4時間遅れのレースで奮闘した佐藤琢磨。不運の追突に「最後の展開が楽しみだったのに残念」

 アメリカ中西部アイオワ。コーン畑が一面に広がるこの場所でNTTインディカー・シリーズ第12戦が行われた。このショートオーバルのコースを300周に渡ってバトルを繰り広げられた。昨年は日中のレースだったが、土曜のナイトレースで開催されることが多い。

 レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの佐藤琢磨にとってこのアイオワは相性の良いトラック。

 2011年のKVレーシング・テクノロジー時代に初めてインディカーのポール(日本人初)を獲得した場所でもあり、昨年も3位に入賞している。

 ここ数戦上位を走りながらも不運続きで入賞を逃している今、このアイオワで大きく流れを変えたいところだ。

 金曜日は午前に1時間のプラクティスの後日中に予選があり、夕方にナイトプラクティスセッションがある。かなりタイトなスケジュールだ。

 午前のプラクティスが始まると1周20秒弱のコースを22台のマシンが次々にラップをしていく。琢磨はこのセッションで40周を走行し14番手になった。

「サスペンションをいろいろ試していたのだけど、予選シミュレーションが1度も出来なかったのが心配」とやや不安を残して予選を迎えることになった。

 シリーズランキングを下から順にアテンプトしていくため、琢磨の順番は後ろから6番目。1周のウォームラップの後に、2周の計測タイムがあるが、1台の走行時間は2分弱で終わってしまうことになる。

 琢磨は1周目のウォームアップから全力でアタックし、1ラップ目を17秒9605、2ラップ目を18秒2733をマークし、この時点でトップに立った。

 残り5名のドライバーのアテンプトを待っていたが、その後琢磨を上回ることができたのは、シモン・パジェノー、ジョゼフ・ニューガーデン、ウィル・パワーのペンスキーの3台だけだった。

 ペンスキー勢がやはり頭ひとつ抜きん出て速い印象だったが、スコット・ディクソンやアレクサンダー・ロッシ、去年優勝したジェイムズ・ヒンチクリフなどを抑えてホンダ最速の4番手をもぎ取った価値は十分にあった。

「予選セッティングをプラクティスで試せなかったので、ウォームアップからクルマの動きを知るために全力でアタックしていきました。そのフィーリングが良かったので思いっきり踏んでいけたんですが、飛ばしすぎた影響でちょっと2周目が伸びなかったかも……」と言う。

 最後のナイトプラクティスセッションは、レース時間を想定してのものになり、当然マシンも決勝に合わせて大きくセッティングも振られる。

 琢磨はこのセッションで18番手と大きく順位を落とした。

「新品タイヤを残しておきたかったので、あえてユーズドのタイヤ1セットで走り切っていました。マシンのフィーリングが悪くなった時に、どうなるか見たかったし、それに合わせて修正したのも満足のいく方向だった」と、さほどタイムを重要視していなかった。

「シミュレーションではニュータイヤの方が速いと出ているので、4ピットの5スティントで行くより、5ピットの6スティントにした方が速そう。レースの内容とイエロー次第ですけど」と300周のレースを占っていた。

■決勝は雷雨により23時スタートに

 土曜日は午後6時30分にスタートが切られることになっていたが、その1時間ほど前からサンダーストームがスピードウエイを覆い、観客にも避難命令が出されるほどだ。

 雨は上がり路面を乾かす作業にも時間がかかって、4時間!も遅れてレースが始まるのは22時30分を過ぎてのことだった。

 グリーンフラッグが振られると、スポッターのロジャー安川の合図に合わせて琢磨は好スタートを切った。ジョゼフ・ニューガーデン、ポールのパジェノーを抜き去るとあっと言うまに2番手にまで浮上していた。

パジェノーと競る佐藤琢磨

 パワーには追いつかないものの、10周目まで2番手を維持。その後パジェノーが追いつき、ニューガーデンにもかわされて4番手に落ち着いた。

 そのまま50周が過ぎるとまたもや雨が落ち始め、赤旗提示で一時レース中断。ピットレーンで待機していた。その間無線でマシンの状態を伝える琢磨は、徐々にアンダーステアがひどくなっていることを伝えていた。

小雨によりレースは約30分中断する

 雨も止み小休止した後にレースは再開。ピットがオープンになるとほぼ全車が1度目のピットに入った。

 琢磨は5番手で戦列に戻るが100周過ぎからペースが落ち、12番手まで下がった所でチームは早めのピットインを決断し琢磨を呼んだ。

 タイヤ交換と給油を終えた琢磨は、ラップ遅れの19番手まで落ちたが、ニュータイヤを履いた30号車は別の車のように甦り、他のマシンがピットに入る頃にはニューガーデンの後ろの2番手まで戻ってきていた。

 チームのシミュレーションは当たり、琢磨だけが1回ピットの多い5ピット作戦で走っている。琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの取ったこの作戦がレース終盤の勝負でどう出るか? それが見ものだった。

タイヤ交換でペースを回復し追い上げをみせる琢磨

 琢磨はパワーに先行を許し3番手となったが、表彰台圏内でのレース展開になっていた。3度目のピットの後、再び追い上げモードになっていた時、ターン1-2で前のマシンのタービュランスを受ける形で、ややアウトに膨らみ、ウォールギリギリまで迫った時に、ラップダウンのセイジ・カラムが琢磨に追突!

 琢磨はスピンしながらもコースに戻り走行を続けた。

 なんとか走り続けるものの、痛手は大きくリヤのディフューザー周辺にダメージを受けており、マシンは安定したスピードで走ることは出来ず、216周目にピットに入りマシンを降りた。

「ニュータイヤでのペースは気持ち良いくらい良くて、他のマシンとピットシークエンスを変えて最後にどうなるか楽しみだったのに、残念ですね。ここ何戦かずっとこんな感じ。テキサスから、ロードアメリカ、トロント、そしてアイオワといつもトップ5を走っていて結果が出ないのは残念としか言いようがないですね。次のオハイオはチームの地元ですし、頑張りたいです」。

 パフォーマンスは見せられているのに、結果に繋がらないのは残念としか言いようがない。それでもランキング6位にとどまっていられたのは奇跡と言っていいだろう。

 来週のオハイオは、このモヤモヤを吹き飛ばすようなレースを期待したい。

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