には西早稲田)で、熱い“女性候補の闘い”が繰り広げられた。参議院選の投票日まであと2日を残すばかりとなった7月19日、立憲民主党から東京都選挙区に出馬している塩村文夏氏とれいわ新選組から比例区で出馬している渡辺てる子氏が、同じ時刻(午後2時)に同じ場所(高田馬場駅前)で“激突”したのだ。
定刻までに街宣車と宣伝車で現場に到着したのが塩村氏で、渡辺氏が到着したのはそれから5分ほど経過した後のこと。早稲田通りから駅前ロータリーを左折した渡辺陣営は、ビッグボックスの前に停車している塩村氏の宣伝カーを見てさぞかしびっくりしただろう。

塩村流の訴え方

立憲民主党の看板が付いた宣伝カーは間もなくその場を離れたが、塩村氏は駅前に停車した街宣車の上で演説を始めた。塩村氏が訴えるのは、都議時代に受けたセクハラ体験や女性議員が少なすぎる日本の政治の実情、そしてロスジェネ世代の代表として非正規雇用問題は欠かせない。

「じわじわ生活は苦しくなっている」

確かに富は偏在しているともいえる。2017年度の法人企業統計(PDF)によれば、企業が得た利益剰余金は446兆4844億円で、6年連続で過去最高を更新。安倍政権時で内部留保はおよそ164兆円積み上がったことになる(約37%増)。
その一方で、1人当たりのGDP(名目)(PDF)は2011年度の386万7000円から2017年度は432万1000円と45万4000円増になったものの、12%弱の伸びに過ぎない。

塩村氏が主張する雇用問題と女性問題は、渡辺氏も訴えるところだ。共感するところがあったのだろうか、塩村氏の演説の最中に渡辺陣営のスタッフらしき男性もいた。
30分後に塩村氏は演説を終えて街宣車を降りた。渡辺氏が近寄っていったが、塩村氏はそれに気づく様子はなく、集まった支援者数名と握手して立ち去った。選挙区と比例区との差があれど、2人のエールの交換が聞けなかったのは残念に思った。

渡辺節が炸裂した

いよいよ渡辺氏の番だった。「失われた30分間」を取り戻そうとするように、渡辺氏の演説は最初からパワフルだった。応援は弁護士で2013年の東京都知事選に出馬した宇都宮健児氏と元朝日新聞記者の竹信三恵子和光大学名誉教授。2人を側に、渡辺節は最初から炸裂した。

「渡辺てる子は新宿生まれの新宿育ち、高田馬場は地元です!」

れいわカラーであるピンクの上着を羽織った渡辺氏のテンションは最初から100%。この日は久しぶりの夏らしい日差しだったが、すでに10名前後が渡辺氏のまわりに集まった。いずれも塩村氏の演説中に日陰で待っていた面々だ。

「渡辺てる子、元派遣労働者。いきなり派遣切りにあいました。長い間働いていても、いきなり切られることはあるんですよ」

「大企業のおエライさんの時給は1万円から2万円。私はそういう仕事をやっているから知っている。私が稟議書を書いていました、1500円にも満たない時給で。役員の仕事なんて、派遣の私でもできるんですよ。同一労働同一賃金で、私も1000万円の給料をもらいたかったな!」

「残業100時間やって倒れて救急車で運ばれたけど、労災認定されなかった。自己管理が悪いからって言うんですよ。一生懸命に働いて過労死したら自己責任。働き方改革、高度プロフェッショナル制度は、過労死をどんどんやってかまいませんという法律なんです。そんな法律を覆そうというのがれいわ新選組。そんな魂胆で私は国会に乗り込みます!」

片や街宣車の上から淡々と語り、片や地べたで足まで動かしながらパワフルにほえまくった。途中で宇都宮氏や竹信氏の応援演説が入ったが、渡辺氏はたっぷりと40分以上も非正規での経験の他、老母の介護の苦労を聞かせた。
同じ非正規社員の悲哀を訴えながらも、有権者へのアピールの方法がまったく異なる2人の女性候補。そうなのだ、女性の人生こそ多種多様で、そこから多くの政治的な要請が生まれているはずだ。

「亥年の選挙は荒れる」と言うが、こういう荒れ方なら歓迎したいという気にもなった。

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