新プラットフォーム採用で劇的に進化
ランドローバーのボトムレンジを担う「イヴォーク」が、8年ぶりに大きく生まれ変わった。
先代は同社の伝統を良い意味でカジュアル化するデザインが何よりのキャッチポイントだった。特に3ドアモデルが放ったSUVクーペスタイルは、現在のSUVブームを牽引するトレンドリーダーとなった。
対して新型イヴォークは自らが切り開いた市場を足場に、より基本に返ったコンパクトSUVへと深化。その立ち位置をいわゆる入門編から、「コンパクトなレンジローバー」と言える所までアップデートした。
まずはその概略から見て行こう。
仕様そのものは全17種類と多岐に渡っているが、エンジンラインナップは大きく分けて3つ。2リッターの直列4気筒ディーゼル直噴ターボ「D180」(180PS/430Nm)搭載モデルと、2リッターの直列4気筒直噴ターボ「P200」(200PS/320Nm)、その上級仕様となる「P250」(249PS/365Nm)、そしてこのガソリンエンジンにマイルドハイブリッドを搭載した「P300」(300PS/400Nm)の3種類となる。
そのデザインは一見キープコンセプトだが、先代が踏襲したコンセプトモデル「LXR」の彫刻のようなスタイルを一代限りとし、アウタースキンをスムージング。現行ランドローバー一族の美しさを、全面に押し出してきた。
薄く鋭いLEDヘッドライトとグリル。これを基軸に空力を意識して丸みを帯びたボディは、上へと続くレンジローバーやレンジローバースポーツを意識させる顔つきである。ちなみに現行モデルから5ドアのみとなったため全長は4380mmとなったが、1905mmに及ぶ全幅ゆえにその姿は堂々たるものとなっており、入門編のイメージはまるでない。
滑らかに流れるサイドビューをして“ミニ・ヴェラール”を意識するけれど、リアハッチがすとんと落とされたデザインはイヴォークらしさを表す点。大きいけれどコンパクト、日本で使うには十分なボリューム感だ。
ちなみに新型イヴォークは未来の電動化を睨んで新設計のPTA(プレミアム・トランスバース・アーキテクチャー)を採用しており、そのホイールベースは20mm延長された。またトランク容量も最大で1393リットルにまで拡大し、40:20:40の分割可倒式リアシートを備えている。
まず最初に乗り込んだのは、ランドローバー初となるマイルドハイブリッド仕様の「300P」(300PS/400Nm)。仕様は「R-DYNAMIC HSE」だった。
このMHEVは、モーターの存在を感じさせない。その乗り味はただただスムーズなのだが、それはシャシーも含めた全体に言えることで、電動化や近未来感を強く意識するというよりは、上級パワーユニットとしてのラグジュアリー感が特徴だと言える。
だがその出足に意識を集中させると、確かに低速でターボが聞き始める前に、極めてスムーズな発進加速が得られていると気づく。そして時速17km/h以下になると、エンジンを停止させる。このときモーターは、回生を行っているようだ。
機構的には48VのバッテリーとBISG(ベルト・インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)、そしてコンバーターでシステムを構築。残念ながら現在は燃料消費率を申請中で、燃費性能に関しては先代モデルを上回るということしかわからなかった。
P300で特筆できたのは、レンジローバーと呼ぶに相応しい操作感だった。
現代感覚で洗練されたSUVデザインを持ちながらも、その動きにはクロスカントリーを感じさせる温厚さがあり、なおかつ乗り心地にはトゲがない。
初期操舵における反応は21インチの大径タイヤを履きながらもおっとりとしていて、今風なハンドリングゲインは立ち上がらない。サスペンションはフワフワというよりも腰があるしなやかさが英国的。単なる乗り心地の良さではなく、ランドローバーテイストを味わうことができる。
またモードを「ダイナミック」へと変更してもややダンパーの伸びが規制される程度で、むしろ「リアシートの横揺れ感が収まって快適」だと、当日移動を共にしたスタッフからは好評であった。
そんな温厚な第一印象だった300Pだが、ダイナミックモードを選ぶと元気があふれ出して来る。アクセルの踏み込み量に対して予想以上に加速するのは、ターボの過給圧が上がった以上にモーターのトルクが効いているせいだろうか。
