認知機能の低下で老後の資産管理ができなくなる可能性、いつ頃から衰える?

「人生100年時代」と言われる超高齢社会を迎えようとしています。多くの方が老後にむけた貯蓄について考えているでしょう。

ところが、実際その資産を取り崩すときには、認知機能が低下していて、自分が思い描いたようにお金を活用できない可能性があるのです。そればかりでなく、老後に向けた貯蓄が本格化するのは50代以降となる世帯がほとんどですが、加齢にともなって認知機能や判断能力が低下し、思ったような資産構築ができなくなる場合もあります。

認知機能や判断能力はいつごろから衰えるのでしょうか。健康維持に努めるのはもちろんのこと、両親の老後、あるいは自分の老後に向けて、いま何をしたらよいのでしょうか。

今回は、金融庁における金融審議会「市場ワーキング・グループ」の議論をもとに、認知機能と資産の管理能力について紹介します。


65歳以上の認知症有病者率は年々増加

一般に、高齢化率は65歳以上の割合を言いますが、日本の場合、75歳以上が急増することが特徴です。75歳以上人口は、65~74歳人口に対して、2015年には0.94倍だったのが、2025年には1.47倍、2060年には2.07倍になると推計されています。

認知症の有病率は、75~79歳で1割を超え、85~89歳では4割程度と、おおむね75歳以上で高くなるので、75歳以上の増加で今後、認知症有病者も急増することが見込まれます。

内閣府「高齢社会白書(2017年)」によれば、各年齢の認知症有病率が、今後一定だと仮定すると、長寿化にともない2060年には65歳以上の認知症患者は850万人(24.5%)にまで増えることが推計されています。糖尿病が認知症の有病率に影響することから、これより有病者数が多いとする推計もあります。

また、軽度認知症や、認知症と診断されていなくても認知機能や判断能力の低下は誰でも起きうることを考慮に入れると、これまでのように、認知機能が十全で合理的な意思決定ができる人が大半を占める社会ではなくなってしまう、と言っても過言ではないでしょう。

どういった判断が苦手になるか?

加齢にともなって、どういった行動の変化が考えられるのでしょうか。資産管理に関して、慶応義塾大学の駒村教授の報告によると、

1.少なくなった認知機能をより節約して判断をするため、表現の仕方によって決定が左右されやすくなり、これまでの「経験」に依存した判断をする

2.多くの選択肢への対応が難しくなり、わかりやすい情報とシンプルな選択肢を好むようになるため、若年者より選択肢が少ない方を好む

3.意思決定を延期する傾向が強く、また選択しなかったことへの後悔を感じない。いったん保有したものを手放したくない気持ちが強くなる

4.肯定的な感情的出来事や情報を記憶し、ネガティブな情報を忘れる、あるいは注目しない傾向がある

5.将来を展望するという視点ではなく、過去を振り返るため、意思決定のタイミングが遅れがちになる

などを仮説としてあげています。

資産管理能力は50代あたりがピーク

資産運用能力は、50代あたりでピークになると言われています。

認知機能や判断能力に支障があり、他者に生活や財産を委ねざるを得ない場合には、成年後見制度を活用することが考えられます。

しかし、たとえばアルツハイマー型認知症では、自らの記憶力を家族の評価より高く見積っているといった報告がある等、認知症による能力低下に自分は気づけないことが指摘されているほか、若いころに比べて認知機能や判断能力が低下しているものの、成年後見人に頼らないといけないほどではない、といった中間段階の期間が相当あると考えられ、各自が加齢に伴う行動の変化について心づもりをしておく必要がありそうです。

「自ら行動できるが、困難が伴う時期」 への備え

現在、日本の金融資産1800兆円の7割を高齢者が保有していると言われています。

心身機能の低下も踏まえた上で、必要な資産運用を検討すること、将来の認知・判断能力の喪失に備え、財産の使用目的をあらかじめ決めておくことや、自らの保有資産を、周囲の者が見てもわかるようにしておくこと、喪失後、金融サポートにおいて、頼る者を決めておくこと等が推奨されます 。

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