選挙特番は「企画力」の時代へ “当選しそうもない”候補者と同じく“企画力のない”特番の末路とは|プチ鹿島

誰の為の選挙か

子どもの頃から「選挙特番」の日は早めに風呂に入り、夕食を済ませ、準備万端でテレビの前に座ります。大人になってからはビールも用意する。あえて言うなら私は選挙よりも「選挙特番」が好き。速報性、喜怒哀楽、お祭り感。選挙特番にはテレビのおもしろさが全部詰まっているからだ。

よく考えていただきたい。当選か落選かという、人さまの人生でもかなり大事な瞬間をビール飲みながら見物できるわけです。党や候補者にとっては修羅場を見せてくれる。パッとしない開票結果を見ながら橋本龍太郎が「チキショー」と小梅太夫よりも早くつぶやいた瞬間は今でも忘れません。

しかし……。

出口調査や開票の進歩により現在の選挙特番は夜8時に大勢が判明するように「なってしまった」。

つまり出オチです。

この進歩は選挙特番好きとしては面白さがかなり半減してしまった。

そうなると速報性より企画の内容が勝負になる。テレビ東京の池上彰特番はそこを突いた。

速報性は捨て、池上さんと政治家の会話をメインにすることで「自分たちの番組から話題を発信」するシステムをつくった。これは他局よりもネットワークが弱い部分を逆手にとった見事な弱者の戦法だと思う。

速報性はなくても選挙特番は楽しめる。その非日常感や華やかさ、混沌さの中で画面から垣間見える政治家やキャスターの立ち居振る舞いを覗き見するチャンスなのだ。実はこれがいちばんの楽しみかもしれない。

それで言うと「二階俊博自民党幹事長VS池上彰」はハイライトのひとつだった。「選挙を一生懸命頑張ったところに予算を付ける」という二階発言をさっそくぶつけた。みるみる不機嫌になる二階のトシちゃん。低く唸り続けるトシちゃん。

そのうち池上氏との時間を会話や論議ではなく、ただただ時間が過ぎるのを待つという劇的な戦法を見せた。

これを見て視聴者は気づく。この光景は選挙特番だけでなく『今』の政治を象徴しているシーンでもあると。こういうのが生でうっかり見れるから選挙特番はたまらないのです。

あと速報性より企画と書いたが、ではもっとも安易な企画とは何か? それは私でも浮かぶ「小泉進次郎」モノだろう。

しかし今回も夜8時を過ぎて早々に各局が小泉進次郎を投入してきた。参院選なのに。

フジの「テレビ初公開 純一郎との野球秘話」というのもすごかったが、TBSも同じ時間帯で進次郎密着モノをやっていた。TBSはご丁寧にも夜9時台も小泉進次郎を投入。

密着中のアナウンサーが進次郎に「(遊説が多いので)喉とかどうしているんですか?」。

スタジオ明けになると「進次郎氏はとても気をつかう人でスタッフが髪を切ったらすぐ気づいた」とヨイショ連発。

ああ、筑紫哲也さんがこの風景をみたら何と言うのだろう・・・ 選挙前にジャーナリズムを捨てたならせめて選挙後には頑張ってほしい。

でも人気政治家をヨイショするやり取りをみて気づいた。先ほど「各局が小泉進次郎を投入」と書いたけど、それは選挙に弱い候補者が進次郎にすがる風景そのものだ。

次の選挙特番はどの局が小泉進次郎を早々に出すか注目したら面白いはず。

その「特番」はアイデアも主張もない「どうしようもない候補」だと判断できる。

そして静かにチャンネルを替えましょう。(文◎プチ鹿島 連載『余計な下世話』)

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