加速感の印象はランドローバーというよりもジャガーライク。ここに先代と通じる若々しさを表現しているようだが、上級仕様ということも含めパワーの出し方はもう少し洗練されてもよいと思えた。
2リッターのガソリンモデルは、「P250」(249PS/365Nm)の「First Edition」。
P300と比べてわかったのは、より操舵レスポンスがリニアになっていることだった。これは即ちマイルドハイブリッドを搭載しない分だけの軽さだが、お互いのキャラクターとしてもうまく棲み分けている。ちなみにその車重は1840kgで、P300に比べ110kgほど軽い。
動力性能的にもよりガソリンエンジン感が自然だ。出足のトルク感こそ300Pに一歩譲るけれど、カラッと吹け上がるターボの過給は素直に心地良い。そしてここに9速ATのピックアップが加わり、よりスポーティに走ることができた。
レンジローバーのたおやかさを求めるならP300。値段的な買いやすさも含めて、より本来のイヴォーク感を楽しみたいならばP250がお勧めだ。
オシャレSUVとは一線を画すオフロード性能
輸入車としてチョイスの主力となってきた感があるディーゼルエンジンは、残念ながら特設ステージでしか試せなかった。
試乗したのは「First Edition D180」(180PS/430Nm)。
加速性能はステージの短い直線でのゼロ発進加速しか試せなかったため、中間加速の粘り強さや伸びなどはわからず、瞬発的な印象しかない。体感的には圧倒的なトルクで爆発的に加速するというよりは、2リッター4気筒ターボとして適切なトルクを発揮する、堅実な印象だった。ちなみに本国には、よりハイパワーな「D240」がラインナップされているようだ。
また特設コースのモーグルでは、ランドローバー唯一のFFベース4WDながら、その血脈を感じさせた。
サスペンションは取り分けて長足という印象はない。高低差のあるモーグルを乗り越えれば対角線のタイヤを接地させたまま、ぐらりと車体を前傾させてどすん、と前輪を着地させる。
しかしモノコックシャシーはシッカリ感があって頼もしく、視界も良好。アプローチアングル(22.2°)、ブレークオーバーアングル(20.7°)、デパーチャーアングル(30.6°)が適切に取られていることもあり、モーグルビギナーでも車体底面を打つ心配なくこれをクリアできた。
ちなみに渡河水深は旧型から100mm増やされた600mmに及ぶそうである。
だが駆動力確保には、慣れが必要な部分もある。前輪が空転してから4輪のトラクションが確保されるため、今回のような急斜面かつスリッパリーな路面(というより台座か)では、臆することなくアクセルを踏んで行くことが求められる。
ただこの機構さえわかっていればあとは、電子制御がうまく姿勢やトラクションをコントロールしてくれる。
面白かったのは、レールの上を走るアトラクションだ。
ここで新型イヴォークは、「クリアサイトグラウンドビュー」機能をもって未来感溢れる運転技術を披露してくれたのだ。
これはフロントグリルと左右に配置されたカメラが作り出すバーチャル映像を見ながら運転するモード。可視化されたフロントタイヤを操り、路面を見ながら走る感覚は独特だったが、ともかく脱輪せずにレールを走りきれたのである。
その操作にはやはり慣れが必要だと思われるが、ともかく狭い路地では、1.9mの車幅がもたらすストレスを軽減してくれそう。縁石や障害物をクリアするための武器になりそうだ。
同じくイヴォークには、荷物を満載した際にリアビューカメラで後方映像を映し出すバックミラーを備える。まだまだその奥行き感がサイドミラーとキャリブレーションできていない印象は強いが、こうしたデジタルセーフティの洗練によって、今後SUVの安全性は確保されて行くことだろう。
果たして新型イヴォークは、大きな洗練を得た。当日は先代モデル(HSE)との比較試乗も行えたのだが、短い時間でもその差は歴然としていた。
ステアリングから伝わる振動透過性の少なさ。よりランドローバーらしい中身の詰まった乗り味。まだまだロングドライブで精査する必要はあるけれど、第一印象は非常によい。それは先代モデルが挑戦的なルックスで切り開いたSUVの民主化を、さらにプレミアムステージへと押し上げた進化であり深化だった。
[筆者:山田 弘樹/撮影:佐藤 正巳]